第72話 誰かがヘラってるてぇてぇって最高だと思う

『20時。コラボ』


 あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。なるほどね?

 この素っ気ない感じの連絡は、多分締め切りでメンタルがヤバいんだろうなぁ。

 果たして俺の手に負えるのか……?

 もう1人ぐらい生贄がいてもいいかもしれない。

 と、思った瞬間だった。


『アズマさん。今夜、空いてる? コラボしない? 20時から』


 恐らく俺と同じことを思ったミチエーリさんからチャットが来た。


『ナーちゃんから連絡来ました?』


『うん。アズマさんも?』


『はい。多分ヤバいですよね』


『ヤバい。最近忙しいって言ってたもん』


『覚悟しておいた方が良さそうですね』


『私、今から仮眠取るから、起きれなかったらごめんね?』


 って、いやいやいや!

 それ絶対に起きる気ないやつじゃないですか!!


『じゃあ、おやすみ!』


 待って勘弁して!?

 起きるよね!?

 絶対起きてくれますよね!?

 お願いしますよ!?


「……結局、起きてくれなかったんですよね」


『何か言ったかしら?』


「いえ、何も。えーっと、ということで今日は久しぶりにナーちゃんとEX.コラボします」


『この後もう1人合流するわ』


「果たしてそれはどうでしょう」


『どういう意味?』


「さっきその人とやりとりしてたんですけど、『これから仮眠する』って言ってたので、もしかしたら起きてこないかもしれないなーって思いまして」


『そう。それは許せないわね』


「きっと疲れてるんだと思いますよ」


 今日のナーちゃんと絡むのがめんどくさいとか、そんな理由ではないはずだ。

 きっと! 恐らく! メイビー!!


『ていうか、なんで私に内緒で裏でコソコソやりとりしてるのよ』


「そっちですか!?」


『今だってなんか『俺はあいつのことわかってる』って感じだったし。何よ、彼氏面? いつそんなに仲良くなったのよ』


「いやいや、そんなんじゃないですから!!」


『どうせ私の知らないところでよろしくやってるんでしょう』


「よろしくって何ですか!?」


『ズマっちの想像している通りのことよ』


「何も想像していませんが!?」


『嘘ね。きっと人前じゃ言えないようなことを想像したんだわ。そうに違いないわッ!!』


「急にテンション高くするのはやめてください! ビックリするじゃないですか!!」


『ほらはぐらかした!! やっぱり人前じゃ言えないことをしてたのね!?』


「だからしてないですってば!!」


 め、めんどくせぇ……。

 想像以上にめんどくせぇ……。


『もういいわよ。私は黙ります』


「それじゃあ配信にならないじゃないですか。ほら、リスナーさんたちもナーちゃんの声を聞きに来てるんですよ」


『あんたはどうなのよ』


「はい?」


『リスナーは、それはそうよ。みんな私の配信に来てくれて、チャンネル登録もメンバーシップ登録もしてくれるし、スパチャだって投げてくれるんだから。でも、ズマっちはどうなのよ』


「そんなの決まってるじゃないですか」


『何がよ。何が決まってるって言うのよ』


「ナーちゃんと一緒に遊びたいからコラボしてるんです」


『本当に……?』


「それ以外何があるって言うんですか。それに、今日ナーちゃんからコラボに誘ってもらって嬉しかったんですよ。最近は忙しくしてるって聞いてたので、ちょっと誘いづらかったですし」


『そう。なら、いいわ。さてと、それじゃあゲーム始めるわよ!』


『ごめーん! 遅くなった!!』


『あら、ミチェ。ちょうどいいタイミングよ。これから始めるから』


『あ、本当に? よかったー! 寝坊して、起きたら約束の時間になってたから、ヤバい! って思ってたの!!』


 ……本当かぁ?

 それ、本当に本当かぁ……?

 本当に寝坊なのかぁ……?

 ナーちゃんのご機嫌取りが終ったから通話に入ってきたんじゃないのぉ……?


『……何? アズマさん』


「いえ、何も。とにかく、来てくれてよかったです」


 この際、何も言うまい。

 下手なことを言って、コラボに誘われた時のやりとりを暴露でもされた方が困ったことになるし。

 まあ、その時は道連れだけどね!!


