第66話 憧れに向かって踏み出せば、それは挑戦と言う名の道になる。
『うっま!? なんだそのキャラコンは!?』
『ヤバいッスね、あのショタ君。ガチでフメツより強いんじゃないんスか?』
英さんと埼京さんだけじゃない。
今日初めてレオンハルトのクロファイを見たであろうリスナーたちも、2人と同じように驚きに溢れたコメントをしている。
『動きがエグい』
『上手すぎて意味わからん』
『このクロファイ、俺が持ってるやつと違う。俺もこれ欲しい』
『これで競技勢じゃないってマジ?』
一時はどうなることかと思った配信の空気も、俺が体を張ったからすっかり元通りの盛り上がりを見せていた。
そう、全ては俺の計算通りに──ッ!! ……嘘です、ごめんなさい。あれは完全に事故です。
で、でも、世の中には怪我の功名って言葉もあるしな!!
結果として配信が盛り上がったんなら、何も問題はない!! ……そう、何も問題はないんだ。
『どう? すごいでしょ、うちのエースは』
『正直、ここまでやるとは思っていなかった。また1人コラボしたい相手が増えたな』
『袈裟坊主さんって結構バトル脳?』
『強い相手とやるのは好きだな』
『坊主なのに?』
『坊主だからだ。ストイックに強い相手との対戦を求めることで、精神修養に努めているのだ』
『キャラ設定に微妙に忠実なのウケるね』
『……君たち、和み過ぎじゃない? こっちはかつてなく真剣に戦ってるんだけど』
ラナさんと袈裟坊主さんのやりとりに、戸羽ニキからツッコミが入る。
『おかしなことを言うわね。観戦用の配信枠を閉じたのはフメツじゃない』
『もっと応援してくれると思ったんだけど!? レオンハルト君もそう思わない!?』
『………………』
『ガチ集中モードやね、あれは』
「ですね。今話しかけても無駄です。多分何も聞いてないので」
『あれ!? これ僕だけハンデ背負ってる!?』
「それでも戸羽ニキならカッコいいこと見せてくれるって信じてますよ!!」
『事故ったくせに煽るのやめてくれない?』
「皆さーん!! ここに新人を虐めて楽しむトップVTuberがいまーす!!」
『切り抜き師のみんなー。さっきの事故シーンは絶対に切り抜いてねー!!』
「ひっど!?」
『トップVTuberの力を見せてやる。震えて待つんだね』
『明日からは切り抜き漁りが捗りそうね。動画を見つけたら、ちゃんとURLを送ってあげるから安心しなさい』
「それはただの嫌がらせですよね!?」
『なんだったら私が作ろうかしら。よかったわねズマっち。安芸ナキア謹製の切り抜き動画なんて史上初よ』
「そんな貴重な機会をこんな嫌がらせで浪費しないで貰えます!?」
俺は学んだよ、今回の企画で。
この人たちの前で隙を晒しちゃいけない。
そんなことしたら骨の髄までしゃぶりつくされる。
これはしっかり肝に銘じておかないと……。
『フメツ! ヤバいッスよ!? お喋りしてる場合じゃないッス!!』
『大丈夫だ、ツルギ!! まだだ!! まだフメツは負けない!!』
『当たり前でしょ。ここからだよ、僕が強いのは』
3対2で再開した戦いも、お互いに1ストックずつを削り合う展開となり、尚もレオンハルトが戸羽ニキを追い詰めている展開となっている!!
