第86話 走って帰れば美少女たちが待ってる!! そう、VTuberならね
「あー……」
今からは無理ッ!!
頑張れ数時間後の俺ッ!!
一瞬の戸惑いを断ち切るようにパソコンをシャットダウンする。
時計を見ると、今から走ればギリギリで配信開始時間に間に合うかどうかと言うところ。
……ヤッバいな。ミチエーリさんとアゲハちゃんに迷惑はかけられない──ッ!!
「残りは持ち帰りでいいですよね?」
「そうか。もうそんな時間か」
「失礼します!!」
「……いっそのことオフィスに配信環境を整えてしまうか」
なんか怖いことを言ってる優梨愛さんを置いてオフィスを出る。
と言うか、勘弁してくださいね!?
オフィスで配信なんてそんな恐ろしいこと絶対にやりませんからね!?
何が悲しくて元同僚に「あざまるうぃーす!!」なんて言ってるところを見せなきゃいけないんだ。そんなの罰ゲームどころの騒ぎじゃない。死刑だ死刑!!
もし優梨愛さんが変な提案をしてきたら、絶対に断る。決めた。もう肝に銘じた。
「……早く来いって」
なんでこういう時に限ってエレベーターが来ないんだ!!!
こっちはめちゃくちゃ急いでるって言うのにッ!!!!
走るか? 階段ダッシュか?
いや、無理だ。この前一度それをやったけど、めちゃくちゃ後悔したじゃないか。
配信前に体力が無くなるような真似はやめようと、あの時誓ったじゃないか!!
優梨愛さんの仕事を手伝い始めてから、こんなしょーもないノウハウばっかり溜まっていくのが嫌すぎる……。
朝起きて出社して、日中仕事をして、それなりに残業して終わらなかった仕事を持ち帰り、そして配信を始めるのだ。
「すみません!! ちょっと遅くなりました!!」
『ヤッバ、ギリギリじゃん!! ウケる!!』
『よかったー!! アズマさん来た!! 来ないんじゃないかってドキドキしたよ?』
「すみません、本当に。今、色々とバタバタしてまして」
『ダイジョブなん? アレなら休みとかもアリじゃない?』
「いえいえ、さすがにそうはいきませんよ。レジェンダリーカップまでもう少しじゃないですか」
『それはそうだけど、無理しないでね?』
『ミチェの言う通りだよ。ウチら別に怒らないし。無理なら無理で助っ人呼ぶからモーマンタイ!!』
「ありがとうございます。そう言って貰えると助かります」
お、配信開始時間だ。
よかったー!!間に合って。
夕飯を食えてないせいで死ぬほど腹減ってるけど、それは後で考えよう。
とにかくまずは配信だ。
『ヤッホー、みんな。ミチエーリだよー』
『いぇーい! 今日も絶好調なアゲハちゃんでーす!』
「東野アズマです。今日もよろしくお願いします」
『なんて澄ました顔をしているが、この男、遅刻しかけたのである』
「ちょっと!! アゲハちゃん!? それは言わなくてよくないですか!? 間に合ってますし」
『どう思う、リーダー?』
『私たちを心配させたからアウトッ!!』
『はいアウトーッ!!』
「嘘でしょう!?」
『リーダーの言うことは絶対だから』
「横暴ですよ!!」
『だってリーダーだし』
『まぁまぁまぁ、リーダーだからね。私がチームで一番偉いんだよ。わかった?』
『はい、リーダーッ!!』
「……理不尽だ」
『返事は!?』
「わかりました!!」
『よろしい』
『あ、ちなみに、本番で遅刻したら罰ゲームだから』
『採用ッ!! アズマさんのお金で美味しい焼肉食べよう!!』
『いいじゃん! ていうか、焼肉食べれるなら遅刻してくれた方がいいまである?』
「さすがに無いですって! 大丈夫ですよ、2人に迷惑はかけませんから」
『え~、なんかフラグっぽーい』
「言霊って知ってます? 言ったら本当になるんですよ?」
『あ! それいっつも思うんだけどさ、どっちかっていうと予言者じゃない? 未来のこと言い当てるんでしょ?』
「……確かに」
『でしょ~? ウチって結構そういうのに気付くんだよね』
「その理論で言ったら、よくアニメとかである『やったか?』って言ってる人たちって、全員予言者ってことになりません?」
『それはフラグじゃない? 『やったか?』って疑問形だし』