『ナキアとゲームするの久しぶりだよね! ずっと忙しかったし!!』


『もう地獄よ。ちょっと大きな案件が入ってるおかげで、いつもの3倍は忙しいわね』


『さすが人気イラストレーター!!』


『ミチェはいい子ねー。なでなでしてあげるわ。なでなでー』


『わーい! なでなで~』


『あら可愛い。今日はミチェとイチャイチャしてようかしら』


『時代はナキアズよりナキミチェだね! アズマさん、残念!!』


「むしろ需要しかないので、好きなだけイチャイチャしてください。というか、お2人のイチャイチャタイムは俺に話しかけないでください」


『……え~』


「当然じゃないですか。VTuber界隈ではもはや常識ですよ。てぇてぇに挟まる奴は万死に値するって」


『あはははははっ! めちゃくちゃ早口!! オタク出てるよ!!』


「こんな至近距離でてぇてぇの波動を浴びてるんですよ? オタクのひとつやふたつ出ますよ。当然じゃないですか」


『なんかオタク出してるアズマさんって新鮮だ』


『あら、そう? ズマっちって結構オタク出してくるじゃない』


「それは裏での会話だからですよ。配信であんなテンションで話してたら、さすがにヤバいですって」


『確かに、オタク出してる時のズマっちはキモいわね』


「それはストレート過ぎませんか!?」


 もうちょっとオブラートに包んで欲しい。

 オタクはなぁ、キモいって言われたら息絶えるんだぞ!?

 繊細な生き物なんだぞ!?


『冗談よ。あ、それじゃあ今度性癖語りでもしましょうか』


「なんでですか。絶対に嫌です」


『ズマっちのエッグい性癖をみんなに教えてあげればいいじゃない』


「性癖については、ナーちゃんにだけには言われたくないんですが!? 誰よりエグいじゃないですか!!」


『そんなの私のリスナーなら全員が知ってるわ』


「なんで自信満々なんですか……」


 そういう開き直り方はよくないと思います!!


『ミチェだって聞きたいわよね、ズマっちの濃い性癖トーク。……あら、反応ない?』


「ミチエーリさん?」


 あれ、ミュート……?


『あ、私!?』


「そうですよ! 他にミチエーリさんなんて名前の人はいませんよ!?」


『喋っていいの……?』


「いいに決まってますっていうか、何でそんな反応に……?」


『だってさっきアズマさんが『てぇてぇに挟まる奴は万死に値する』って言ってたから、喋ると死んじゃうって思って……』


『じゃあ悪いのはズマっちね』


「何でですか!? ていうか、ちゃんとツッコみましょうよ!!」


 てぇてぇしてるって言われたらちゃんとツッコもう!!

 ほっとくと既成事実になっちゃうから!!


『わ、私。まだ死にたくないって思って、だから今日はずっと黙ってないといけないんだって……。うぅ……、ぐす』


『あーあ、泣かしたわねぇ。泣かしちゃったわねぇ。いーけないんだ』


「100%ウソ泣きですけどね!? 『ぐす』って口で言ってるじゃないですか!!」


『し、死にたくない。私死にたくないヨー』


「いや棒読みッ!! さすがに棒読み過ぎますって!! 本当に死にたくないなら、もっと感情込めましょうよッ!!」


『あはははははっ!!!! あ~、やっぱりアズマさんのツッコミっていいね!! 元気になる!!』


「最近思いますけど、ミチエーリさんも遠慮がなくなってきましたよね」


『え、そう?』


「はい。この間の突発でコラボした時も思いました」


『あ! それ!』


 え、どれ?

 ナーちゃん? 突然どうした?


『それよ、そのコラボ!! なんであんたら2人だけでコラボしてるのよ! 私も誘いなさいよ!!』


 あ。


『作業しながら見てたけど、2人だけで仲良くしてたじゃない!』


 これは、ヤバいかも。

 声がガチだ。

 地雷踏んだっぽい。


「あのコラボはたまたまでしたから! ミチエーリさんがツイッターでランク周回のパーティー募集してたのを見つけたから連絡したんですよ」


『そう偶然だよ! 偶然!!』

 

 ミチエーリさんも慌ててる!

 ってことは、ガチなやつだ──ッ!!


『だったら2人揃った時に連絡くれればよかったじゃない』


「だからさっきも言ったじゃないですか。ナーちゃんが忙しいの知ってたから、連絡したら悪いかなって思ったんですよ!」


『知らないわよ、そんなの。あんたたちから連絡来ないとさみしいのよ』


『ごめんね? 次からはちゃんと連絡するから』


『……今日だって連絡したのは私からじゃない』


 ……これ、どうする?

 配信越しだけど、それでも間違いなく、今俺とミチエーリさんは顔を見合わせた。

 そして、通じ合った。

 そう! 今俺たちの気持ちはひとつなったのだ!!

 すなわち。今日の配信では、ひたすらナーちゃんの機嫌を取り続けようと──ッ!!

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