第19話 沼地の視察

 ビッグボアを狩る生活が続き、色んな作戦を練りつつ時間が過ぎていった。


 俺とフィリア、カールの肩にはクランの予定の紋章が付けられている。


 意外にもアムダ姉さんとイロラ姉さんの肩にも付けられている。


 クランの設立予定を先輩達に報告した時、アムダ姉さんとイロラ姉さんも入りたいと言ってくれて、ずっと助けてくれた二人だからこそ大歓迎だった。


 他の先輩達は将来の事を考えて、そもそもクランには入らないと言っていた。


 それと、ビッグボアをフィリア抜き・・で狩れる事を知ってから、フィリアから経験値を貰うようにしている。


 他の皆さんの経験値はそのままにレベルを上げて貰う事にした。


 最終的にはフィリア抜きで、Bランクの魔物を狩らないといけないからね。


 ビッグボアを相手にいつもの作戦を繰り返して練度を上げていく。


 やはり戦いで大切なのは、魔物の弱点を狙う事だった。


 気付けばカールの魔法だけでビッグボアを沈めるようになっていた。


 その気になれば一日ビッグボアを十頭は狩れそうになった。


 それを期に、俺達は次なるステップの為、Dランクの魔物の次となるCランクの魔物を狩る事にした。




 ◇




 セグリス町から南に進んだ場所に沼地が存在する。


 それほど深い沼地ではなく、足元くらいの深さなのでハマる危険性はないが、この沼地には危険な魔物が存在する。


 Eランクの魔物のフロッグとレッドスライムが主に生息しているが、その中にたまにCランク魔物『レッサーナイトメア』が現れるのだ。


 数日に一頭現れると言われていて、角が非常に高額で取引されるため、狙っている冒険者パーティーも多くいた。


 セグリス平原ほど収入が良い訳ではない為、普通のパーティーにはあまり人気ではなく、レッサーナイトメアを求めて高ランクのパーティーが点在している。


 その中に狩りは行わず、周りを眺めているパーティーがいた。


 その構成も異様な雰囲気で、前衛が二人、後衛が十人を超えるパーティーに、高ランクのパーティーの中には鼻で笑うパーティーもいる程だ。


 暫くして、沼地の奥から禍々しいオーラが沼地に放たれる。


 奥から現れたのは、真っ黒い馬型魔物で、大きさはビッグボアより少し小さいが頭に生えている二本の透明な色をしている角が不気味な魔物だ。その魔物こそが、今回ソラ達が目指すCランク魔物である『レッサーナイトメア』だ。


 直後、大きな音と共に戦いが始まる。


 レッサーナイトメアの初撃を与えたパーティーは、沼地の古参パーティーであった。


 大きな斧を持った前衛二人がレッサーナイトメアを叩きつける。


 鈍い音が響き、今度はレッサーナイトメアの身体から稲妻が発生して、二人を襲った。


 直ぐに盾を持った剣士が正面に立つも、稲妻を受け止めきれず吹き飛ばされる。


 更に続く稲妻を斧で攻撃している前衛二人も受けてしまいその場に倒れた。


 その後、後衛から大きな氷魔法と火魔法が飛んできて、レッサーナイトメアに命中し、吹き飛んだ。


 そこに畳みかけるように長い槍を持った者が二人、スキルを使いレッサーナイトメアに攻撃し、大きな音が沼地に響き渡った。


 しかし、それでも倒れないレッサーナイトメアからは、黒い棘のような攻撃と、稲妻が溢れ、槍使い二人も巻き込まれその場に倒れ込んだ。


 更に起き上がったレッサーナイトメアの咆哮により、後ろにいた魔法使い二人にも攻撃が及ぶと、魔法使い達もあっけなくその場で倒れた。


 負け――――と思われたが、倒れた魔法使いの後ろに立っていた一人の男が前に出て来た。


 彼の手には冷気が立ち上っている剣が握られていた。


 その剣に闘気が覆われると、男がレッサーナイトメアに仕掛けた。


 レッサーナイトメアの黒い棘を簡単に避けながら剣戟を与える。


 稲妻が発生するも、男は受ける事はなく、器用に避けていた。


 そして、最後に。


 男の剣に一際大きな闘気が灯る。


 その剣戟が放たれた後、レッサーナイトメアの首が宙を舞い、沼地に落ちた。




 ◇




「どうだった? ソラ」


「うん。大体の攻撃は覚えたよ。一番気を付けたいのは、稲妻と遠距離攻撃だね」


「あの稲妻は厄介だね……ベリンさんが耐えられるかにもよるな」


「前方だけの攻撃ならベリンさんの大盾で防げるんだろうけど、あの稲妻は全身を覆うからね……難しそうだ。ちょっと対策を考えてみるよ」


「そうだな。あの遠距離攻撃みたいなやつは、俺達なら避けられそうな速度だったな」


「うん。棘が真っすぐにしか飛んでなかったから、軌道も読みやすそうだった。多分だけど斜めに移動していれば当たる事はなさそう」


「へぇー、流石はソラだ。もうそんなに見極めたのか」


「向こうのパーティーが綺麗に受けてくれたからね。あれで助かったよ。あの人達のように真後ろに逃げても避けられないのが分かれば、あとはやりやすそうだ」


 俺達は古参パーティーのレッサーナイトメア戦を眺めていた。


 挑戦する前の情報収集の一環だ。


 レッサーナイトメアはわりと耐久力が低いらしく、最後の男の人の怒涛の攻撃で倒れた。


 あの男が戦うまでに、他のメンバーが一定のダメージを蓄積させていたんだろうね。


 あれが、所謂普通のパーティーの戦い方なのだろう。


 うちもフィリアを入れれば、ああいう戦い方が出来るだろうけど、俺としてはああいう戦い方はあまり好きではない。


 あれで先に気を失った人達が、そのまま死んでしまう事もざらにあるからね。


 それほどまでにレッサーナイトメアの角は高額で売れるから、狩りに来るパーティーは大勢いた。


 今回は全員無事みたいで良かった。


 あとは作戦を練ったら…………俺達も挑戦する事となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る