第27話 クライマックスの始まりだ!!

『ラストラストラストッ!!!!』


「行ける行ける!!」


『頑張れっ!!!!』


「あとちょっと!」


『あーッ!?!?』


『いや、ナイファイナイファイ! 惜しかった!!』


「2位ですよ! さすがナーちゃん!!」


『あそこで押し切れてたらーッ。ああもうッ!! 悔しいわねッ!!』


「どんまいです!! めっちゃカッコよかったです!!」


『これは結構順位上がったんじゃない?』


『ちょっと水飲むわ』


「了解です。休憩にします?」


『あ、じゃあ僕ちょっとトイレに行ってくる』


『私も』


「OKです。頑張って繋ぎますね」


 これまで通話状態だった2人のディスコードがミュート状態になる。四戦目が終わり結果が集計されれば、すぐに最終戦である五戦目が始まる。

 いや、でも今のは惜しかったなぁ。本当にあとちょっとだった。


「やっぱりナーちゃんってめちゃくちゃ強いですよね。正直、あの状況から2位まで押し上げるとは思わなかったですもん」


 二戦目が終わった直後に3人でムーブについての意識合わせをしておいたおかげか、続く三戦目以降が動きやすくなった。

 今の四戦目にしてもそうで、中盤までは盤石の態勢で敵チームと戦闘をしつつ、調子よく戦えていた。

 ただ、残り7チームとなったタイミングで運悪く4チームがバッティング。何とか他3チームを退けたところに英さんのチームがやってきて、俺と戸羽ニキが上手い具合に漁夫られてしまった。

 何とかナーちゃんだけは戦線を離脱したけれど、3人全員が残っている3チームを相手取るのはさすがに無理があったのか、最後の最後は人数差に押し切られてしまった。


「正直、練習試合のタイミングでジブロンドとレインを交換しようって話になって時、ちょっと迷ったんですけど、今はあの選択が正解だったって思います。俺にあんな立ち回り出来ないですもん。マジでナーちゃんのレインは強いし、カッコいい」


 そりゃ、あれだけ自分が最強って言い張るわけだ。

 ていうか、これで本業がイラストレーターって意味がわからなくない? プロのeSportsプレイヤーと比べたって遜色ないと思うんだけど。


『戻ったよー。何話してたの?』


「ナーちゃんが強すぎって話です」


『あ、すごかったよね今の。強いのは知ってたけど、めちゃくちゃカッコよかったし』


「フルパーティー2チームに挟まれて、あそこまで粘れる自信は俺にはないですね」


『僕もちょっと無理かなー。さすがナキア先生だね』


『あら、私の戻りを称えながら待ってるなんて、あなたたちもわかってきたじゃない』


 今だけはどれだけ調子に乗られようとも許せてしまう。

 それぐらいすごいものをナーちゃんには見せてもらった。


『四戦目の結果って出てるかしら?』


「まだですね。結構いいところまで行ってると思うんですが」


『今が2位で三戦目が4位でしょ? キルポイントもそこそこ稼いだし、いけてると思うんだよなぁ。あ、出た』


 よっしゃ!!

 四戦目終了時点で3位!!

 全然いけるじゃん!! 優勝を狙える位置にいる!!


『いや、これ。上二つが強いな』


『1位と10ポイント差ってことは、クラウンを取るだけじゃダメってことよね』


「ですね。クラウン取得で6ポイントなので、キルポイントでも1位のチームより5ポイントは多く稼がないと優勝出来ません」


『ていうか、ツルギのところが2位か。これは勝ちたいなー』


『英のところも5位にいるわね』


「英さんのところとうちが3ポイント差なので、普通に優勝を狙ってきますね。最終戦めちゃくちゃアツくなりますね」


『これは勝とう! 勝つしかない!! ていうか、あの2人に負けたくない!!』


「もちろんです! ちなみに俺はまだ個人最強も狙ってますからね」


『あら、それは最終戦で私よりキル数を稼ぐってことかしら?』


「はい。そのつもりです」


 ちなみに個人最強は、現在トップがミチエーリさん。なんかもう、さすがの一言しかない。ナーちゃんは4位につけていて、全然トップを狙える可能性はある。

 そして俺はと言うと、現状9位という何とも微妙な順位にいる。

 でも個人最強はキル数での順位付けではなく、招待ポイントの獲得数によって決まる。高ポイントのプレイヤーを複数キルできれば、まだまだ可能性はある。


『最終戦始まるよ。勝ちに行こう!!』


 戸羽ニキの号令と同時に、画面がゲーム開始の画面に切り替わる。

 キャラクター選択画面ではこれまで通り、戸羽ニキがブラッドフェザー、ナーちゃんがレイン、そして俺がジブロンドを選択する。

 そして画面がバトルフィールドに切り替わればいよいよだ。

 大会ルールで初動のエリアは各チームごとに割り振られている。そのエリア内で装備を整え、各自のルート取りで最終安地を目指して移動をしていく。

 俺たちも装備を整え、安地収束に合わせて移動を開始した直後だった。


「!? 撃たれてますッ!!」


『早くない!?』


『私たちみたいにキルポイントが欲しいんでしょうよ!!』


『ここで一瞬耐える!! アズマさんは回復を!!』


「了解です!!」


 ナーちゃんの言う通りだろう。

 優勝が狙えるチームからすれば、1ポイントでも多く欲しい。となれば、これまでみたいにとりあえず最終安地を目指して生き残るムーブよりも、序盤から積極的にファイトを仕掛けてきてもおかしくない。


「グレネード投げます!!」


『詰めるわ。ズマっち!!』


「ボックス置きました!!」


『後ろフォローする。ゴーッ!!』


 向こうよりうちの方が強い!!

