第120話 ヤバい。見つかった……!?

「これが新しい俺、ですか──ッ!?」


『おおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!』

『カッコいい!!』

『イケメン!!』


 わかる。わかるぞコメント欄!!

 そうだよなぁ!? めちゃくちゃカッコいいよなぁ!?


『ええやん!! めっちゃイカすで!!』


『にーちゃんカッコいい!!』


『さすがカレリン。いいじゃん』


『お、姐さん戻ってきたやん』


『別にどこにも行ってないんだけど』


『性癖の彼方まで行ってたやん』


『うるさい。ポチのくせに』


『なんやと!?』


『なにさ』


「はいはい。2人ともケンカしないでくださいねー。せっかくカレンちゃんが俺をカッコよくイメチェンしてくれたんですから」


『子ども扱いせんといてくれへん!?』


『そうだそうだー。円那はお酒が飲めるんだぞー。大人なんだぞー。ポチとは違うんだー』


『なんやと!?』


『なにさ』


「ループしてます!?」


『え、アズマ。お前、ループ前の記憶があるんか──ッ!?』


『東野ちゃん!? 円那たちのこと、覚えて……?』


「あの、マジで収拾つかなくなるのでやめません?」


 何いきなりループネタを始めてるんだ。


『しゃーないな。アズマがそう言うならやめたろやないか。しょーがなくやで? しょーがなく、自分らが大人になってあげてるんやからな?』


『そうだそうだー。円那たちが大人になってあげてるってこと、忘れないでよねー』


「ああもう、はい。それでいいです」


 そう言ってる時点で大人ではないよな!?

 ていうか、せっかくカレンちゃんが頑張ってくれたのに、こんなテンションでいいの!?


『誰もわたしのイラストなんかに興味ないんだ……』


 ダメだった──ッ!!!!!!

 ダメじゃん!! カレンちゃんのテンションめちゃくちゃ落ちてんじゃん!!

 何してんだよ、エイガ!! ラナさん!!


『アズマ、どないすんねん!? カレンちゃんが落ち込んでもうたやないか!!』


『カレリンがせっかく頑張ったって言うのに……。東野ちゃん?』


「俺のせいですか!?」


 絶対違うよな!?


『言い訳するんか? それでも大人なんか?』


『都合が悪くなると逃げるなんてカッコ悪いぞー』


 ──ッ。こいつら……っ!!


『今のはエイガさんと円那さんが悪いと思う』


 ──ッ!? レオンハルト!?


『レ、レオンハルト……?』


『レオンハルト、きゅん……?』


『せっかくカレンさんが頑張ってくれたんだから、ちゃんと見てあげないとダメだと思う』


『せ、せやな』


『う、うん』


 おお、マジか。

 あのレオンハルトがそんな風に人に注意するなんて。成長したなぁ……。

 なんか、感慨深いよ。


『……』


『……』


『……』


『……』


「……」


『に、にーちゃん!!』


「あ、はい。なんですか、レオンハルト」


『今のってダメだったのかなぁ!?』


「なんでですか?」


『だってみんな黙っちゃったから……』


「そんなわけないじゃないですか!! レオンハルトは立派でしたよ!! 偉い!! 黙っちゃったのはあれです。カレンちゃんが描いてくれたイラストを改めて見てたら、あまりにも良すぎて。ねえ! ですよね!? エイガ! ラナさん!」


『その通りや!! レオンハルトが悪いことなんてなんもあらへん!! 自分もあれやで。カレンちゃんのイラストが良すぎるさかい、カッコええな~って感心してたとこや!!』


『そうそう、円那もそう。さすがはカレリンだな~って思ってた。だからレオンハルトきゅんが悪いことなんてひとつもないよ』


『う、うん。ありがとう』


 危ない……。危うくレオンハルトにやらかしたと思わせてしまうところだった。


『みんな、わたしのイラストをレオンハルト君の慰め用に使うんだね……』


 やらかしてた──ッ!!

 こっちでガッツリやらかしてた──ッ!!

 待って待って違う! そうじゃないって!!


「カレンちゃんカレンちゃん。まずは落ち着いてよく思い出してください。ここにいる全員、真っ先にカレンちゃんのイラストを褒めましたよね?」


『すぐに興味失くした』


『そんなことないで? あれや、そのー、えっとな。ちょっと待ってくれるか?』


『そんなんだからポチはモテないんだよ』


『なんやと!?』


『あのね、カレリン。カレリンのイラストが良すぎたの。すっごい良すぎたから、一回落ち着かないとまともに感想言えなかったの。わかるでしょ? オタクが限界化するとどうなるか。言葉が喋れなくなるの』


『姐さんが言うと説得力が段違いやな』


『どういう意味!?』


『でもな、カレンちゃん。姐さんの言う通りやで。イラストかっこ良すぎんねん! いきなりこんなの見せられて感想言うなんて、そんなん無理に決まってるやん!!』


『……本当?』


『ホンマやて! な、レオンハルト!!』


『そうだよ! レオンハルトきゅんからも言ってあげて!!』


『あ、うん。その、すごくカッコよくてビックリした。あと、にーちゃんとお揃いっぽくて嬉しかった』


『でしょ!? そう! そこなの!! さっすがレオンハルト君!! よく気づいてくれた!! そこなんだよ!! 今回一番こだわったのは!! 2人とも元々のデザインが似てるから、どうしようかなーって悩んでたんだけど、いっそのこと兄弟感出せばいいんじゃないかって思ってやってみたの!! そしたらもうね! すっごいハマって!! いいでしょ!? ねえ、いいよね!? ほら見て、2人が並ぶとこんな感じなの!!』


