第150話 推しが俺の黒歴史を量産しようとしてくるんですが!?

『よく考えたらアタシって参加しなくてもよかったんだよね』


「ムエたん!? 今更それ言います!? というか、早く次の作業!! もうすぐ爆発しちゃいますよ!?」


『昨日さ、寝る前にふと思ったんだよね。あれ? って。アタシって何のために参加するんだろう? って』


「いやいやいや、だから次!! 早く次の作業を進めましょう!! ワイヤーは!? ワイヤーは何本あるんですか!?」


『参加表明する前に気づければよかったんだけどね。いやぁ、参っちゃうよね~。あはは~』


「それよりワイヤーの数を教えてくださいってばぁ──ッ!! もう時間無いんですよ」


『ねえ、アズマさん』


「なんですか?」


『……まさか、こんなことになるとは思わなかったな』


 そして鳴り響くブザー音。

 ちくしょう!!!! また爆弾解除に失敗した──ッ!!!!


『……今、何回目だっけ?』


「15回目、ですね」


『今、一番時間かかってるのって誰だっけ?』


「カレンちゃんですね。いえ、この場合は『でした』って言うべきでしょうか」


『……ということは?』


「今、ムエたんが解除失敗の最多記録を越えました……っ!! くっそー──ッ!!!!!」


『ええええ!? なんでアズマさんがそんなに悔しがるの!? ビックリしたぁ!!』


「だって推しを最も死なせてしまったんですよ!? そんなのオタクとしてあり得ないじゃないですか!!」


『あはははははは!!!! 出てる! オタク出ちゃってるよ!!』


「出ますよ、それは。推しとこんなにコラボ出来てるなんて、オタクからすれば奇跡以外の何ものでも無いんですよ!?」


『そんなに!? じゃあさじゃあさ、推しから直接歌を教えてもらってるのはどうなの?』


「もう天文学的な確率ですね。俺の前世ありがとうって感じです」


『あはははははは!!!! そのレベルなんだ!? 前世に感謝しちゃうんだ!?』


「なんだったら前前前前前前前前前世ぐらいにまで感謝してもいいかもしれません」


『何世代遡るつもり!?』


「いっそのことアウストラロピテクスにまで感謝してもいいかもしれませんね」


『アウ????? 何、それ?』


「人類のめちゃくちゃ遠い祖先です。ほら、人類は元々猿だったって言うじゃないですか」


『あー!! そういうこと! あはは。え、そんなレベルなの? 祖先にまで感謝しちゃうの?』


「いやだって、よく考えてくださいよ。アウストラロピテクスが『よっしゃ進化するか』って頑張ってくれなかったら、俺がムエたんから歌を教わることはなかったんですよ?」


『いや、それはそうなんだけどさ。でもそうしたら、次はどうなっちゃうの?』


「次?」


 次の爆弾解除のことか?

 いやー、次こそは何とか成功させたいよなぁ。

 惜しいとこまで行くんだけど、そのたびに俺の勘違いとかムエたんの操作ミスとかもあって、中々うまくいかない。

 ……それはそれでムエたんと長時間コラボ出来て嬉しい、とか。そんなことは思ってないよ?


『愛してるよゲーム』


「おぅふ……」


 そうだったね。それがあったね。

 直視し過ぎるとヤバそうだから考えないようにしてたけど、そんなイベントが控えてましたね! そう言えば!!


『推しから直接『愛してる』って言われたら、オタクってどうなっちゃうの?』


「宇宙誕生に感謝します」


『あはははははは!!!! 地球すら飛び越えちゃうんだね!!!!』


「それはそうですよ。推しへの愛が地球規模程度で収まるわけないじゃないですか」


『楽しみだね~。アズマさんがどんな反応をするのか』


「いや、それは……」


『え~、何その反応~。イヤなの?』


「いやいやいや!!!! そんなわけないじゃないですか!! イヤじゃないですよ、断じて!! ただちょっと……」


『ただちょっと……?』


「……恥をさらすことになりそうだなって」


『黒歴史になっちゃうからやめとく?』


「いえ!! 大丈夫です!! 黒歴史のひとつやふたつ増えたところで今さらですから!!」


 これまでの配信でだってたびたび限界化してるし、なんだったらラブコメ主人公なんてやってるのは間違いなく黒歴史だしな……。

 あ~、これからもネタにされ続けるんだろうなぁ……。


『ふぅ~ん? ふぅ~~~ん???』


「な、なんですか? その反応は……?」


『アズマさん、カッコいい』


「──ッ!?!?!? なになになに!? いきなりなに!?」


 耳元! 耳元に声来たって!!

 何なんだよ、いきなり!?