『いけ! そこや、レオンハルト!!!』
『レオンハルト君、頑張って!!』
『いいよいいよー! 落ち着いてる!!』
「レオンハルトなら絶対に勝てます!!」
自然、観戦している俺たちの熱も入っていく。
『まだ挽回出来る余地はあるぞ』
『フメツならこっから逆転するなんて余裕ッスよ!!』
『あの苦しかった日々を思い出すんだ!!』
『負けたら承知しないわよ!!』
それは相手のチームにも伝播していき、
『リスナーさんたちも~、応援よろしく~』
そんなぴょんこさんの呼びかけに応えるように、コメント欄も加速していく。
『復帰落ち着いて!!』
『撃墜いける!!』
『うまい!!』
『惜しい!!』
『ナイス復帰!!』
『まだまだ!!』
『いけるいける!!』
『勝てる!!』
『いけ、レオンハルト!!』
『フメツがんばれ!!』
応援、称賛、激励──。
熱戦を見守る数万人ものリスナーたちの言葉で、コメント欄が溢れ返る。
余りにも多くの人たちが手に汗を握り、2人の戦いに盛り上がる。
『よし!!』
『さすがフメツッス!!』
『まだまだまだまだ!!!!』
『ここからよ!!』
攻防は一瞬で入れ替わる。
レオンハルトの攻撃にうまくガードを合わせた戸羽ニキが、そのまま撃墜まで持っていき、これでストック数はイーブン。
1対1。最後の戦いが始まる。
『大丈夫や、レオンハルト!!』
『ダメージ勝ってるよ!!』
『落ち着いていこう!!』
「このまま行けば勝てます!!」
『何言ってるんスか! 最後はフメツが逆転するに決まってるじゃないスか!!』
『フメツはもってる男だかなら!! 最後に勝つのはフメツだ!!』
『フメツの勝負強さに震えるがいい』
『私がいるチームなのよ? 負けるわけないじゃない』
『いやいやいや! そっちこと何言うてるんですか!? 最後に勝つのはレオンハルトに決まってるやろ!?』
『そうですよ!! レオンハルト君が負けるはずありません!!』
『レオンハルトきゅんが最強なんだよ? 絶対に勝つから』
「レオンハルトは勝ちます。だから、きっちりさせてもらいますよ、下剋上。ですよね、レオンハルト?」
『……うん。任せて』
余りにも頼もしい一言と共に、撃墜から復帰してきたレオンハルトがステージ上に舞い戻る。
迎え撃つ戸羽ニキ。先の攻防でダメージレースは勝っているものの、少し油断すればそんな差は一瞬にして詰められてしまうだろう。
それでも俺は、レオンハルトが勝つと信じて疑わない。
なぜかって?
もちろん、あいつの強さを知っているからって言うのはある。
でも、それだけじゃない。
レオンハルトなら戸羽ニキに勝てると信じられるその理由、それは、──あいつが心の底から戸羽ニキに憧れていると知っているからだッ!!!!
『──くっ』
うまく間合いを管理されて、戸羽ニキが苦しそうに声を上げる。
『あっぶな』
避けた先に攻撃を合わせられて、何とか撃墜されずに持ちこたえる。
『殺意高過ぎ』
復帰してくる戸羽ニキへ、レオンハルトは容赦なくプレッシャーをかける。
『やりにく過ぎる!!』
戸羽ニキがそう声を上げる理由も、レオンハルトがしっかりペースを握り続けてられているのも、全てはあいつが憧れ続けていたからだ。
戸羽丹フメツに憧れているから、そのカッコよさに魅せられたから、レオンハルトはひたすらに戸羽ニキの戦いっぷりを見ていた。
だからこそ知っている。
戸羽ニキならどう立ち回るかを。
戸羽ニキならどう対処するかを。
戸羽ニキならどう戦うのかを──ッ!!
その勝ち筋も、勝ち方も、勝利の方程式を全て知っている──ッ!!
ゆえに、レオンハルトは勝てる。
戸羽ニキの勝ち筋を負け筋に、勝ち方を負け方に、勝利の方程式を敗北への方程式へと変える術を知っている。
俺は、レオンハルトを見て知った。
憧れを自分にとっての理想で終えずに、目指すべき頂だと挑戦を始めたとき、それは現実のものとなることを。
理想の存在として遠ざけずに、挑むべき道として一歩を踏み出した時、その憧れこそが力になることを。
レオンハルトは勝つ。
戸羽丹フメツへ憧れ、自らもVTuberとして同じ世界に降り立ったレオンハルト・レオンハート。
喋るのが苦手で、コミュニケーションが下手で、それでも一歩を踏み出したレオンハルトの挑戦は、憧れた存在への勝利という、最高の形で報われる──ッ!!!
