第151話 突然始まる戦いの正体

 爆発音が響いたお城の方はルナちゃんに任せて、俺とフィリアは真っすぐ王都の外を目指す。


 賊が隠れられそうな森は王都の中のドブハマ家の周囲のみ。


 王都の外には――――俺が想像だにしなかった光景が広がっていた。


「あれって…………」


 一緒に城壁から例の一団を見るフィリアが呟く。


 驚くのも無理はない。俺だって驚いているから。


 俺達の視線の先にあったのは――――


「どうして帝国軍が……」


 暗い夜だが月明りが多く、帝国旗がなびいている。


 さらに目立つモノ。


 それは――――――


「リントヴルム家の鎧…………」


 帝国軍が身にまとっている鎧は、紛れもなくリントヴルム家の鎧であった。


 だが、それはありえない。


 リントヴルム家の兵士はほぼ全員がお父さんの下か領地にいるはずで、こんなに早く・・ここにこれる訳もない。


「さすがミリシャさんだな。ここまで予想通りだったなんて」


 実はこれもミリシャさんの予想通りだったりする。


 ただ、攻めてきた時期があまりにも早すぎるのに驚いた。


 帝国軍がリントヴルム家の鎧を身にまとっている理由には二つあって、一つはアポローン王国の王様はリントヴルム伯爵であるお父さんと交流がある。


 その交流は決して悪いモノではないため、こうしてリントヴルム家の鎧を身にまとっていれば、混乱させることができるのだ。


 さらにもう一つは、全ての罪をリントヴルム家に被せる為。


 そうすることによって、もし戦いに負けてもアポローン王国の肩を持つリントヴルム家を、アポローン王国から攻めさせる口実を作れるからだ。


 特に現状の守護騎士の半数が戦えない今が大きいのだ。


 それにしても今の爆発…………向こうの布陣から思うに、魔導士部隊かな?


 アクアソル王国との戦いでは全然いなかったのに、結構大勢いる気がする。


 帝国らしく人材の数が多いのだろう。


 そんな事を思っていると、向こうから魔法陣が展開される。


 あれは!?


【漆式! 全員上空からの魔法を迎撃!】


 すぐに王都からも多くの魔法陣が展開される。


 数秒後。


 お互いの魔法陣から数多の魔法が放たれ、王都の夜空を爆発で包んだ。


 爆発の轟音が王都に鳴り響き、王都から住民達の叫び声が鳴り響く。


「まずいな……フィリア。向こうの魔導士達を攻めよう」


「うん!」


 俺とフィリアが城壁から飛び降り、真っすぐ敵軍に走って行く。


 しかし、俺達の前を塞ぐ人達がいた。


「おいおい、この先は行かせないぞ」


 凄まじい威圧感を放つ大男が、俺達を睨む。


 その風貌からとある男を確信する。


「――――ローエングリン」


「おう。さすがに俺様を知っているのか」


「ああ」


「くっくっ。そうか。お前のいう通りだったなー」


 そう話すローエングリンの後ろからとある男が前に出てくる。


 ローエングリンほどではないが、中々迫力のある男だ。


 ただ、どこかで会った事ある?


「久しぶりだな…………顔は隠しているが、お前、ゼラリオン王国の転職士だろ!」


 ん?


 ゼラリオン王国の転職士?


 この人って…………まさか。


「ようやくだ…………ようやくお前に追いついたぞ! 王国の転職士!」


 彼から放たれる殺気は、以前遠くから見かけた彼とは全く似つかないものだ。


「アース。姫は俺様が貰うぞ?」


「もちろんです。さすがに姫は俺達じゃ勝てませんから」


「くっくっ。お前に騙されて・・・・良かったよ。あんな化け物だとはな」


「ローエングリン様が化け物呼ばわりするなんて、本物なんですね?」


「ああ。あれは正真正銘の化け物だな。戦うのが楽しみだ」


 どうやら、彼らは元から俺達を嵌めるつもりだったらしい。


 さすがにここまではミリシャさんも読めなかった。


 というか俺達の中で、誰一人想像出来なかった。


 消えたローエングリンが、まさか、この地を狙っていたのではなく、帝国の転職士と一緒にいたなんて……。


【みんな、敵軍は帝国で、以前戦ったことがある転職士だったよ。雰囲気からレベル8を超えている。これから帝国軍の魔導士隊の魔法が続くだろうから漆式はそのまま迎撃。多少の被害は仕方ない。ルリくんは急いでキュバトス様とリサ様と王都に戻ってくれ。ルナちゃんはルリくんが王都に着いたらすぐに敵陣の魔導士達を狙って!】


【【了解!】】


「おいおい、念話か? こそこそ喋ってないで、戦おうぜ!」


 ローエングリンがとんでもない速さで剣を振るう。


 それに反応したフィリアが双剣で応戦する。


 たった一瞬の出来事だが、十合に及ぶ剣戟の音が響く。


「クハーハハハ! いいぞ! それでこそ最強と名高いだ!」


「貴方達が勝手に姫と呼んでいるみたいだけど、私は姫なんかじゃないわ」


「呼び名なんてどうでもいいじゃないか! 人類最強の座を掛けて戦おうぜ!」


「あまり乗り気はないけれど、向かってくるのなら」


「相手して貰おう! ここにたどり着くまで苦労したんだからよ!」


 ローエングリンの強烈な剣戟でフィリアが吹き飛ばされ、それを彼が追っていく。


 俺の隣を通り過ぎるローエングリン。


「化け物を作ってくれて感謝するぜ、王国の転職士」


 …………。


 フィリアは化け物なんかじゃない。


 消えていく二人を背に、俺は帝国の転職士とその仲間達を前にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る