最強の欠陥回復スキルを持って異世界転生~死にかけの魔王を助けて惚れられました~

みょん

初めての出会いは魔王様

ドジ女神のシャレにならないミス

「……何よあなたは……っ!」


 目の前で血だらけになっている女性がそう呟いた。

 突然のことにビックリする俺を他所に、背後から数人の声が聞こえた。


「誰だあれは?」

「人間……ちょっとあなた、いきなりそこに現れてどうしたの!?」

「仲間じゃないのか!?」

「馬鹿野郎! 怪しいのは確かだが何も力を感じねえだろ!」


 一体これは何が起きているのだろうか。


 少し状況を整理しよう。

 俺の名前は東雲しののめ希空のあ、ついさっきまでただの平凡な男子高校生だった。


 帰宅中に交通事故に遭って死んでしまい、目の前に女神と名乗る女性が現れた。


『本当に申し訳ありませんでした!!』


 なんでも俺が死んでしまったのは手違いらしく、本来ならこんなことが起こるはずはなかったとのことだ。ただ、元の世界でそこまで充実した人生を歩んでいたわけではないので俺としてはどっちでも良かった。


 そんな俺に提案されたのがこうして異世界に転生することだったのだ。

 元の世界に未練がなかった俺はすぐに飛びついた。漫画やアニメが大好きだったので異世界転生というものに憧れが少なからずあったからだ。


『それではあなたに力を授けます。ただ、何が宿るかはランダムです』


 そこは選ばせてくれよ……とは思ったが仕方ないとして割り切った。

 俺が女神から受け取った能力はどんな傷でも癒し、どれだけのダメージを体に負っていても治癒することが出来るものだった。


 スキルを受け取り、女神の魔法によって転移させてもらったことで俺の異世界での生活が始まる……というところで、今目の前の光景が広がっているわけだ。


「……これは一体」

「……ごほっ!? ごほっ!!」


 漆黒の長い髪に歪曲した角を生やした女性が苦しそうに咳をした。咳をするごとに大量の血を吐き出し、今にも死んでしまいそうな重傷を負っていることが分かる。体は傷だらけだし、お腹に至っては大きな穴が開いていたほどだ。


「あなた、すぐにこちらに来なさい!」

「そうだ! そいつは魔王だぞ!?」

「魔王!?」


 魔王って言うとあの有名なアレか?

 大体の物語で悪役として描かれ勇者に倒される役目を持つ存在……その魔王がこの目の前の美女だっていうのか? 確かに頭に生えた角はそれっぽいが……俺はすぐに目の前の女性に駆け寄った。


「なにを……するつもり?」

「ジッとしててください」


 魔王? んなもん知るかよ。

 この世界の情勢については全く知らない。それでも目の前で女性が苦しんでいるのを黙って見過ごすことは出来ない。俺には彼女を助ける力がある……だからこの選択が何を齎すか分からないけど、俺はこの人を助ける!


「パーフェクトヒール!」


 頭の中に浮かんだスキルを口に出した。

 その瞬間、女性を光が包み込み……そして光が晴れた時、女性の体には一切の傷がなく苦しそうな表情も全く見られなかった。


「これは……何をしたの?」


 呆然とする女性だが、俺はまず彼女が無事だったことに安堵した。

 だが……何か体の中から力が抜け落ちていくような感覚があった。これは何だと思っていると、今度は俺の体が光に包まれ……そして、気づいたら一つの家の前に居たのだった。


「え?」


 何が起きた?

 呆然とする俺の前に再びあの女神が現れた。


『申し訳ありませんでした! 転移させる場所を間違ってしまって……それに、それにえっと……その……!』


 何だろう……凄く嫌な予感がするんだが。


『あなたの完全治癒スキルなのですが、一回きりしか使えないモノでした!!』


 ……………。


「はあああああああああああっ!?」


 必死に頭を下げる女神の目の前で、俺の叫び声が響き渡るのだった。

 元の世界に未練を無くし、それならと飛びついた異世界での生活……それはさっそく暗雲が立ち込め始めた。


『ですが! 家は用意しましたし、食べるものに困らないように食材が無限に生成されるマジックアイテムがありますので……』


 それは嬉しい……嬉しいけども!

 流石に殺されてしまった対価としてはしょぼすぎるのでは……。


 これが俺の異世界転生の始まり……不安ばかりだけど大丈夫なのか?





【あとがき】


異世界ファンタジーの経験値は全くないのでのんびり書いていきます。

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