第169話 生き残る術
暫く応接室のような部屋で、紅茶やお菓子を食べながらフィリアが帰ってくるのを待つ。
それにしても黒猫に変身している魔女達がみんな同じ姿なのが凄く気になる。
そんなどうでもいい疑問を不思議がっていると、一匹の精霊が窓の外からこちらを覗いていた。
何となく手を振ってあげると、恥ずかしそうに壁に隠れてしまった。
「あら、とても可愛らしい子だね?」
「母さん? あの子って精霊さんなんですか?」
「そうみたいね~ただ、普通の精霊とは違って、精霊の理から外れた精霊さんみたいだね」
「精霊の理から外れた?」
「ええ。言わば魔女達の精霊って感じ?」
母さんが伝えたい事が少しだけ分かる気がした。
扉からノックの音が聞こえて、開いた外から美しい金髪が見え始め、俺の嫁さん――――フィリアが入ってきた。
「みんな、お待たせ~!」
「フィリア!」
「ただいま。ソラ」
「大丈夫だった?」
「うん! 問題ないよ! サバト様はとても優しかったから! サバト様からもう一度会いたいって」
「分かった」
フィリアの言葉に黒猫達が反応して一斉に移動を始める。
黒い色の川のように黒猫達が流れていく。器用に誰にもぶつからずに部屋から外に出ていく。
俺達もその流れに沿って、もう一度魔女王様――――サバト様に会いに向かった。
◇
本日二度目のサバト様。巨体から見下ろされる感覚はやっぱり不安を駆り立てるんだね。
「ソラ」
「はいっ」
「お前には一つ使命を与える」
「使命ですか? どういうものでしょう」
「ここにいる黒猫の魔女達を全員レベル10にしな」
「えっと。それは俺のスキルを知っていての事ですね?」
「ああ。そうさね」
「分かりました。ただ一つ聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「目的を聞いてもいいですか?」
「――――――人間を絶滅させるためさ」
淡々と話し合っていたサバト様から、放たれた言葉に驚かずにはいられなかった。
人間を絶滅させる……そのために魔女達のレベルを10にするのは不安でしかない。
「サバト様。俺は人の代表としてもここに来ています。俺は人が大好きですし、これからも仲間を守って生きていきたいと思ってます」
「ふ~ん。それは私の命令を無理だと言うのかい?」
「いえ。無理ではなく、納得してそれをこなしたいんです。どうして人間を絶滅させたいのか教えてください」
サバト様の8つの目から怒りのような感情が見えるが、それよりも感じるのは――――何故か深い
「くっくっ、くーかかかかか! ただの美少年だと思っていたら、なかなかどうして~肝っ玉の座ったのぉ~」
彼女の笑い声が周囲に響くと、大地が揺れて立っていた場所すら揺らぎ始めた。
サバト様の周囲に座っていた大勢の黒猫は「女王様が笑った~女王様が笑った~」とアンナに似た声のトーンで声を上げた。
「少なくとも母が精霊王になった者の息子だけのことはある。だが、それだけの器ではないのぉ…………『銀朱の蒼穹』のマスターということかい」
「はい。俺を支えてくれる仲間はたくさんいますから。俺も彼らを支えたいと思いますから、出来れば人類の生きる道を選びたいんです」
「くっくっくっ。よかろう。だが一つ勘違いしているのじゃ」
「勘違い……ですか?」
「そうじゃ。お前にこの世界の
「何に……と言われると、人……です」
「お前は一つ大きな勘違いをしている。そもそもお前の目に映って見えるのは、人間ではないのだ」
「えっ!?」
サバト様の言葉に俺だけなく、この場にいたすべての者達が驚く。魔女達も驚くくらいだ。
「サバト様? 人が人間じゃないってどういう…………」
「本来人間というのは、精霊が寄り付かない人種の事を指すのじゃ。この世界に精霊が寄り付かない人種は存在しない」
それは俺も感じている。
この世界の大半の人には、何らかの精霊が付いていて、愛される人は沢山の精霊が見守っていたりする。
「ですが、この世界の人達は精霊に愛され…………まさか」
「この世界の人々は、人間じゃないのさ」
「え!? 一体どういう事ですか?」
ゆっくり目を瞑るサバト様。
「これ以上知りたいなら、先にやるべき事をやりな! あまり時間が残されておらぬのでな。お前はお前が果たすべき事を果たして来るがよい」
「俺の果たすべき事…………もし、全てが終わったら教えて頂けるのですか?」
「教えなくても、お前自身が勝手に知る日が来るのさ。そう遠くない未来にな。もう一度言っておこう。ここにいる魔女達を全力でレベル10まで上げてこい。それがお前達が
それが真実なのは何となく分かるというか、なぜかサバト様の瞳を見つめているとそう信じられる気がする。これもきっと精霊眼の力なのかも知れない。
ただ、人間を絶滅させるのと僕達が生き残る事が全く繋がらず、悶々とした気持ちが残る中。
俺の腕に触れたフィリアは、サバト様を信じていいと思うと俺に囁いた。
もしかしたらフィリアにはその理由とやらを知っているのかも知れない。
いつかその理由を知る日がやってくるというサバト様の言葉と、フィリアの決意の心が見える瞳を、俺は信じる事にした。
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