第64話 こんなの嘘だと言ってくれ──ッ!!
「戻りましたー!」
『アズマさん、お疲れ様です!』
『さすがリーダーや! イカしてたで!!』
『東野ちゃぁん。よかったよ~……』
「ラナさん、まだ泣いてるんですか!?」
『ちゃうで。一回泣き止んだんやけど、対戦中にまた泣き始めたんや』
『だってぇ~、めっちゃ感動したんだもん~』
『袈裟坊主さんとの対戦中には泣き始めてたんですよ。すごいよ~ってずっと言ってました』
「ラナさんって意外に泣き虫なんですね!」
『うるさいなぁ。お酒飲むよ!?』
「意味わからない脅し文句きた!!」
いや、いいなぁ!! この感じ。
ガチ対戦の後だと、みんなとのこういうやりとりがすっごい染みる!!
実家に帰った時みたいな感じだ!!
『最後惜しかったなぁ。あとちょっとでもう1ストック削れたやん』
『エイガさん、めちゃくちゃ叫んでましたよね。『行け! そこや!!』って』
『そら叫ぶやろ。あんなアツい戦い見せられたら。むっちゃ興奮したで!!』
『先に1ストック落とされた時はどうなるかと思っちゃったよー』
『姐さん、その時点で号泣やったもんな。ほんで『どうしよう!? ねえ、どうしよう!?』ってずーっと叫んでたんやもん』
『ちょ、やめてよ!! 恥ずかしいじゃん……』
「おぉ!?」
すごい。今初めてラナさんのことを可愛いと思った。
めっちゃ女の子じゃん!
これ、ラナさんのファン増えたんじゃないか!?
『まあ、でも。その後の立て直しはさすがって感じやったな。練習の時より強かったんとちゃう?』
「本当ですか!? いや、よかったぁ。あのまま負けたらどうしようかと思いました!!」
あそこは本当に気張らなきゃいけないとこだった。
戸羽ニキに『ガッカリした』って言われることほど怖いことはないって思い知ったし。
『ちなみに、あそこで1ストック落とせてなかったらリーダー交代でしたよ!』
「え、どういうことですか!?」
『エイガさんがずっと言ってました。『そんなんで負けたらリーダー交代や!』って。ね、エイガさん?』
『ちょ!? なんでバラすん!? やめてや!!』
「まぁねー、そうですよねぇ? 今日大活躍したエイガから見れば、俺程度なんかねぇ?」
『ちゃうやん!? そういうことや無いやろ!? って、さっきからテンションおかいないか!?』
「いやいや、俺はいつも通りですよ?」
『絶対嘘や!! なんかハイになってるで!?』
「そんなことより、エイガが俺のことをクソ雑魚って言ってたことを詳しく」
『言うてへんやろ!? って、ほら! そんなことよりレオンハルトの応援せな!!』
『ここで逃げるのがポチのポチたる所以だよねー』
『姐さん!? さっきまでのしおらしい感じはどこいったん!?』
『何それ。円那知らない。夢でも見てたんじゃないの?』
『なんやねん、それ!! ア、アズマ!! あれどない思う!?』
「ちょっと残念ですよね。可愛かったのに」
『え』
『え』
『え』
「あ、ほら。対戦枠にレオンハルトが来ましたよ」
『いやいやいや! そっちも重要やけど、今の聞き捨てならんぞ!?』
『ア、アズマさん……?』
『えっと~、……レオンハルトきゅんの応援しようか』
『姐さん! そこはちゃんとツッコまんと!!』
『や、いいです。変な人間関係に巻き込まれたくないので』
『……聞いて欲しい』
『カレリン。そういうのは自分で頑張るものだよ』
『う~……』
「いやぁ、みんな本当にこういうの好きですよねぇ」
『ア、アズマさん……?』
『東野ちゃん……? なんかおかしくない……?』
「いやいや、何言ってるんですか。そんなことあるわけないじゃないですか。FOOOOOOO!!!!!!!!!!!!」
『アカン!! やっぱりや!! これだいぶテンション狂っとる!! どないしたんや!?』
「いや、すみません。戸羽ニキとの対戦で色々テンション上がっちゃったもので。ちょっと落ち着きますね。水飲みます」
戻ってくる前に落ち着けたつもだったんだけど、ダメだったか……。
思い出すだけでテンションが上がってしまう。
『あ~、びっくりしたぁ。アズマさんが急にチャラくなったのかと思った』
『急にも何も、あいつはだいぶチャラいで?』
「それは聞き捨てなりませんね。ていうか、みんなちゃんとレオンハルトを応援しましょうよ」
『東野ちゃんが変なこと言うからじゃん』
「ええ!? 俺のせいなんですか!?」
『アカン。やっぱりテンション高いままや』
『変になったアズマさんに代わって、わたしたちがちゃんと応援しなきゃダメですね!』
『せやな! 頑張りや、レオンハルト!!』
『レオンハルトきゅん、頑張って!』
『レオンハルトなら勝てるよ!!』
「えぇ~……。なんですか、この流れ。釈然としないんですが」
ああ!? リスナーまで『アズマはいったん置いておいて』とかコメントしてる!? みんなひどくない!?
