第170話 上位魔女の実力

 魔女達全員をレベル1に戻す。


 サバト様とアンナのおかげなのか、誰一人拒否する魔女はいなかった。


 ただ、レベル1に戻って起きたのは、全員が猫の姿に変身できなくなったという事。


 レベルがある程度上がらないと黒猫姿にはなれないみたいだからね。


 陸式のメンバー達に迎えに来てもらい、その後ろに魔女を乗せて、アクアソル王国を目指す。


 うちのメンバー達の中でも一番強い陸式のメンバー達も魔女達には恐怖を感じるみたいで、数百人に及ぶ魔女達に震え上がっていた。


「魔女の森に行って、魔女を大量に連れて来た人はお前が初めてだぞ。ソラ」


「お父さん……俺もそうしたかったわけじゃないですよ。一応攻撃されない限り、攻撃はしないって約束してくれてますから」


「魔女に約束を取り付けるとは…………我が息子ながら恐ろしいな」


「たまたまですけど……それよりもレベル10になった魔女軍団の方が恐ろしいです」


「ああ。それが一番恐ろしいな。すぐに上げるのか?」


「サバト様があまり時間がないと言っていたので、全力で上げようかなと」


「そうか。ならすぐだな」


「新メンバー達のレベル上げも兼ねてやる予定です」


「分かった。こちらはこちらで戦いの準備を進めておこう」


「お父さん……ありがとうございます」


「俺に出来る事なら何でもするさ。今更というかも知れないが、これから父親らしく頑張って行こうと思うからな」


 少し恥ずかしそうに話すお父さんに、ようやく俺も一歩近づいた気がした。


 結婚したからなのか分からないけど、まだ生まれた訳でもない自分の子供がいたらなんて考えるようになって、お父さんが俺を匿っていた事に対して真剣に向き合えるようになった。


 深く話さなくても、俺がこういう事があったと話しただけで察してくれて、サバト様が時間がないという言葉から、それが『戦い』であると想像し、その準備を進めると話してくれたお父さんだ。仲間とはまた違う心強さを感じる。


 その日の大移動が終わり、アクアソルにある『銀朱の隠れ家』にて魔女達と成人した新人達の歓迎会を行ったけど、意外にも今の子供たちは魔女があまり怖くないらしくて、その理由としてアンナがよく遊んでくれてたみたいで、身近に感じるようになったみたい。


 新しく10歳になった新人達のレベルを1に戻し、それぞれいつもの職業をみんなに割り振る。


 そういえば、魔女はアンナが最上級職能なのだが、他の魔女達は意外にも上級職能だった。


 それでサブ職能を中級職能までしか設定出来なかったのだが、彼女達はローグ職能を継げるだけで非常に強力な力だとアンナは言っていた。



 次の日。


 早速魔女達と新人達で、アクアソルの『王家のダンジョン』にやって来た。


 全員を連れて来て早速1層の魔物を狩り続けて、数十分で全員がレベル9となる。


 魔女達はともかく、新人達には強いレベルアップの恩恵に出来る限り躓かないように、先輩達からアドバイスや、レベルアップの間に身体を動かしてこれからの自分達の身体に慣れて貰った。


 元々騎士を育てていたアインハルトさんの教えは、群を抜いて効果が高く、おかげ様で新人達は苦労する事なく、自身の動きに自信を持てるようになった。



 次は2層。


 相変わらずの守護騎士が佇んでいて、圧倒的な雰囲気に新人達が畏縮してしまうのは仕方ない事だと思う。


「ソラ~ここは私がやる~」


「ん? アンナが?」


「魔女達のレベル上げだから~私も頑張る~」


「そうか。じゃあ、アンナにまた初打撃を――――」


「いらない~私、一人・・でいい~」


 そう言い残したアンナがひょいひょいっと前に歩いて行く。


 アンナが強いのは知っているけど、守護騎士は少なくともフロアボスなのだが……それを一人で本当に大丈夫なんだろうか?




 心配する事は何もなかった。


 アンナが黒い触手を繰り出して、走って来た守護騎士を一撃で吹き飛ばす。


 普段はあまり動かず、戦いの姿は滅多に見れないので実はまともに戦うのは初めてみるのだが、アンナが両手を不思議な形で組んで聞き取れない不思議な言葉を話し始める。


 すると彼女の周囲に真っ黒い雷の玉が複数現れ、彼女の合図と共に守護騎士に向かって放たれた。


 守護騎士が吹き飛んだ場所から凄まじい轟音と共に爆風が放たれ、彼女の綺麗な長い黒髪を勢いよくなびかせるには十分だった。


 爆風が止み、守護騎士が吹き飛ばされた場所には塵一つ残らず、巨大なクレーターがいくつも出来上がっていた。


「終わり~」


 ただのピクニックに来たと言わんばかりに軽い足取りで帰ってくる彼女に、言葉には出さないけど同じ魔女達から新人達まで、顔が真っ白になるのが分かる。


「お帰り。アンナの戦いって初めて見たよ」


「ん~そうだったかな? でもソラくんがあまり戦いに連れてってくれないから~今すぐにでも帝国を潰してこようか?」


「いや、それはやめよう。アンナ」


「ん」


 さらっと凄い事を言うアンナがとても頼もしい。


 一瞬でレベルが10になった魔女達と新人達を連れて、1層で高まった身体能力になれるために数時間ほど狩りに勤しんで貰った。


 上級職能のはずの魔女達は、とても上級職能だけとは思えないくらい強くて、世界の人々が魔女を恐れている理由がよくわかった。


 同じ上級職能レベル10同士でも、魔女一人を相手するのには、少なくとも50人くらいいないと厳しそうだね。

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