「あ、はい」


『え、ええな』


『さ、最高だよ』


『い、いいよ』


『……あれ、みんな反応薄くない?』


「ああ、いや。なんて言うか、カレンちゃんがそこまでこだわって描いてくれたのが伝わって来て、ちょっと圧倒されたと言うか、熱量が凄まじかったと言うか、クリエイターってみんなこんな感じなんでしょうか?」


『ま、まあ。自分のこだわりを褒められたら嬉しいんちゃう?』


『ゲームとかでもそうじゃない? ずっと練習してたコンボが上手くいって、それが褒められたらうれしくない?』


『うん。そういうのは嬉しい』


『ちょっとみんなやめて!! なんか急に恥ずかしくなってきたぁ!!』


「いやいや、何言ってるですか、カレンちゃん。カレンちゃんが頑張ってくれたからこそ、俺たちはこんなにカッコよくなったんじゃないですか。すごいですよ、カレンちゃんは!」


『そ、そう? すごい? わたしってすごい?』


『めっっっっっっちゃ!!!! すごいで!!!!!!! 天才や!!!!!!』


『天才イラストレーター。日本一! カレリンすごい!!』


『カレンさんは最高のイラストレーター』


『え、えへ。えへへへへ、そうかな? 本当にそう思う? ねえ、アズマさん? わたしって本当にすごい?』


「そりゃもうすごいですよ!! アマリリス・カレンは天才イラストレーター!! 日本一、いや世界一ですね!!!!」


『それはちょっと言い過ぎだよぉ。まあ、でも、悪い気はしないかなって、──え?』


「カレンちゃん?」


『どないしたんや?』


『カレリン?』


『どうしたの?』


『あ、えっと、今ちょっと気になるコメントが流れていったような……』


 そう言いつつ黙りこくるカレンちゃん。

 今日はカレンちゃんの配信枠での配信だから、俺たちはそのわずかな時間を待つしか出来ない。そして──、


『ど、どうしよう? え、待って!? 本当にどうしよう!?』


「カ、カレンちゃん?」


『どないした?』


『何?』


『どうしたの?』


『安芸ナキア先生が!! 安芸ナキア先生からコメント来てる!!』


 え……。ナーちゃんから?


『ねぇ、どうしようみんな。『性癖に刺さったわ』って送られてきたんだけど!? え、これってどういう意味!? 誉め言葉!?』


「ナーちゃんのそのコメントは誉め言葉ですね」


 間違いない。彼女の『性癖に刺さったわ』は何よりの誉め言葉だ。


『むー』


「カレンちゃん?」


 どうしたんだ? いきなり唸りだして。


『なんかわかってる感がムカつく』


「どういう意味ですか!?」


『自分で考えてくださーい。わたしは知りませーん』


「カレンちゃんが言ったんですよね!?」


『えー、何のことですかぁ? わたしわかりませーん』


「絶対わかってますよね!? その言い方は絶対にわかってますよね!?」


『アズマさんこそ自覚ないんですかぁ? なんでわたしがこうやって言ってるのか』


「いやいや、それはそのー……。ねぇ?」


『なんでこっちに振るんや』


『言葉に出来ない男ってサイテー』


『にーちゃん、カッコ悪い』


「ぐ……っ」


 味方は? 味方はいないのか?


『ラブコメ系VTuber』

『ただただムカつく』

『鈍感ハーレム主人公かよ。けっ』


 うっわぁ、コメント欄まで敵に回ったんですけど!?

 あれ? おかしくない? 今日ってもっとめでたい感じの配信じゃなかったの?


「あ、あの。えっと……」


『……』


『……』


『……』


『……』


「む、無言はやめません?」


『ということで、今日の配信はこれで終了になりまーす。みんな見てくれてありがとうー!』


『おおきになー』


『またねー』


『バイバイ』


「うっそでしょう!? この流れで終わるんですか!?」


 待って。さすがに待って、と言う間もなく、本当に配信が終ってしまった……。

 えー、マジで……?

 ちょっとそれは、さみしいんだけど……。

 って、チャット! チャット来た!!

 そうだよな。さすがにこの流れでってのは無いよな!? 俺もみんなと交流したいよ!!


「って。噓だろ、おい……」


 目を付けられた──。

 チャットを開いた、それが率直な感想だった。


『面白そうなことになってるね~。ちょっと企画を思いついたから~、話を聞かせてもらいたいな~』


『お前のVTuberライフが盛り上がる企画だぞ』


 久しぶりの、《企画屋》からのチャットだった。

 捕食者に見つかった獲物の気分ってこんな感じなんだろうか……。

 ていうか、ダメだ!

 もうどうしたってイヤな予感しかしない!!

 これ、スルーしていいかなぁ……?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る