第4話 私の経験値をどうぞ

「れ、レベルが! 上がった!!」


 俺の声にフィリアもアムダさんもイロラさんも、物凄く喜んで、俺に抱き付いてきた。


 無我夢中だったけど、また三人の前で泣いてしまった。


 元々涙もろい訳ではないんだけど……。


 俺達四人はこれでもかってくらい喜んだ。


 この一か月……本当にしんどかった……。


 ただ経験値を貰うだけの紐生活が続いて、皆には本当に申し訳なくて…………。


 それにしても、レベルが一つ上がって、スキルが二つも増えた。


 スキルの内容はレベルが上がった時に、瞬時に理解できた。


 そんな俺を見て、わくわくしたようにフィリアは、


「ソラ! レベルが上がったって事は、新しいスキルを獲得したんでしょう!? どんなスキルなの?」


 とグイグイ近づいてきた。


 何だか、フィリアにここまで言われるのは久しぶりな気がする。


 職能の開花で距離が離れてしまった俺達だったけど、少しは近づけた気がした。


「えっとね、転職させた人の経験値を上げるスキルと」


「凄い!! 経験値を上げてくれるスキルなんて聞いた事ないよ!」


 そう言えば、聞いた事なかったな。


 図書館でスキル図鑑を読んだけど、そんなスキル見た事なかったな。


「それと、同じ職能に転職させるスキルを覚えたよ」


「同じ職能に……転職?」


「あ、ああ。通常転職させるよりも経験値を貰えるみたい。どうやら転職させて経験値を得ていたのも、スキルを使ったから経験値が貯まった。のではなくて、相手が貯めた経験値を僕が吸収していたみたい」


「凄い! 意外な事実が発覚したね!」


「ああ、これもアムダさんとイロラさんのおかげです。この一か月間、本当にありがとうございました」


「ううん。私達もソラくんのおかげで戦えるようになったから、こちらこそ感謝だよ」「うんうん」


 イロラさんもアムダさんの言葉に同調するかのように頷いた。


 しかし、隣にいたフィリアが膨れていた。


「むぅ………………私は?」


「え!? ふぃ、フィリアもありがとう!」


「えへへ」


 反射的にいつもの癖で、フィリアの頭を撫でてあげた。


 子供の頃、悲しむフィリアは頭を撫でてあげると機嫌がよくなっていたから。


 隣で見ていたアムダさん達がニヤニヤしているけど、気にしない。


 しかし、直後に俺の想像を超える出来事が起きる。自分の人生が変えると言っても過言ではない出来事。











「ソラ? …………ほら、私の経験値も……どうぞ」




 少し恥ずかしそうに両手を前に出したフィリア。


 元々美人なのに、少し目が潤んでいて、「どうぞ」という仕草も相まって、ものすごく可愛かった。


 今まで意識すらした事がなかった幼馴染の可愛さ。


 聞こえるはずもない自分の心臓の鼓動の音が聞こえる。


 恐る恐る彼女の手を取る。


 温かい彼女の手の温度で、更に心臓の鼓動が上がるのを感じる。


 急いでスキル『同職転職』を使った。


「……んっ…………」


 今まで聞いた事もない幼馴染の妖艶な声が微かに聞こえた。


 そして、フィリアから赤い光が溢れ、俺の方に流れて来る。


 今まで感じた事もない力強いエネルギーを感じた。これが剣聖の……フィリアの力なんだと理解した。


 光が終わり、自分の中で今まで一か月間掛けて集めた経験値以上のモノが貯まった感覚がした。


「フィリア、ありがとう。凄く貯まったよ」


「そ、それは良かった! 私、これからも頑張るからね?」


「えっ!? う、うん! よろしくお願いします」


「よろしくお願いされました!」




 こうして、俺はまたアムダさんとイロラさんに加えて、今度はフィリアまで経験値を捧げてくれる生活が始まった。


 十日程経過して、俺のレベルが3に上がった。



 - 職能『転職士』のレベルが3に上がりました。-


 - 新たにスキル『経験値アップ②』を獲得しました。-


 『経験値アップ②』


 転職させた相手の獲得経験値を五倍にする。




 ◇




 その頃、冒険者ギルド。


「おい、この街に『剣聖』がいると聞いたんだが、何処にいる?」


 白をベースに赤い刺繡が施された服を着ている偉そうな男が冒険者ギルドの受付に駆け寄っていた。


「えっと……ごめんなさい、冒険者にはいないんですが……」


「ちっ、使えないな。この『剣聖』アビリオ様がわざわざ来てあげたというのに、後輩・・の剣聖ちゃんの面倒を見てやろうとしてるのによ!」


 男は悪態をつきながら、冒険者ギルドを出ていった。


「ふぅ……あれが噂のゴキブリ剣聖アビリオ様なんですね……」


「ミリシャ! シーッ! 聞こえたら斬られちゃうわよ!?」


「あっ、つ、つい…………はぁ……」


 冒険者ギルドの受付嬢の二人は出て行った剣聖の後を見つめた。

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