『オタク出た?』


「やめません!? オタクをいじって遊ぶの!!」


『え~、だって黒歴史のひとつやふたつ増えてもいいんでしょ?』


「増やしたいとは言ってませんよ!? ほら、そんなことしてないで爆弾解除しましょうよ。次こそ絶対に成功させますから」


『へぇ、成功させちゃうんだ』


「させちゃうって、……そういうゲームですよね!?」


『そうしたらアタシとの配信終わっちゃうよ?』


「ぐ……っ」


『あ、今のはオタク出たよね!』


「だからー──ッ!!!!!」


『あ、ねえねえ、アズマさん。ゲームを攻略出来るけど推しとの配信が終わるのと、ゲームは攻略できないけど推しとの配信が続けられるのなら、どっちの方がいいのかな? オタク的に』


「いやいやいや……」


 なんか別のゲーム始まってない?

 そんな二択を突き付けられるゲームじゃないよね、これって!!


『ねえねえ、アズマさん。どっち?』


「……あの、マジで限界なんで、そろそろ」


『あはは! ごめん~。ちょっと楽しくなっちゃった!』


「ムエたんが楽しんでくれるのは、とてもいいんですけど、さすがにね? 俺の心臓がもたないというか、耐久値がもたないというか」


『耐久値?』


「メンタルの耐久値」


『あ~。え、もしかしてアタシとのコラボって大変だったりする!? いっつも無理してたの!?』


「いやいやいや!!!!! そんなわけない!! そんなわけないから安心してください!! ムエたんとの配信はいつだって元気をもらってます!!」


『よかった~。疲れるからコラボしたくないなんて言われたら、どうしようかと思っちゃったよ』


「無いですから。それだけは絶対にありえないですから」


 限界化して疲れることはあっても、それは幸せ疲れだから。


『じゃあ、アズマさんも疲れてるみただし、次こそ成功させようね!』


「だから~、すぐそうやっていじるのやめません!?」


『本当は嬉しいくせに』


「いやいやいや、そんなことないですよ?」


『本当は『ムエたんにいじられて嬉しい。あ~今日もムエたんは可愛いな~。世界一可愛いな~』とか思ってるくせに』


「世界一可愛いのはその通りですね。今日も可愛いのもその通りです。でも、いじられて嬉しいは違います!!」


『本当に?』


「本当です」


『じゃあさ、アズマさんは何て言われたら嬉しいの?』


「え」


『アタシになんて言って貰ったら、嬉しい?』


「やっぱり今のシチュエーション的には、『助けて』とか、なんかこう頼られる感のあるやつですね」


『ガチ回答だ! また『恥ずかしい』とか言うと思ったのに!!』


「いつまでも恥ずかしがってもいられませんよ!! 大体リスナーも見たくないでしょうしね。オタクがもじもじしてるのなんて」


『それはそうかもね』


「ということでね、やっぱり中々ゲームがうまく行かない時とかは、『どうすればいいの?』とか『助けて』とか『手伝って』とか言って貰えるとね、オタクは嬉しくなっちゃうんですよ」


『ふむふむ』


「それでまあ、最後には『やっぱり頼りになるね』とか『アタシには君が必要だよ』とか言って貰えるとめちゃくちゃ嬉しいので、次のシチュエーションボイスはそんな感じでお願いします!!」


『あれ、シチュエーションボイスの話なの!?』


「ちなみに俺はムエたんのボイスは買ってますよ」


『嘘!?』


「いや、マジです。そりゃ買いますよ。特に去年のバレンタインボイスとか最高でしたね」


『やめてやめてやめて!! いいから! そういうのいいから!!』


「VTuberの古参になるメリットって、やっぱりそういうとこだと思うんですよ。去年のバレンタインボイス、本当に最高なんですけど、期間限定だったので今はもう買えないんですよね。本当に最高なんですけどね」


『だからもういいってば~。爆弾解除しようよ~』


「ちょっと待ってください。やっぱりオタクとしてこれだけは言っておかないといけませんから」


『何~? もういいよ~。恥ずかしい~』


「恥ずかしがってるムエたんも可愛いですね」


『こら、オタク!!』


「そんな可愛いムエたんが最近出した、季節限定デートボイスも最高だったので、買ってない人はブイクリの公式オンラインページからぜひどうぞ」


『宣伝じゃん!!』


「推し活です!!」


『オタク出し過ぎ!!』


「オタクですから!!」


『オタク封印して!!』


「しょうがないですね。それじゃあ、気を取り直して爆弾解除しましょうか」


『も~、アタシの方がメンタルの耐久値減っちゃったよ~』


 とまあ、この後無事に爆弾も解除出来たわけだけど、やっぱりムエたんとコラボすると元気になるな~。

 さすがは社畜時代の俺を支えてくれた推しだ。

 推ししか勝たん。けど、ほどほどにした方がいいかもしれない。

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