第20話 三日サイクル

 沼地での『レッサーナイトメア』を見学した俺達は、一度町へ戻り、それぞれのレッサーナイトメアの印象を話し合った。


 一番印象的なモノは、高い攻撃力だった。


 今まで俺達が戦ってきた魔物はせいぜいDランク魔物のビッグボアだ。


 しかし、ビッグボアはDランクの中でも最弱と言われている。


 その理由としては、攻撃手段が単純だからである。


 他の魔物は厄介な攻撃を仕掛けてくるので、とても戦いにくいのだ。


 今回目指すレッサーナイトメアもまさにそれだ。


 一番の問題はあの稲妻……どう防ごうか悩みつつ、その日は解散となった。



 そして、次の日。


 俺達は再度沼地にやってきた。


 レッサーナイトメアの出現予測日は明後日なので、昨日よりパーティーが少ない。


 少ないというか、俺達含め、三つのパーティーしかない。


 恐らく彼らも同じ狙いだと思う。


 今日沼地に来た目的は――――地面に慣れる為だ。


 沼地は地面に常に水が張ってある。


 深さは足元くらいなので大した深さではないが、水がある事によって、素早く動く事が出来ない。


 それと時折、場所によっては泥が深い場所があるそうだ。泥濘ぬかるみはせいぜい40センチらしいので、膝まで埋もれるくらいだろうね。


 俺達は沼地の魔物である蛙型魔物『フロッグ』と不定型魔物『レッドスライム』を狩り始めた。


 形が違えど、同じEランク魔物のゴブリンやスモールボアと大して変わりはない。


 強いて言えば、彼らよりは攻撃力が高いくらいか。


 しかし、当たらなければどうということはないのだ!




「ん……歩きづらいわね!」


 アムダ姉さんが不満を漏らす。


「常に水の上を歩かないといけないし、所々に泥もあるからな……ゆっくり歩くならいいけど、走れと言われれば、嫌になるな」


 先頭の大盾を持ったベリンさんが答える。


 他の先輩達も同じ表情をしている。


 沼地は今まで戦ってきた平原とは違って、足場に不安を覚えてしまうね。


 何かに気づいたようで、アムダ姉さんが更に続けた。


「折角の狩人のスキル『忍び足』も水場じゃ使えないわ」


「あ~言われてみれば、使えないわね」


「足場が水場だからね」


 狩人組の個人狩りで良く使うと聞いているスキル『忍び足』。


 狩りの為のスキルで、魔物に気づかないまま近づき、弓矢を当てやすくするスキルだ。


 水場ではどうしても音が鳴っているから、スキルが反映されないのかな? 意外な事実を知れて良かった。


 周囲のパーティーが少ないからか、魔物の数が多い。


 現れたレッドスライムに狩人組が放った矢が当たって、一撃で倒した。


「このレッドスライムが溶けて無くなる所も、何だか不気味よね」


「「「分かる!」」」


 倒したレッドスライムは、直ぐに身体が溶けて無くなるのだ。


 そして、その跡に小さな魔石を残す。


 小さすぎてあまり使い道はないけど、集めて売れば微々たる金額にはなるだろう。


 それからフロッグも倒しつつ、沼地に慣れる事に勤しんだ。



 その日から、狩りのサイクルを決めた。


 まず、『レッサーナイトメア』が沼地に現れるのは三日に一度。


 なので三日に一度は必ず沼地に向かう。


 今の所、レッサーナイトメアには挑戦しない方向で、他のパーティーの戦いを見学する予定だ。


 そして、残り二日のうち、一日は平原でビッグボアを数体狩る事にした。


 今までは一体だけ狩って終わってたけど、フィリアから少しでも実績を上げた方がいいと言われ、一日四体程狩るようになった。


 そして、残り一日は休みにした。


 余裕がある人は個人で狩りに行ったり、休んだり、自由に過ごすような日だ。



 フィリアはと言うと、狩りの二日間は基本的に俺達と離れて狩りをするようになった。


 フィリアの三日の流れは、一日目は新人パーティーに混ざり、レベルを上げる。


 二日目は中堅パーティーに混ざり、レベルを上げる。


 三日目は俺と休日を過ごしたり、俺の剣術の練習相手になってくれたり、デート…………をしたりして過ごしていた。必ず三日目終わりには「ソラ、ほら……私の経験値……」と言ってくれて、その…………なんだ、毎回終わりに唇を重ねる生活を送った。


 それにしてもレベルが4から5に上がる気配は全くしない。最近ではフィリア以外の人からは経験値を貰えてないからね……仕方ないのかも知れない。


 現在、俺のレベルはこんな感じだ。


 メイン職能である『転職士』がレベル4。


 サブ職能である『剣士』が3、『狩人』が3、その他1だ。


 剣士はアビリオと戦う前に既に3まで上げていた。


 それからフィリアの経験値を貰う生活を送っていると、狩人のレベルが3まで上がった。


 自分ではレベルを上げられない俺だからこそ、パーティーメンバーと比べると、とても遅いけど、フィリアからそれでも十分早いと言われた。


 更に言えば、ステータスが他の人の二倍になる為、狩人レベル3でも、メンバー達よりも高いステータスになっている。ただ、スキルで差があるので、その差を埋めるのは難しい。




 三日サイクルを始めて二か月。


 俺達は遂に『レッサーナイトメア』に挑戦する日がやってきた。

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