第113話 魔女アンナの交渉

「ん~! この果実水おいし~!」


 ピリピリしているフィリアをよそに、出された果実水を飲んでご機嫌になる魔女アンナさん。


 ものすごく緩い雰囲気だけど、その身体からはとんでもない強者の雰囲気を感じる。


「アンナさん」


「――――、さんもいらない~」


「…………えっと…………アンナ?」


「なに~?」


「どうしてここに来たのか、聞いてもいいかな?」


 どうやらアンナは、さん付けも嫌いらしく、さん付けだと返事すらしてくれないし、言葉をラフにしないと興味を示さない。


「うふふ、君。とっても有名人なの」


「え!? 俺が!?」


「うんうん~」


 そして、彼女の緩い表情が一瞬で鋭いモノに変わる。


「君は、女王陛下のお気に入りになっているよ~」


 彼女の挑発的な言葉に、フィリアは興奮気味に双剣に手を掛ける。


 俺は急いでフィリアを手で制止した。


「えっと、女王陛下というのは、魔女王様でいいのかな?」


「あってるよ~」


「その魔女王様がどうして俺を気に入っているの?」


「うふふっ、君が――――――強いから」


「え? 俺が強い?」


 意外な答えに驚く。


 俺は強いと言うが、俺はここにいるフィリアに何をしても勝てない。


 スキル『ユニオン』で繋がっているから、強制的にレベル1にすれば、勝てない事もないかも知れないが、そういう裏技なしで普通に戦えば、相手にすらなれないはずだ。


 なのに、フィリアではなく、俺が強いという言葉に疑問を感じてしまう。


「うんうん。君は自分の力に気付いていないだけ~」


「自分の力に気付いていないだけ…………」


「ねえねえ、ソラくん」


「うん?」


「私も仲間に入れてよ~」


「駄目ッ!」


 アンナの意外な提案に、フィリアは迷う事なくすぐに返事する。


「ふぅん~君さ。私より弱いんだから、静かにして貰えない? 私はソラくんと話しているの~」


 フィリアを威嚇する彼女の前を遮る。


「フィリア。落ち着け」


「で、でも!」


「魔女と事を構えるほど、俺達は強くない。アンナがもし俺達を殺そうと思っていたなら、もう俺達は死んでいるはずだよ。それにアンナはとても強い味方になれると思う」


 こんな緩い雰囲気のアンナだけど、恐らく魔女だからというより、魔女の中でも随一の強さを持っているんだと思う。


 根拠も理由もないけど、フィリアの双剣が彼女の首に掛けられた時、その双剣では斬れないと何となく感じていた。


 フィリアはバーサークポーションを飲んだハレインにすら圧勝した。


 その時ですら手だったのに、今は全力を持ってしても相手にならない。


 つまり、俺達が束になってもアンナには勝てないと思われる。


「…………」


「だからと言って、アンナの言う事を全部聞くつもりはない。ちゃんと理由を聞いて、事情を教えて貰うから」


「…………うん……ごめんなさい…………」


 肩を落とすフィリアの頭を撫でて、落ち着かせてあげる。


 俺達の後ろから猫のような目で、うふふと笑いながら見ているアンナがとても気になる。



「アンナ、ごめん。やっぱり俺達人間にとって魔女は少し怖い相手だから」


「うんうん。理解しているから大丈夫~」


「それで話を戻すけど、仲間になりたいって?」


「うん! 君が使うその力が知りたいんだ!」


「…………それは魔女王様のご意向かな?」


「…………うふふ、ソラくん。流石は『神威しんいを持つ者』ね」


 『神威を持つ者』……?


 初めて聞く言葉だ。


 一体何のことなのだろう?


「ねえ、ソラくん。ここは私と取引しない?」


「……断ってもいいというなら」


「いいわ。でも君は――――君達は取引の魅力には勝てないと思うわ~」


「…………一旦取引内容を聞いて、仲間と相談させてもらうよ?」


「わかった~私が提示するのは『神威しんいを持つ者』について教えるのと、それを確認する為に私が持つ『鑑定術』でその中身を覗く事が出来ること~、ここは一つサービスするけど中身を知らなくても既に君達はそれ・・の恩恵は受けているから、解放するとは違うの~ただ知る・・事が出来るだけ~」


 アンナの言い分からすると、俺達は何かしらの恩恵を受けていて、その恩恵の詳細を知らない。


 その恩恵の詳細を知るには、アンナが持つ『鑑定術』でしか知る事が出来ないという事だね?


 情報はとても大事なモノだからこそ、アンナの提案はとても魅力的なモノだ。


「因みに~その代償として――――君の能力の詳細を教えて~これは女王陛下の依頼~だから、教えて貰ったら報告するよ~」


「えっと、魔女王様が知ったらどうなるの?」


「多分連れてこいって言われる~」


「っ!」


 さすがに『魔女に連れて行かれる』という言葉に、落ち着いていたフィリアも反応していました。


「分かった。ただ、それには一つだけ条件を付け加えさせて欲しい。もし魔女王様が僕に会いたいというのなら、俺だけでなくメンバー全員で行かせて欲しい。あと出来ればここに返してほしい」


「う~ん。メンバー全員連れて行くのはアンナが約束するよ~でも返すのは約束出来ないかな? 女王陛下次第~」


「分かった。そうなった場合、魔女王様には俺が交渉するよ」


「うふふ、女王陛下に交渉とは、ソラくん、さっすが~『神威を持つ者』ね~」


 少なくとも、魔女王様としても俺に興味があるなら、多少の交渉の余地はあるはずだ。


「それと、アンナが仲間になりたいというのは?」


「あ~それは私がソラくんに興味があるだけ~だから言われた仕事はちゃんとするし~でもご飯とか美味しい果実水は欲しいな~」


「それは単純にクランメンバーになりたいってことだね…………分かった。その件も込みで相談してみるよ。それはそうと、アンナはその衣装を着替えるもらう事は出来る?」


「衣装?」


「今着ている服?」


「あ~これは服じゃなくて、私の魔力だよ~消す・・事なら出来るよ~でも裸になるから今はちょっと~」


「っ!? い、いい! ならなくていいから! とにかく、もし仲間になったら、その魔力? は人間には刺激が強すぎるから、普通の服を着て貰うけど、いい?」


「うん~それは仕方ないと理解しているからいいよ~」




 こうして、突如として訪れて来た魔女の件で、休暇を前にひと悶着する事となった。

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