第154話 蹂躙する暗殺者
ブルーダーがアイザックと戦う直前。
「ブルーダー」
「シュベスタ。敵の魔導士隊をお願い」
「…………」
シュベスタは首を横に振る。
王城で待ち受けている脅威を感じているシュベスタは、ブルーダーと脅威の戦いを拒否する。
「大丈夫。俺は絶対に負けない」
「でも…………」
「正面から戦えば、絶対に勝てないのは知っている。でも、俺には俺の戦い方がある。絶対に帰るから、魔導士隊をお願い」
「…………」
仮面越しから彼女の悲しむ顔を想像出来るブルーダーは、彼女を抱きしめる。
「心配しないで。でもこのままでは向こうの戦力に押されるかも知れない。それに向こうの最強戦力はまだ残っている。もしもの時の為に、危険分子は除いておきたいんだ」
「知っているよ…………でもあそこにいるのは…………」
「恐らく最強騎士の一人だろうね。アクアソル王国の弱かった騎士とは比べものにならないと思う。だから、俺は俺の戦い方で勝つ。兄さんが授けてくれた力で」
懐から『竜麟糸剣』を取り出すブルーダー。
「だから、俺を信じて欲しい」
「…………うん」
仕方なく了承したシュベスタは、「死んだら許さないから」と言い残し、その場をあとにして。
「ああ。絶対に死なない」
◇
リントヴルム家の鎧に身を纏っている帝国軍は百人の魔導士隊と三百人の上級騎士で構成されている。
彼らは現状帝国中でも最強を誇るアイザック軍であった。
それでも転職士であるアースのアドバイスのおかげで、決して自分達の力が最強だとは思わず、油断する事なくアポローン王国に対峙している。
百人いる魔導士が代わる代わる王国に魔法を放つが、向こうからの迎撃魔法に阻まれて焦って行く指揮官だった。
そんな彼らに絶望が降り注ぐ。
相手が必死に迎撃していると思われていた。
決して油断していた訳でもなかった。
定期的に続いていた帝国の魔導士隊の魔法が止まる。
「ん? どうした! 攻撃の手を緩めるな!」
指揮官が
しかし、その返答が帰って来る事はなかった。
「お、お前ら! どうした!」
指揮官の問いかけに、魔導士達は微動だにしない。
その異様な雰囲気に、周囲の兵士達も魔導士達に注目する。
次の瞬間。
その場にいた魔導士百人の首が地面に落ちる。
「な、なっ!?」
驚く指揮官だったが、次の瞬間、視界が真っ黒に染まる。
何が起こってるのか認識もできず、その命は刈り取られた。
「て、敵だ!」
一人の兵士が叫んで、騎士達が剣を構えるが、見えない敵に次々その命を散らせていく。
最強と思われた帝国軍はあっという間に制圧されていった。
◇
「初めまして。私は『シュベスタ』と申します」
「ち、近寄るな! 化け物!」
帝国軍の指揮官テントの中。
恐怖で失禁した男の匂いがテントの中に広がっている。
「生き延びる方法を教えましょう」
「ほ、本当か!?」
「はい。我々『シュルト』に協力してくださるなら、命は助けて差し上げます」
「い、いいとも! 生きれるなら何でもする! だから助けてくれ!」
「ここに来ているリントヴルム家の兵は、リントヴルム家ではないですね?」
「あ、ああ! 我々は帝国軍だ! アイザック様の軍なんだ!」
「なるほど…………どうしてリントヴルム家の鎧を?」
「リントヴルム家のせいでアポローン王国との戦争が続けられなくなって、今回の作戦を宰相様から提案されて請け負ったんだ! 本当だ! 信じてくれ!」
「裏に帝国の宰相がいるのですね」
「そうだ! アポローン王国に多大な被害を与えたら、そのまま引いて、両軍をぶつけさせる作戦だったんだ! その証拠にここから進んだ岩場にも援護部隊が残っている! 少数だが、火の魔法で多くの町を襲う予定なんだ!」
「分かりました。どうやら本当の事ですね。正直に話してくれた事、感謝します」
「た、助けてくれるんだな!?」
「もちろんです。約束は守ります。ですがもう貴方の居場所は帝国にはありません。このままアポローン王国に逃げるといいでしょう。これは餞別です」
シュベスタは金貨一枚を男に投げ渡す。
「い、いいのか!?」
「ええ。貴重な情報でしたから。ですが、一つだけ知っておいてください」
「なんだ!?」
「この先、私の事を誰かに話した場合、貴方の命はすぐに刈り取られるでしょう」
「わ、分かった! 誰にも話さない! 絶対にだ!」
「ええ。ここでその武装を全て解除して逃げてくだされば、誰も手を出さないと思います」
「あ、ありがとう!」
そして、シュベスタが消えた事を確認した男は、すぐに武装を解除して王都アポリオンに逃げ込んだ。
数十分後。
リントヴルム家の鎧で偽装していた帝国軍から離れた岩場に残っていた少数の帝国軍は、自分達に合図が届くまで待機していた。
「あれ? お前、顔が変だぞ?」
「ん? お前もだぞ?」
「あれ?」
「え? なんで俺の視界が下から……?」
シュベスタによって、隠れていた兵士達も全員処分され、帝国のアイザック軍は全滅した。
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