三章『ゼラリオン王国』

第77話 始まる暗雲

 『転職士』レベルが7になって、とんでもないスキル『ユニオン』を得てから、一年と半年が経過した。


 俺達は全員十五歳になり、カールは晴れてミリシャさんに告白。


 ミリシャさんは喜んで受けてくれて二人の婚約が結ばれた。


 あれから起きた事と言えば、『ユニオン』の役職が、『サブマスター』にフィリア、『指揮官』にミリシャさん、『隊長』にカール、アムダ姉さん、イロラ姉さん、カシアさん、ルリくん、ルナちゃん、弐式リーダーのメイリちゃん、参式リーダーのエルロさんの計八人が決まった。


 更に残っている二枠は、弐式の中から二人に入って貰っているが、これは『隊長』としてではなく、仮に入って貰っているので、基本的に『隊長』としては扱っていない。


 それぞれの隊に弐式参式のメンバーを『隊員』として参加して貰って、ステータス上昇の恩恵を与えている。


 今年に弐式狩りメンバーとなった子供達で、丁度266名だった。


 …………後から知った事なんだけど、どうやらミリシャさんの意向で弐式のメンバーになる孤児達が爆増したそうだ。


 既に400名近くいる中、260名が十歳を迎えて転職可能となり、全員が中級職能をバランスよく転職させている。


 『ユニオン』の『役職』とは関係なく、彼らには隊を組んで貰い、活動して貰っているのだ。


 全員の指揮を執っているメイリちゃんの指揮能力の高さには驚くばかりだ。


 参式のメンバーはリーダーのエルロさんを主軸に残り34名が隊員となり、丁度300名を達成して『隊員』の役職を与えられたメンバーが300人になっている。


 そんなメンバー達はレボルシオン平原だけでなく、周りの色んな狩場に展開し、レボルシオン領内の素材を潤わせてくれた。


 そんな安泰と思われたレボルシオン領だったが、世界は俺達をそう楽にはさせてくれなかった。




 ◇




 その日。


 いつも通り屋敷で食事を終えた夕方。


 その報せは突如訪れた。


「そ、ソラ様!!」


 開けられる扉の向こうから、息を切らして俺を呼ぶのは、冒険者ギルドのエイロンさんだった。


「エイロンさん? どうしたんですか?」


 いつもなら事前に連絡を寄越してから来るはずのエイロンさんが、ここまで急いで来た事に俺の心に小さな不安が灯る。


「ソラ様。大急ぎてお伝えしなければならない事が……出来れば『銀朱の蒼穹』のメンバーを大至急集めてください」


「分かりました」


 俺は『念話』を使い、メンバーを呼んだ。


 この『念話』は、『ユニオン』に所属した全ての者とお手軽に会話が出来る。


 口を動かさなくても、念話が送れる不思議な感覚で、実際口を動かしながら、別な言葉の念話も送れるのでとても便利だ。


 俺は念話を送ってすぐにエイロンさんと共に、執務室に移動した。




「『銀朱の蒼穹』の皆様、本日は至急集まって頂きありがとうございます」


 既に息を整えているエイロンさん。


 ゆったりだが、どこか緊迫した表情は変わりない。


「それで、エイロンさん。大至急伝えたい事というのはどういう件ですか?」


「はい。――――――実は、ソグラリオン帝国が我々ゼラリオン王国に対して、宣戦布告をしました」


「なっ!?」


 急すぎる内容に、俺もメンバーもみんな大きく驚く。


 あまりにもいきなりの宣戦布告。


 ここ数年、ずっと帝国の動向を監視していたはずの冒険者ギルドだからこそ、ここまで迅速に連絡を貰えるのだろう。


 ただ、ここにこの連絡が入ったって事は、既にソグラリオン帝国とゼラリオン王国がぶつかっている可能性がある。


「エイロンさん。帝国側の戦力はどんな感じなのですか?」


「はい。どうやら、五千の兵を率いて来ている模様です」


「ご、五千……」


 思っていた以上に多い。


 兵士の大半は『下級職能以上の職能持ち』が多い。


 それだけ帝国の兵の数は圧倒的に多く、それが五千人ともなると、大規模進行に違いないはずだ。


「何故それだけの大軍を……?」


「どうやら王国から溢れた『肉』により、各国の食料事情が変わった事で、帝国としてはその『素材』を手に入れる為が名分だそうです」


「え!? そ、そんな理由で?」


「……はい。恐らくですがレボルシオン領から溢れ出ている『ボア肉』が隣国のミルダン王国やエリア共和国にまで流れております。それにより帝国産のボア肉の売り上げが激減、その結果ここ数年で帝国内の低クラスの冒険者達の稼ぎがどんどん減っているのが現状です」


 エイロンさんが語ってくれた『ボア肉』の件は、実は去年から危惧されていた件でもあった。


 ただ、何故か俺達を助けてくださったハレイン様直々に、『ボア肉』を全力で回すようにと言われている。


 俺は恩義あるハレイン様の頼みを聞き、レボルシオン領で取れる『ボア肉』を王国の方に流通させた。


 レボルシオン領は、隣の自由領のセグリス平原からも大量に取れる。


 既に『銀朱の蒼穹』で大半購入が進んだセグリス町には、弐式のメンバーが滞在しており、セグリス平原から得た『ボア肉』は自由領とレボルシオン領に流通させる物流を組んだのだ。


「もしかしたら…………王国はこうなる事を既に知っていた可能性がございます」


「!? で、でも、戦争が起きれば王国もただでは済まないのでは?」


「ええ。その可能性はあります。だからこそなのかも知れません」


「えっ……どうして……」


「王国は現在、国王様と二人・・のインペリアルナイトによる保守派と、一人・・のインペリアルナイトと宮廷魔術師による強硬派に別れております。今回は戦争を起こしたかった強硬派の狙いだと思います」


「強硬派…………まさか、そのインペリアルナイトって…………」


「ええ。ソラ様が慕っている――――ハレイン様でございます」






 遂に帝国の侵攻、そして王国をめぐる覇権争いが表面化する。


 ソラ達は忍び寄る魔の手に不安を覚えながら、対策を考え始めた。

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