 ナーちゃんと俺の圧を押されてるし、まだ序盤だから向こうも装備が弱い。

 このまま押せばいける!!


「戸羽ニキ、ナイスフォローッ!!」


 今のは上手い!! さすが戸羽ニキ!!


『これラストね』


「やりましたね」


『漁夫が来ないか見てるから、2人から先に回復して』


 倒した敵が残した装備から回収出来るものを回収しつつ、今の戦いで削られた分を回復する。

 弾も回復アイテムも一通り回収が済んだところで再び移動を開始する。


「やっぱり今回戦闘が多いですね」


『もう5チームも脱落してるのか』


『私のキルポイントが減っていくわ。みんな私にやられるまで頑張りなさいよ』


「ナーちゃんの場合、こういうセリフがフラグにならないからすごいですよね」


『僕、前に似たようなこと言ってたら『戸羽丹フメツの即堕ち二コマ』ってタイトルで切り抜かれたよ』


「嫌すぎますね、それ」


『まだまだね、フメツは。私なんて『安芸ナキアの勝利宣言集』ってタイトルの切り抜きがあるわよ』


『圧倒的格差じゃん。ちょっとリスナー、僕も頑張るからそういうカッコいい切り抜き作ってよ』


『じゃあ、私が作ってあげるわよ』


「え、ナーちゃんって動画編集も出来るんですか?」


『当たり前じゃない。うちのチャンネルって全部私が運営してるのよ?』


「それもそうですね。ナーちゃんって逆に何が出来ないんですか?」


『禁欲ね』


「あ、はい。すみません、聞いた俺がバカでした」


 そうだった忘れてた。

 ナーちゃんの多才っぷりと変態っぷりを称して、『禁欲だけは出来ない女』って呼ばれてるんだった。いや、変態っぷりは称賛されてるのか怪しいけど。


『どうしよう、これ。結構いろんなところでやり合ってるっぽいな』


『とりあえずはいつも通り、安地予想のルート取りでいいんじゃないかしら?』


「キルポイントも大事ですけど、クラウンを取らないとどうしようもないですしね」


『さっき1チーム倒したから、最低限残り1チームを倒してクラウンを取らないと優勝にはならないんだよね?』


「そうですね。ただ、現状1位のチームだって順位ポイントとキルポイントの両方を稼いでくると思うんで、俺らはそれ以上にポイントを稼がないとダメです」


『それならこっちのルートはどうかしら? 多分、初動でこのエリアに降りたチームと遭遇できるでしょうし、もしかしたらこのエリアに降りたチームとやりあってるから、横から両方とも潰しに行けるわよ』


 ナーちゃんがマップ上に示したのは、俺たちが向かってるポイントのすぐそばのエリアだった。確かにここなら狭い三叉路みたいになってるし、うまくいけば漁夫れるな。ただ、


『リスクはあるよね。逆に僕らが挟まれたら結構キツイし』


「それはそうですけど、俺は賛成です。勝つためにリスクを冒すのは有りだと思います。あと、その方が燃えません?」


『あら、いいこと言うわね。確かにこっちの方がアツいわね』


『2人のテンションが思ってたより高い。OK、わかった。じゃあ、遠回りだけどこっちから行こう。ただ、ヤバくなったら逃げたいから、ナキア先生とアズマさんのスキルが溜まってからね』


「それなら大丈夫です。あと3秒で溜まるんで、移動中に使えるようになります」


『私もよ。あと10秒あるけど、到着する頃には溜まってるわ』


『よし。じゃあ、行こう』


 そうして俺たちが次の戦場に向けて移動を開始したタイミングでも、多くのチーム同士が戦っているのだろう。すでに20チーム中7チームが脱落している。


『……いるね』


『さすが私。予想通りね』


「ちょうどやりあってますね。行きます?」


『一回スキャンする。状況を確認しよう』


 言うが早いが戸羽ニキがスキルを使う。

 戸羽ニキの使用するブラッドフェザーは、スキルで敵の位置や状況をスキャンすることが出来る。浮かび上がってきた情報から察するに──、


「両チームとも1人ずつダウンしてます!! 行けます!!」


『ゴーッ!!』


『遅いのよ。もう行ってるわ』


『ちょっとはかっこつけさせて欲しいんだよなぁッ!!』


「右倒しかけです!! グレネード投げました!! 倒しました!!」


『左の2人は潰したわ!!』


『こっちも1人やった!! あと1人!!』


 と、戸羽ニキが状況報告をする頃には、いち早く動いたナーちゃんにより最後の1人が倒されていた。

 いや、早いって。なんで俺と戸羽ニキが1人ずつ倒してる間に3人も倒してるんだよ。状況判断からの行動が迅速過ぎる。


『ズマっち、アーマーを交換しましょう』


「了解です」


『こっちスコープあるよ』


『貰うわ』


 6人分の増備を漁り、より強い装備へと交換をしたのち、俺たちは次の戦場を求めて移動を開始する。

 残りは9チーム。獲りに行こう、優勝を──ッ!!

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