第122話 束の間の休暇

「えっと……俺達ばかり休んでていいのかな…………」


「いいのよ。寧ろ、ソラくんが向こうに行ったら、あの子達が気を使うわ」


 現在、弐式、参式、肆式のメンバーは全員で『王家のダンジョン』一層でレベル上げを行っている。


 既にレベル10なのにどういう事かというと、俺のレベルを上げるために、得た経験値を全て俺に送り続けている。


 これを三日くらい繰り返したいとの事だ。


 その前に休暇を取って欲しかったのに、みんなやる気満々でダンジョンに入ってしまった。


 何故か、俺達は来なくていいらしい。


 一時間置きに出現する二層のフロアボスこと『守護騎士』もきっちり狩っているようで、一時間置きにとんでもない量の経験値が入って来る。


 育成向きの魔物のため、収穫物はないので、何も手に入らないけれど、こうして経験値を大量に送ってくれるだけで本当にありがたい。


 俺達は一足先に休暇に入る事となった。


 二人を除いて。




 ◇




 ◆フィリアとアインハルト◆



「アインハルトさん。今日はこちらのわがままに付き合わせてしまってごめんなさい」


「なに、若者が強くなりたいと願う事を応援するのも、騎士冥利に尽きるというものだ」


 王城訓練所に大きな木剣を持つアインハルト。


 それに向かって両手に木剣を持つフィリア。


 アンナの力で、フィリアは自分の能力を一切活かせていない事を知った。


 彼女の極スキルは、剣術を極めれば極めるほど強くなる。


 それがまさか等倍で、持っている意味が全くない事に本人も驚いていたのだ。


 ただ、彼女はどこかその理由を知っていた。


 自分は一度も剣術を習った事がない。


 以前、同じ剣聖であるアビリオに少しだけ教わった事があるが、あれは教わったというより、遊ばれていただけだ。


 それ以来、彼女は強くなるために日々頑張っていた。


 ただ、頑張っていたのは、レベルを上げる事であって、剣術を磨こうとした事は一度もない。


 それが今になって重くのしかかったのだ。


 来たる魔女王との対面の日までに、その能力を最大限に引き上げたいと思っていた。


 そこで仲間になったアインハルト。


 彼は長年王国の騎士団長を務めており、世界でも有名な剣士の一人だ。


 『王家のダンジョン』の一層でメンバー達がレベルを上げてくれている間、彼女は真っ先にアインハルトに相談を持ち掛けていたのだ。


 アインハルトは彼女の才能とやる気を買い、こころよく承諾した。




 ◇




 俺達の休暇が始まって三日が経過した。


 ようやく満足してくれたようで、他のメンバーもレベル上げを止めてくれて、やっと休暇に入ってくれた。


 三日間、閑散としていたアクアソル王国の王都に凄まじい活気が戻った。


 王国民のみなさんも待ってくれていたみたいで、俺達を大歓迎してくれる。


 メンバーのみんなが笑顔になっているのを見ると、本当に嬉しい。


 アインハルトさんと寝るまで稽古を続けていたフィリアも一回り強くなって帰ってきた。


 たった三日だけど、元々才能もあるし、何より強くなりたい欲がある今のフィリアは、今までで一番強いと思われる。


 アンナも見違えた~と話していたくらいだ。



「フィリア、疲れてない?」


「寧ろ元気になっているよ~」


 笑顔でそう答える彼女は、眩しいお日様の光を受けて、美しい金髪を輝かせている。


「ねえねえ、ソラ! あそこの飲み物も気になる!」


 彼女が指差す方向には、黄色い果物『ボナナ』の果実水が売られていた。


 売られているというか、ここに滞在している間、買うというよりタダで貰う形になっている。


 これも女王様の威光で、これからアクアソル王国の力になる俺達からは一切のお金を取らないと話し、王国にもその旨が伝えられた。


 15日後に開かれるという戦争の事も、既に王都民全員に伝えられていて、普段から女王様が愛されているのが分かるくらい、今の王都民達の表情は明るい。


 これから5日間俺達が休暇を取り、残り9日でまた俺のレベル上げを手伝ってもらう。


 それから最後の15日目に祭りを行って、次の日に恐らく戦争になるという予想だ。


 既に十日間入国禁止を言い渡されているが、終わり付近でもう一度十日間入国禁止を言い渡す予定らしい。



 フィリアが次々に初めての果実水を飲み歩く。


 俺もそれに付き合い、色んな果実水を口にした。


 個人的には『ボナナの実』で作る果実水が一番好きかな。



 次の日。


 俺とフィリア、カールとミリシャさんで海沿いにやってきた。


 ここでは『水着』というのを着るらしい。


 初めて見るフィリアの水着姿は――――


「ソラ。ここは天国だな」


「カール。うん。全くの同意……」


 フィリアは自身の髪色と同じ黄色い水着を着ており、無駄肉が一切ない全身を惜しみなく見せていた。


 ミリシャさんは元々豊満な女性の武器を最大限に見せる青色の水着で、きわどい形の水着がとてもお似合いだ。


 二人が海辺で水をかけあっている姿を見れただけで、ここに来て良かったと思える。


「なあ、ソラ」


「うん?」


「…………まさかとは思うが、フィリアと…………まだって事はないよな?」


「ん? なにが?」


「…………」


 カールが片手で丸を作って、もう一つの手で押す仕草をする。


「ッ!?」


「…………ソラ。あまり待たせすぎなのも如何なモノかと思うよ?」


「いやいやいやいや…………まだはや――」


「早くない。遅いわ」


「…………」


「あれだけフィリアから好き好きと言われているのに、まだ待たせるのか?」


「で、でも……」


 男女の事は、既にカールから教えて貰った。


 大人の関係というやつだ。


 俺はフィリアの事が好きだし、その気持ちに変化もなければ、寧ろ日々好きになっていく。


 でも、どこかフィリアとそういう大人な関係を思うと不安が押し寄せる。


「フィリアはずっと待ってくれているだろう? 心配なんてしなくてもいいと思うぜ、親友」


「そう……かな?」


「おう、あとで使い捨て避妊用魔法陣あげるわ」


「…………ぅん」


 それで何をするのかくらい知っているし、その先の事も知っているだけに、俺は力弱く返すしか出来なかった。


 カールのやつ。


 大笑いして、俺の背中を叩くと、フィリアとミリシャさんの下に走り、一緒に水の掛け合いに参加した。


 少し重い腰を上げた俺も、その日はそれ以上悩む事なく楽しく遊んだ。

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