『『『『『『────────────────────────────────ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』』』』』』
その瞬間、確かに配信が揺れた。
歓声を上げる俺たち、コメント欄に乱打するリスナーたち。
『GAME SET』の文字が躍る中、遠く離れた多くの人たちの興奮が伝わってくるのを感じた。
リザルト画面に大きく表示されるのは、──シャドーボーイ。
キャラクターこそ同じだが、そのカラーは戸羽ニキが使っていた黒ではない。
白い衣装に身を包んだシャドーボーイは、同じキャラクターで真っ向から勝負をしたいと、この日のために仕上げてきた、レオンハルトの使用キャラクターだ。
『勝った!! 勝ったで!! さすがレオンハルトやッッッ!!!!!!』
『やったやったやったーッッッ!!!!!!!!』
『最強!! 最強だよ!!!!』
「やりましたね、レオンハルト!!! 本っ当に最高です──ッ!!!!!」
『勝てた──ッ!! 僕、勝てたよ──ッ!!!!』
「そうです!! 勝ったんですよ!!!!」
『ホンマ最高や──ッ!! 天才やで、お前はッ!!!』
『あーもーッ、ヤッバい!!!! 手、震えてるよ!?』
『すごかった!! カッコよかったよ!!!!』
喜びを爆発させる俺たち。
リスナーさんたちからも、
『おめでとう!』
『すごかった』
『カッコよすぎ』
『ミラー対決アツかった!!』
と、多くの言葉と一緒にたくさんの拍手の絵文字が届いている。
そしてそれはもちろんレオンハルトだけじゃなく、
『惜しかった』
『最後もうちょっと!!』
『ナイファイ!!』
『GG』
と、もう1人へも送られる。
『惜しかったッス!!』
『俺は感動したぞ!!』
『一歩及ばなかったな』
『相手はショタだし、しょうがないわよ』
いや、ナーちゃんの慰め方はよくわからないけど、それでも戦い抜いた戸羽ニキを労っている。
『レオンハルト君、だっけ?』
『え、あ、はい──ッ!!』
『ありがとう。めちゃくちゃいい勝負だった』
『ぼ、僕も! その、戦えて嬉しかったです!! あ、その、憧れてたので、戸羽丹フメツさんに──ッ!!』
『嬉しいよ、そう言ってもらえて。でも負けちゃったからなぁ』
『あ、う。えっと、その……』
『僕も練習するからさ。また戦ってよ。今度は負けない。絶対に勝つ』
『──ッ!? は、はい!! ぼ、僕も。もっと強くなります』
『あはは。それは困るなぁ』
『え、あ、えっと……?』
『冗談。強くなっててよ。その方が倒し甲斐があるし』
『は、はい──ッ!!』
『ただの雑談なら勝てる気がするな』
「雑談に勝ち負けなんてありませんよ、戸羽ニキ」
勝敗の基準があるのかわかんないじゃん、それ。
『いやー、負けたー!! 強かったよ、アズマたちは』
「当然です。勝つためのメンバーを集めたんですから」
『お遊び企画かなーって思ってたら、かなりガチだったね』
「リベンジしたくなったらいつでも言ってください」
『言うねー』
「勝ちましたから」
『いや~、本当にアツかったね~。最後は私も叫んじゃったよ~。えっと~、というわけで~、トップVTuber連合 VS 新人VTuber連合の戦いは~、新人VTuber連合の勝利~!! 見事下剋上を果たしました~!!!!』
そんなぴょんこさんの言葉に、再びコメント欄に拍手の絵文字が溢れかえる。
流れていくコメントの中には、俺たちの名前も混じっている。
同接者数5万人越え。
新人VTuberからすれば、これだけの人たちに見てもらえてるってだけで、こみ上げてくるものがある。
『今回の企画は~、これで終わりだけど~、また何か企画するから~、その時はまた見に来てね~。それじゃあ~、ばいばい~』
『またねー』
『楽しかったッス!』
『次も会おう!』
『次も楽しみにしていてくれ』
『それじゃあね』
『ありがとさん。楽しかったでー!!』
『ありがとうございましたー!!』
『最高だったよー。またねー』
『あざまるうぃーす!!!!!!!!!』
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