第121話 レベリング

 アクアソル王国の地下にある『王家のダンジョン』。


 一層は広い高原で、見晴らしも良い。


 さらにあちらこちらに見える魔物は、動きも遅くて弱いのに、経験値獲得量が高いとの事だ。


 俺の影に入っている千人のメンバーに出て来てもらい、数刻ここで狩りを行う事にした。


 その理由としては、『銀朱の蒼穹』のメンバーがレベル1に戻ってしまったからだ。


 念のため、極スキルがどうなるのかを確認したいためもあったけど、強弱関係なく全員消えなかった。


 今回『銀朱の蒼穹』のメンバーになってくれたアインハルトさん達とアンナもレベル1に戻ったので、ここでレベル上げを開始する。


 千人のメンバーが一斉に一層中に散る。


 みんな綺麗に散る当たり、リーダーたちの作戦が普段から沁みついているようだね。


 俺達は何もせず、ゆっくり高原を歩いて戦っている状況を眺めているけど、戦っているみんなはレベル10になっているから余裕を持って戦っている。


 このダンジョンの良さとしては、魔物が倒れた瞬間に復活するという凄いメリットがある。


 五百体くらいいる魔物を一撃で倒して、すぐに復活する魔物を一瞬で倒してを全員が繰り返す。


「うふふ~『銀朱の蒼穹』って凄い! レベルがどんどん上がるわ~ソラくんの力も凄いわ~」


 実際俺は体験が出来ないので、体感が分からない。


 ただ、元五騎士のメンバー全員が地に手をついて涙を流し始める。


 アインハルトさんが彼女らの背中を優しく摩ってあげた。




 二時間後。


 まさかたった一日――――いや、二時間でレベル9まで上げられた。


 今までレベル9まで上げるのに二日、三日くらい掛かっていたのにな。


「千人越えパーティー判定って…………聞いた時は嘘のように感じてたが、いざ体験すると凄まじいな……」


「うふふ、これなら魔女達も簡単にレベル10になれるわ~」


「経験値…………レベル…………」


 アインハルトさんとアンナは感動していて、元五騎士さん達は魂飛ばしている。


【みんな~! レベル9になったから二層に行くよ!】


 散っていたメンバーが一斉に俺に向かって走って来ては、影の中に入って行く。


 みんな動きがストイックで本当に助かる。


 そのまま一層の後にして、二層に向かう。


 高原だった一層とは違い、二層はものすごく広い部屋だ。


 アインハルトさん曰く、『コロセウム』という場所らしい。


 千人のメンバーが出て来ても、埋め尽くせない程に広い。


 広場の向こうには、右半分が白色、左半分が黒色の鎧騎士が佇んでいる。


 右手に黒い剣、左手に白い盾を持っていて、身体の色と反転しているのも特徴的だ。


 弐式メンバーはほぼ全員がメイン職能『魔導士』、サブ職能『ローグ』だ。


 『銀朱の蒼穹』のメンバーの半数を占めている弐式。


 全員、それぞれの属性の大魔法を構える。


 空に無数の大魔法が展開される。


 鎧騎士が反応して、こちらに向かってくる。


 しかし、こちらに走った瞬間、アンナが黒い触手で鎧騎士を打ち付けると一撃で吹き飛ぶ。




「今だ!」




 壁に埋まった鎧騎士に向かって、数百発の大魔法が放たれた。




 ◇




 ◆元五騎士、セリア◆


 私達はアインハルト様と共にアクアソル王国を守る五騎士だった。


 だが……アクアソル王国のために私達はアクアソル王国の五騎士……そして、長年配属していたクラン『エデン』を辞め、新しくクラン『銀朱の蒼穹』に参加した。


 不満――――がないというなら、嘘になる。


 ただ、アクアソル王国の騎士団長であるアインハルト様と女王様が決めた事に口を出すつもりはない。


 私は配属先であるアクアソル王国のためにこれからも頑張って行くだけだ。



 新しいクランの指揮官をやっているミリシャさんの命令で、私達はレベルを1に戻された。


 レベル10まで上げるのに、どれだけの努力と時間がかかったか……。


 それが……たった一瞬でレベル1に戻ってしまう…………。


 最初は、脱力さに慣れずに、自分が着ている鎧がこんなに重かったのかなと錯覚さえ覚える。


 他のメンバー4人も同じ思いのようで、私達はそれぞれ顔を合わせては、泣きそうな気持ちを押し殺した。



 私達はすぐに『王家のダンジョン』に連れて行かれる。


 そうか……今日からまたレベルを上げる毎に…………ち………………あれ?


 新しいマスターの影からものすごい人数の子供達が現れる。


 中には獣人族がいたり、黒いフード付きマントを羽織った連中も出てくる。


 一瞬でダンジョン一層に散った彼らは、赤子の手をひねるかのごとく魔物を狩り続けた。


 一体、何をしているんだ……?


 えっ?


 何もしてないのにレベルが上がっ……た!?


 それから二時間。


 どうしてだろう。


 レベル1に戻されたはずなのに、もうレベル9なんですが…………。


 えっ?


 このまま二層に?


 またもや一層に散っていた子供達がマスターの影に入る。


 これだけの人数が影に入るって一体何が起きているのだ?



 二層に着くと、懐かしい『守護騎士』が奥に佇んでいる。


 またもやマスターの影から子供達が現れる。


 これだけの人数で戦うというのか?



 ……。


 ……。


 ……。










 えっ?


 空に大魔法が……数百?


 えっ!?


 守護騎士が一撃で吹き飛……ん……?


 魔法が一斉に…………。


 あ、あれ?


 レベルが……10に…………。




「みんなお疲れ! 明日からは休暇が取れそうだね!」


「ソラくん、休暇に入る前に三日くらいソラくんのレベル上げをしない?」


「えっ? ミリシャさん……休暇が終わってからでも……」


「「「「マスター! 休暇前にやりたいです!」」」」


 マスターすらドン引きしているこのクランの恐ろしさを知る事が出来た。

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