第26話 行くぞ! 《全てがエロになる》!!

『7位か。微妙だね』


『あと3戦よね。まだ巻き返せるわ』


「ここからはクラウンを取りに行くのもそうですが、キルポイントも狙いに行かないといけないですね」


 現在1位になっているチームとの点差を考えたら、優勝できなくはないが……といった具合だ。勝つためにはしっかりとポイントを稼いでいかなければならない。

 次の三戦目、そしてその後にある四戦目、五戦目もとにかく少しでもポイントを稼いでいかないと、優勝争いにすら食い込めない。


「ていうか、ミチエーリさんのキル数エグくないですか?」


『あーね。多分だけど、初動で時間かけずにとにかく良ポジを確保しに行ってるんじゃないかな。で、ツルギのフォローがきっちりある状態を作って、ミチェさんが突っ込みやすい展開にしてるって感じ』


『さっき私たちがやられたパターンね』


『次、ああいう局面に遭遇したら、とにかく戦わずにスルーする方向で動いた方がよさそうだね』


「どうしても戦わざるを得ないときは?」


『まずはツルギを止める。で、ナキア先生のポータルを使って3人で一気に攻める。さすがに僕ら3人で行けば勝てるよ』


「英さんのところはどうします?」


『雄のところはオールラウンダーの集まりって感じのチームだから、平均点は高いんだよね。ただ、ミチェさんやツルギみたいに、わかりやすく強い距離とか立ち回りがないから、僕らなら近接戦に持ち込めば勝てると思う。ナキア先生もアズマさんもインファイト強いし』


「OKです。そうしたら、手順を踏んでインファイトで仕留めるのが埼京さんチーム、速攻で前に詰める瞬殺ムーブで倒すのが英さんチームってことで大丈夫ですか?」


『うん。それで行こう』


『他のところはどうするつもり? 強いところはそこだけじゃないでしょう?』


 ナーちゃんの言う通りだ。

 いくらお祭り企画とは言え、今回の大会に集められているVTuberたちは、普段から配信でEX.をプレイしていたり、どのシーズンでも上位ランクには食い込んでいるような人ばかりだ。

 俺らが埼京さんと英さんのチームを意識しているだけで、他にも強い人はいくらでもいる。


「初動からのムーブを確認しておきたいです。ハイド優先のムーブで着実に行くのか、敵を見かけたら積極的にファイトしていくのか、どっちでいきましょう?」


『私としてはファイト優先の方が性に合ってるわね。そっちの方がやりやすいわ』


『アズマさんは?』


「俺は……」


 どっちだ。どっちの方が勝てる確率が高い……?

