第95話 コボルトの森

 Aランクダンジョンは一度諦め、王都に出て、王都で最も有名なコボルトの森に向かった。


 『コボルトの森』はCランク魔物のコボルトとBランク魔物のコボルトリーダーが、とにかく沢山溢れている森になっている。


 この森の良い所は、ほどほどに強いコボルトリーダーが一体と、コボルトが十体が一つの群れになっていて、大量に出現する。


 群れなので、基本的にはBランクと対等に戦えるパーティーじゃないと、すぐにやられてしまう事でも有名な森である。


 上位パーティーのレベルを上げるには、最も効率的な場所だという事で、早速やってきた。


 出来れば、パーティーメンバー全員で来たいけど、レボルシオン領からあまりに遠すぎるので、それは一旦諦めて、俺達七人でやってきた。


 コボルトは狼の顔をした小人という感じの魔物で、鋭い爪と牙で主な攻撃だけど、意外にも鉄をも砕くらしい。


 コボルトリーダーは一回り大きくて強いという。



 森に入ると、さっそく群れを一つ見つけた。


「ここは私がいく」


 イロラ姉さんがそう話すと、凄い速さで近づき、コボルトを一匹、また一匹、バッタバタと斬り落とす。


 視界にもう一つの群れが現れたけど、いつの間にか走っていたアムダ姉さんの一撃で一匹ずつ倒れていった。


 群れを倒した二人は戻ってくるのかなと思ったら、戻ってこず、そのまま森の中に消えていった。


 一応念話がいつでも出来るので、心配はないと思うけど……一人にするのはちょっと怖いね。


 どうしようかなと思っていたら、イロラ姉さんの方にカールとミリシャさんが、アムダ姉さんの方にカシアさんが急いで走って向かう。


 何も言わなくても、危険を防ぐ為にすぐに動いてくれる。


 ――――って、もしかして、俺とフィリアを二人きりにする為に?


「ソラ。私達も行こう」


「う、うん」


 デートではないけど、ペアでコボルトを倒してレベルを上げる日々が始まった。


 メンバーから凄まじい速度で経験値が入るのを感じる。


 レベルが1に戻ってるはずなのに、全然速度が落ちない。


 既にみんなのサブ職能もレベル8にはなっているはずなので、それもあって、足りないステータスをスキルでカバーしているのかも知れない。


 それが証拠に、俺とペアで狩りをしているフィリアも、レベルが1に戻ってもCランクのコボルトを瞬殺している。


「ん!」


 フィリアが群れ三つを殲滅して、走って来ては両手を出す。


 既にスキル『ユニオン』で手に触れる必要なく、しかも任意で送って貰えられるのだが……。


「は、はい」


 フィリアの両手から経験値が流れてくるのを感じる。


「ん……」


 毎回フィリアの小さななまめかしい声にドキッとしてしまう。


 それにしても、フィリアの美しさを久々に自覚する。


 腰まで落ち着いた金色の長髪は、曇り一つなく、光を受けて輝いていて、整った顔は街を歩けば皆が振り向いてしまうほど美人だ。


 そんな彼女の髪と同じ色をした美しい瞳が俺を見る。


「どうしたの? ソラ」


「えっ!? な、何でもないよ!」


「? 変なソラ~」


 次のコボルトの群れに行く間、フィリアが俺の腕に絡む。


 フィリアの柔らかい肌の感触が腕に伝わる。


 いつも全身が筋肉で身体が固いと残念そうに話しているフィリアだけど、そんな事はない。


 寧ろ、柔らかすぎて心配になるレベルだ。


 コボルトの群れが三つ現る。


 一つにはフィリアが、もう一つにはラビが、最後の一つにはルーが飛んで行く。


 瞬きをしている間に、コボルトの群れが消えていく。


 瞬く間にメイン職能とサブ職能にとんでもない速度で経験値が流れて来た。




 ◇




 数日後。


 ゼラリオン王国のインペリアルナイトの一人であるハレインが治めている『グレイストール領』の領都シサリに、クラン『銀朱の蒼穹』の三人が入る。


 元々帝国の土地でもあったので、既にゼラリオン王国の王都よりも、領都シサリの方が賑わいを見せる。


 現在、『グレイストール領』では、西にあるエリア共和国とミルダン王国との盛んな交流を続けている。


 三人は一切の言葉を発する事なく、街を見回り、宿屋に入った。


「…………俺は一人部屋がいいんだけど」


「え! いやだよ! ルナは同じ部屋がいいな!」


「う、うん! 私も同じ部屋の方が良いと思う……」


 三人はテーブルに座り真剣に話し合っていた。


 宿屋の交渉を行ったシヤに対して、ルリは少し不満そうに言うが、既に部屋は一つだけ確保している。


「じゃあ、俺は外で……」


「「駄目!!」」


 二人の女性はすぐにルリを止める。


 ルリは一つ大きな溜息を吐いて、自分の両手に絡んでいる二人の女性を見つめる。


(ルナは何となく分かるけど…………シヤさんはどうしてなのだろうか)


 必死に止める二人を無下にする事は出来ず、ルリは渋々了承してしまう。


 その姿にシヤとルナはやっと安堵した表情を見せる。


「それにしても、あからさまなモノだね」


「ん? シヤ姉ちゃん、もう分かったの?」


「ええ」


「ほんと!? 凄い……ルナは全然分からなかったよ……」


「パッと見では、普通に感じるかも知れないけど、今の『グレイストール領』のやり方は、明らかにゼラリオン王国を敵対したいのだろうなと思うよ」


 シヤはその件も含め、ソラ達に連絡を取る。


 ソラ達のパーティーの狩りが終わった夕方に、『グレイストール領』の現状の報告を行った。

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