第150話 ドブハマ家の失墜

「120!」


「俺は125だ!」


 ホールの入口前に立つと、中から男達の声が聞こえてくる。


 キュバトス様と顔を合わせると納得したように頷いてくれる。


「ここからはキュバトス様にお願いします。私はこのままドブハマを捕まえます」


「分かった。この場は俺が押さえよう」


 そう話したキュバトス様が扉を乱暴に開ける。




「王国守護騎士の一人キュバトスだ! 違法な奴隷売買で全員逮捕する!」




 ホール内の全員の視線がキュバトス様に集まる。


 すぐに兵士達が中に雪崩れ込むと、怒声が鳴り響いた。


 僕は案内役の漆式のメンバーに連れられ、廊下の向こうに移動する。


 するに階段を上ると、豪華な部屋の中から笑い声が聞こえてくる。


「ガーハハハハッ! 今日も楽しいの~」


「そうですな~そういや、今日は随分と上玉が入ったらしいですね?」


「ん? 初耳だな。そんな上玉が?」


「うちの部下が言うには百年に一人の美女だとか」


「なに! それを早く言え! もう商品として出されているかも知れんな……ちっ、今すぐ向かうぞ!」


 すると豪華な部屋の扉が開くと、中から巨漢が出てくる。


「なっ!? なんだお前は!」


「初めまして。私は『ヒンメル』と申します」


「ヒンメル? 初めて聞く名だが? 衛兵達はどうした! 何故誰もいない!」


 直後、巨漢の後ろに待機していた鋭い視線の男が僕に剣を仕掛けてくる。


 中々早いけど、フィリアやエンペラーナイトほどではないかな?


「っ!? 俺様の一撃を防ぐか!」


 余程自信があったのか……。


 男の剣を握り壊し、すぐさま腹部に打撃を叩きこむ。


 鈍い音が響き、ぐったりとした男を廊下に投げ捨てる。


「ひぃ!? ベランがたった一撃!? 守護騎士とも戦えるベランが!?」


 この男が守護騎士と?


「ご冗談を……下を制圧なされたキュバトス様は、こんな男など一瞬で倒せるでしょう」


「キュバトスだ!?」


「ええ。貴方も今日で終わりということです」


「ふ、ふざけるな! 俺様がここで終わるはずなど!」


 その時、廊下の奥から一人の男があがってくる。


「いや。お前は終わりだぞ。ドブハマ」


「なっ! キュバトス!」


「ヒンメル殿。下は制圧した。ドブハマも貰い受けよう」


「かしこまりました」


「ふざけるな! 俺様は天下のドブハマぞ! 貴様らに――――」


「ドブハマ。この紋章が見えるか?」


 キュバトス様が紋章を前に掲げる。


「そ、それは! 陛下の!?」


「そうだ。今回の出来事は陛下の命令の下、行われている。だから、お前ももう終わりだ」


「バカな! そんなはずは…………陛下は妹君がどうなってもいいのか!」


 陛下が直接手を出せない理由。


 それが妹君であるリサ様を人質に取っていた事か。


 ただ、リサ様は『地底ノ暁』になっているはずだが……。


 その時。


「私がなんですって?」


 キュバトス様の後ろからリサ様がやってくる。


「ルグリッサ!? なんでお前がここに!」


「今まで散々人質を取ってくれたわね。でももう助け出してるから問題ないわ。ドブハマ! 貴方もここまでよ!」


「く、くそ!」


 部屋の中に逃げ込むドブハマだったが、彼よりも素早くキュバトス様が部屋の中に入っていく。


 守護騎士の高いレベルが伺えるね。


「大人しくするんだな」


 キュバトス様がドブハマの腹部に強烈な打撃を叩きこむ。


 普段からの恨みが籠ってる気がする。


 一撃で口から泡を吹きながらドブハマの巨体が倒れ込んだ。


 身体は大きいのに、めちゃくちゃ弱いんだな。


「ヒンメル殿。此度の協力感謝する」


「いえ、こちらにもそれ相応の対価がありますから」


「そうか……後日王城を訪れて貰うように言伝を預かっている」


「かしこまりました。近々――――」


 ドブハマ家の攻略が簡単に終わったと思われたその時。


 遥か遠くから屋敷まで届くほどの轟音が鳴り響いた。


「っ!? これは一体?」


「キュバトス様! お城から煙が!」


 リサ様が指差した窓の向こうに見えるお城から大きな火が立ち昇る。


【ソラお兄ちゃん! お城から火があがってるよ!】


 ルナちゃんからも報告が届く。


【屋敷はキュバトス様に任せよう。全員お城に急行! 王様達の命を最優先に!】


 屋敷の至る所から漆式達が屋根を伝いお城に向かっていく。


「キュバトス様。リサ様。屋敷の事はお任せします。ブルーダーはここでリサ様の護衛を」


「はい」「分かった」


 廊下の奥から一人の足音が聞こえてくる。


「団長。私もいつでも行けます」


 シュルトの衣装に身を包んだフィリアの姿が見える。


「フロイント。ではお城はシュベスタに任せ、私達は元凶を叩きましょう」


「かしこまりました」


 右手に取り出した剣を壁に軽く突き刺す。


 次の瞬間、壁が大半が紙切れのように崩れ落ちて外に出られるようになった。


「では行こう」


「はい。お供します」


 僕とフィリアは共に爆発の元凶に向かって、走り始めた。






「…………『シュルト』。決して敵対してはならない一団だな」


「ですね。キュバトス様。私達は私達が出来ることをやりましょう」


「そうでございますね。ルグリッサ様。お供します」

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