 ハイド優先でクラウンを取れたとして、キルポイントが稼げないんじゃ結局ポイント差で優勝を逃してしまう気がする。

 かと言ってファイト優先で動くとなると、当然こっちが敵にやられる可能性も高くなる。キルポイントが稼げるチャンスは増えるけど、でも……。


『ズマっち』


「あ、はい」


『ごちゃごちゃ考え過ぎよ。そんなに頭の中がこんがらがってたら、混乱するだけよ。こじらせるのは性癖だけで十分、思考までこじらせたらつまらない男になるわよ』


『ナキア先生の言う通りだね。性癖の話は置いておくけど』


『なんでよ! むしろそこが一番重要じゃない!! 他人のこじれた性癖ほど最高のエンターテインメントは中々ないわよ?』


『なんでこの人は、せっかくいいこと言ったのに全部台無しにするんだろうなぁ。どう思う? アズマさん』


「ナーちゃんらしいですけどね」


『それよそれ。ごちゃごちゃ考え過ぎてズマっちらしさが無くなったら、あんたを見に来てるリスナーもがっかりするわよ』


「あー……、確かに」


 なんか今、配信者としてものすごいナーちゃんに負けた気分。

 有名になりたい! とか、個人最強を取って賞金獲得! とか、そういう気持ちって全然嘘じゃないんだよ。ちゃんと俺の本音だ。

 でも、でもさ。それだけでゲームをしちゃうと俺の独りよがりになっちゃうんだよな。見てるリスナーはきっと楽しくない。

 社会人時代に優梨愛さんにも言われた。

 自分の売上目標のことだけじゃなくて、ちゃんと顧客に向き合った提案をするのが営業だって。会社や自分が稼げばればいい、なんて考えは、もう時代遅れだって。

 だったら、そうだな。俺が俺らしく勝てるやり方で、ガッツリ優勝を狙っていきたい。そしてそのプレイを見て、リスナーに楽しんで貰いたい。


「ファイト優先で行きましょう。俺もナーちゃんと一緒で、ガンガン行く方が性に合ってます。コソコソするのは趣味じゃない」


『うん。うちのチームはそうだと思った。僕もなんだかんだ戦って勝つ瞬間が一番気持ちいいからね。全チーム僕らが倒しちゃおうよ』


「いいですね、それ! 全員やっちゃいましょう!!」


『あら、私は元からそのつもりよ。あと、もうひとついいかしら』


『何?』


『動きにくいなら、ズマっちは無理にオーダーしなくていいわよ。ファイト始まったらファイト優先の方がやりやすいんじゃない?』


 あー、マジか。そこまで透けて見えてるのか。


「バレてました? 俺がオーダーに四苦八苦してるの」


『当然よ。ずっとピリピリしてたじゃない』


『あー、ごめん。これはチームリーダーの僕が言うべきだった』


「全然全然! 俺も特に相談とかしなかったので。戸羽ニキのせいじゃないです」


『細かいこと気にするのねぇ、男って。なんでもいいじゃない、そんなの』


『アズマさんも言ってるけど、ナキア先生のキャラってたまにわかんなくなるよね』


「ガッツリ下ネタ言ってたかと思えば、急にいいこと言いますからね」


『あんたら程度に計れる女なわけないでしょう、この私が。安芸ナキアがどれだけいい女だと思ってるのよ』


 強い人だな、本当に。ちょっと尊敬し始めてる俺がいるよ。

 ……絶対に本人には言わないけど。100%調子に乗るし、それを口実に下ネタトークに付き合わされたらたまったもんじゃない。


『えっと、それじゃあこうしよう。移動ルートとかファイト仕掛ける前の確認とか、そういうときはアズマさんにオーダーを任せる。で、ファイトが始まったらもうそれぞれよしないに動くって感じで。そっちの方が勝てそうだし』


「了解です」


『わかったわ。これで勝てなかったら、フメツの責任ってことね』


『なんでそうなるんだよ』


『だって、リーダーの指示じゃない』


「確かにそうですね」


『おっと、アズマさんもそっち側? 僕、さみしくて泣いちゃうよ』


 なんかいいな、今のチームの雰囲気。好きだ、こういう空気感。

 真剣だけど、茶化したりふざけたりも出来るって、最高だと思う。


『そこからスケベな展開に発展するのね』


『何でそうなるの!?』


「どういう思考回路してるんですか!?」


 あ、嘘。嘘です。何にも最高じゃなかった。一部最低な人がいた。


『? 何言ってるのかしら。極々普通な考えじゃない』


「あ、戸羽ニキ。三戦目始まりますよ」


『本当だ。よし、次は勝とう』


『ちょっと、だからなんで私を無視するのよ。訴えるわよ!? こういうとき女の方が強いってことを知らないのかしら!?』


『ごめん。なんかナキア先生の電波が悪くて……。アズマさんどう?』


「俺もちょっと聞こえにくいですね。どうしたんだろう」


『やめなさい、そういうことするの!! 学生時代にハブられてた黒歴史を思い出しちゃうじゃない!!』


「ナーちゃんも、そういう経験あるんだ」


『なんか安心した』


『次やったら二度と話しかけないわよ!? わかった!?』


『つまり、ナキア先生とコラボしたくなくなったら無視すればいいってことか』


「戸羽ニキ、それは鬼過ぎます。あ、ほらナーちゃん、ここに大好きなショットガンありますよ」


『あら、本当。ズマっちはフメツと違って優しいのね。今度お礼に美少女にしてあげるわ』


「それはお礼でも何でもない!! ナーちゃんの趣味!!」


 ちょっとかわいそうだな、とか思った俺の同情を返してくれません!?

 全く油断も隙も無いな、この人は。


「ボチボチ準備できたら敵チームを探しに行きますよ」


『僕は大丈夫』


『私も行けるわ』


「じゃあ、行きましょう」


 本当はこういう時、チーム名を言えたらいいんだけど、さすがにこのテンションで『行くぞ! 《全てがエロになる》!!』なんて言えないよなぁ……。

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