もういいよ──ッ!
俺もレオンハルトの応援するから!!
【は~い。ということで~、トップVTuberへの新人VTuberの下剋上も~、最後の一戦を残すのみとなりました~。どう~、フメフメ~? ストック差はだいぶあるけど~?】
【問題ないよ。むしろ僕からすればこれぐらいのハンデはちょうどいいくらい】
【おお~! さすがの自信じゃん~。対する新人VTuber連合最後の選手は~、レオンハルト・レオンハート~!! ズマちゃんお墨付きだからね~。期待してるよ~】
【あ、う。その、……が、頑張ります】
【なんか~、Theショタって感じだね~。この配信終わったら~、ちょっとお姉さんとお喋りしない~?】
【こらこら、配信中に何言ってるんですか。ぴょんこさんがBANされたらこの配信終わっちゃうよ?】
【大丈夫だよ~。だって~、まだフメフメの配信がBANされてないでしょ~?】
【……? どういうこと……?】
【ナキちゃんが大人しくしてると思うの~?】
【!? ちょっ、ナキア先生!? 僕の枠で変な事口走らないでよ!?】
あ、ダメっぽい。
コメント欄が一斉に『フメツRIP』とか『合掌』とかで埋まり出した。
そっか、ナーちゃんはレオンハルトが刺さるのか。
ふーん。そっかぁ。……近寄らせないようにしないと。
ていうか、レオンハルトはロックオンされ過ぎじゃない?
ナーちゃん、ラナさん、ぴょんこさんとコラボさせたらどうなるんだろうとか思ったけど、怖いから考えるのやめよう……。
【んんっ。え~、それじゃあ~、気を取り直して~】
【気を取り直すのはぴょんこさんだけね。僕らはとっくに準備万端なんだから】
【フメフメ~、うちの配信出禁にするよ~? ……え~、ということで~、トップVTuber連合戸羽丹フメツ vs 新人VTuber連合レオンハルト・レオンハート~。対戦開始~!!!!!】
いよいよ最終戦が始まった!!
頼むぞ、レオンハルト!!
「って、え……?」
『あ、えぇ……?』
『嘘やろ……?』
『レオンハルトきゅん……?』
待って待って待って!!
マジで!?
マジか、これ!?
頼む、待ってくれ!!
『アカン!!! これごっつアカンッ!!!!!』
『ヤバいヤバいヤバい!! ちょ、レオンハルトきゅん!?』
『ダメだって!! ねえ、レオンハルト!?』
「頼むから嘘だって言ってください!!」
まさしく阿鼻叫喚。
俺たちだけじゃない。
合宿配信から俺たちを応援してくれていたリスナーたちもコメント欄でザワついている。
『は?』
『うっそだろ、おい』
『これが、レオンハルト……?』
『アカン』
『ヤバい』
『実況も戸惑ってるじゃん……』
【あ~、えっと~……? さ、さすがフメフメだね~。めちゃくちゃコンボが上手いよ~】
【あ~、はい。うん、まあ、これぐらいは……。──ッ、すぅー……】
ヤッバい!!
あの戸羽ニキまで戸惑ってる!!
『東野ちゃん。これ、マズくない……?』
「いや、正直ヤバいです」
『ど、どうしたのかな。レオンハルト。だって、こんな……』
『緊張してるんちゃう……? じゃなきゃ、こんなんあり得んやろ!? レオンハルトやぞ!?』
エイガの言いたいことはわかる。
気持ちは俺たち全員同じだ。
あのレオンハルトが、どうしてこんなに弱いんだ──ッ!?
まさしく瞬殺劇。
対戦が始まった瞬間、戸羽ニキが速攻で仕掛けてきたコンボ。
普段のレオンハルトなら難なく対応できるはずのそれを、きれいに貰ってしまった。
でも、それだけならまだいい。まだよかった。
初の大舞台。しかも相手は憧れのVTuber。
緊張で動きが固くなってしまってもしょうがない。そこから立て直せば全然問題なかったのだ。
ただ、レオンハルトはそのまま撃墜されてしまった──ッ!!
『アカン。これは絶対にアカン……』
『嘘だって言って……』
『冗談、だよね……?』
みんながうわ言のように呟くのも無理はない。
2ストック目。ステージに復活してきたレオンハルトは、攻撃どころか、移動すらほとんどしない棒立ち状態。
そんなレオンハルトに、戸羽ニキも戸惑ったように何も出来ない。
ぴょんこさんが何とか取り繕うように言葉を発するが、もはや手遅れだ。
さっきまであんなに盛り上がっていた配信が急激に冷めていくのを感じる。
コメント欄にも戸惑いと嘲笑、そして非難の言葉が流れてきてしまう。
盛り上がっていたからこそ、期待していたからこそ、その熱が冷めていくのも、また早かった。
『お通夜じゃん』
誰かがそうコメントをしたのを目にした瞬間だった。
【うぅ……。ぐすっ】
涙にぬれたレオンハルトの嗚咽が聞こえてきた。
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