第141話 潜入開始

 運ばれた場所は、どこか冷たい空気の場所だった。


 地下かな?


土竜モグラ


紫龍シリュウ


ケヤキ


「入れ」


 リーダーっぽい男と、扉の向こうとの言葉を交わすと、扉を開いた。


 随分と重そうな扉が開き、その中に急いで入って行く。


 逃げ込むように入ると扉がすぐに閉じられた。


「そいつらか?」


「そうだ。どこかのお金持ちなのだろう」


「ふっ、ここに捕まるなんて、運の悪いやつらだな」


 う~ん。


 聞いていたような組織ではない?


 王国と対立している組織はわりと義賊・・っぽい所があると聞いている。


 だけど、ここは真逆に思える。


 運ばれた場所で牢の中のような場所に入れられた。


 どうやらフィリアとは別々に入れられたらしい」


「お、おい! こっちの女、めちゃくちゃ可愛いぞ!」


「まじかよ! これは大当たりだな!」


 俺達を運んだ人達が喜ぶ声が聞こえる。


 変な事をされそうなら、ここで起き上がるしかないが…………。


 フィリアが起きない事をみると、変な事はされてないらしい。


 鍵がかかる音がして、俺は目が覚めたふりをする。


「ん…………っ!? こ、ここは!?」


 やっと周りを見渡せるようになった。


 俺が入れられたのは牢ではなく、檻の中だった。


 すぐ隣にはフィリアが入れられた檻があって、檻の中のベッドに丁寧に置かれている。


「フィリア!」


 俺の声に反応して起きるふりをするフィリア。


「ん……ソラ…………ソラ!?」


「フィリア! 怪我はない?」


「う、うん! 特に痛いところはないわ」


「よかった……」


 その時、俺の檻に向かって鉄棒が投げられ、檻の棒に当たり大きな金属の音を響かせた。


「おいおい、お前ら、今の現状が分からないのか?」


 鉄棒を投げた男は、部屋の奥で豪華な椅子に座って、嫌そうな笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「あ、あの! どうして俺達を!?」


「…………」


「こんな事はやめてください! 俺達はただの商人なんです!」


「へぇー商人の割には全く商売ないように見えるが?」


「そ、それは……まだ目利きの途中で……」


「ふぅ~ん。まあそんな事はどうでもいい。ここから生きて出たいか?」


「もちろんです!」


「くっくっくっ。では選ばせてやろう。全財産と女を置いて行くなら生かしてやろう」


「フィリアを!? む、無理です!」


 またもや鉄棒が投げられ、大きな音を立てて威圧してくる。


「おいおい、お前は自分の立場が分かってないみたいだな? このまま殺されたいのか?」


「い、いいえ…………」


「ソラ…………」


 フィリアが不安そうに俺を見る。


「…………分かりました」


「ソラ!?」


「くっくっ。商人ともなれば、現実を理解出来るだろう。さっさと置いて行きな」


「ソラ! お願い! 私を捨てないで!」


 俺が身ぐるみ全てをその場に置くと、檻が開かれ、男達に目隠しされ、また運ばれた。


 遠くから泣き声のフィリアが俺を呼ぶ声が鳴り響く。


 それと一緒に嫌らしい声で笑う男の声も聞こえて来た。




 ◇




 男達にどこかの裏路地に捨てられ、暫くたって目隠しを取った。


 ふぅ……。


 いくら演技・・でも、泣き声のフィリアは見たくないものだ。


【フィリア。どう?】


【うん! こちらはばっちりだよ~】


 どうやら大成功らしい。


【ボスと言われていた男は、このまま私を売り飛ばすって。傷つくと値段が下がるって手は出してこなかったよ】


【それは良かった。変な事したらこちらの計画が全部パーになってしまう所だったよ】


 この街に入った時点から、俺達は付けられていて、この人達が例の組織なのか、どういう関係なのか調べるためにわざと捕まえられたのだ。


 フィリアともなれば、いつでも双剣を取り出せるし、双剣を取り出さなくても魔法を使えば、エンペラーナイトクラスじゃなきゃまず勝てないだろうからね。


「ラビ! ルー!」


「ぷぅー!」


 今回の作戦のために一度精霊界に戻って貰っていたけど、再度召喚する。


 ラビとルーは二人で合体魔法を使うようになって、特殊魔法が色々使えるようになっている。


 その中で、俺の仲間であるフィリアを探す【レーダー】という魔法を発動させる。


「ぷいぷい!」


 場所を見つけたらしく、そこに急行する。


 遠目から普通の家に見えるが、その家から地下に進むと先程の連中のアジトになっているんだな。


 暫く観察していると、強面の男達が複数人出入りする。


 やはり入口で間違いないね。


 ただ、ここまで凝っている組織がここ一つとは思えない。


 それを一網打尽にするために暫く潜入する事にする。


 それにフィリアを売る・・と言っていたから、裏の取引なんかもありそうなので、そこを襲撃したい。


 後はアンナとルナちゃん達の報告を待つ事にした。




 ◇




「金髪に金色の目か。珍しいな」


「…………」


「おいおい、そんな怖い顔すんなよ。お前は自分の男から捨てられたんだぞ?」


「くっ…………」


「かっかっかっ! 美人が台無しだな! 商品価値が高すぎて手が出せないのが勿体ないな。いくら俺様でもボス・・のノルマは無視できないからな。最近王国の締め付けがきつくてな。まあ、お前もこれからどこかの貴族様の奴隷になって、一生可愛がって貰いなー」


 フィリアにそう言い残した男が部屋を後にした。

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