「アゲハちゃんってめちゃくちゃ鋭いこと言いますね。ギャルなのに」
『え~? それはギャルのこと舐め過ぎじゃない? ウチ、勉強できるギャルだから。多分ミチェより頭いいよ』
『私バカじゃないよ!?』
『でもさ~、この前漢字読めてなかったじゃん。あ、ねえ聞いてよアズマさん』
『アゲハッ!! いいから言わなくて!! ほら! 練習試合が始まるよ!!』
『この子、七転八倒を何て呼んだと思う?』
『アゲハッ!! 集中ッ!! 気を抜いたらダメッ!!』
『リーダーちょっとうるさい』
「そうですよ、リーダー。今、アゲハちゃんが喋ってるじゃないですか」
『リーダーの言うことは聞くんじゃなかったの!?』
『時と場合によるかな~』
「社会人はこういう時『善処します』って言うんですよ。知ってました?」
『大人って最低だッ!!』
「ミチエーリさんも、これでひとつ大人に近づきましたね。で、アゲハちゃん。話の続きは?」
『あ、そうそう。ミチェってば、七転八倒を『ななころやっき』って読んでたんだよね~』
『ギャーーーーーーーッッッッ!!!!!!!』
『ミチェうっさい。ウチ、今アズマさんと話してるの』
『もっと集中しようよッ!! もうすぐ本番なんだよ!?』
「そうですよ、アゲハちゃん。このままじゃ本番で敵に撃たれまくって『ななころやっき』しちゃいますよ!!」
『あはははははははははっ!!!! 確かに~。ななころやっきしちゃうわ~』
『はい! はい! そんなにリーダーを虐めて楽しいですか!?』
『めっっっっっちゃ楽しい』
「安心してください、ミチエーリさん。うちのコメント欄は大盛り上がりです」
『あ、ウチもウチも~』
『みんなひどい! いじめだ!!』
『いじめだって~。なんかそんな風に思われてたなんて悲しいね……』
「本当ですね。そっか、いじめだったんですね……」
『…………』
「…………」
『ねえ、喋ってよ』
『…………』
「…………」
『ねえ! 喋ろうよ!! ほら見て!! ここにきれいなお花が咲いてるよ!?』
『…………』
「…………」
『ね~え~。ごめんなさいするからー。いじめじゃない。2人のはいじめじゃないよ』
『…………』
「…………」
『お願いだから喋ってよー。この空気にななころやっきしそうだよー』
『はい! ななころやっき頂きましたーッ!!』
「ななころやっき入りましたーッ!!!!」
『ななころやっき~!!』
「ななころやっきー!!」
『いぇ~い』
「いぇーい」
『もうヤダ!! この2人本当にヤダ!!』
『だが、そんな2人を呼んだのはミチェなのだ』
「そう。俺たちはミチエーリさんに呼ばれたのです」
『う~~~~~』
『あらら。アズマさん、ウチらちょっと最強過ぎたかも』
「ですね。大丈夫ですよ、ミチエーリさん。もういじわるしませんから」
『……嘘だ。絶対また私をいじめるんだ』
『大丈夫だって~。ほら、ミチェがかわいいから、ついね? ごめんって~』
「アゲハちゃんの言う通りです。かわいい子って、ついからかいたくなっちゃうんです。ごめんなさい」
『本当? 私かわいい?』
『めっちゃかわいい!!』
「もう一番かわいいですよ!!」
『……本当?』
『本当だって~』
「本当です」
『じゃあ、みんなでミチエーリかわいいって言って?』
『任せてよ!! そんなのお安い御用って、敵だ』
「あ、ヤバいです!! これヤッバいです!! ちょっと待ってください!? 本当にヤバい!!」
『アズマさんこっち!! 引いて引いて!!!』
『ウチ、カバー入る!!』
「いったん回復します!! あっぶな。本当にヤバかったです」
『これどうする? 逃げちゃう?』
『賛成~。ここでやりあってもしょうがないし~』
「ポジションも微妙ですしね。逃げちゃいましょう」
2人の切り替えの早さよ。
ほんの一瞬前まで全然そんな感じなかったのに、敵に撃たれた瞬間に戦闘モードに切り替わってたからなぁ。
頼もしすぎる。
『それで、私が一番かわいいって本当?』
「まだその話するんですか!?」
本当に切り替え早いな!?
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