第25話 今の悔しさが、これから先の強さになる
『一戦目は惜しいとこまで行けたし、焦らずに行けば優勝狙えるね』
『キルポイント込みで5位でしょう? 余裕で巻き返せるわね』
「戸羽ニキ待って。ちょっとここで待ちましょう。このまま行くと右から来たチームが来た時に正面の敵と一緒に挟まれます」
『了解。どのタイミング動く?』
『安地リングと合わせでいいんじゃないかしら』
「俺もそう思いますけど、そうなるとこのポイントから押し込まれたら、安地外のスリップダメージで死ぬ可能性もあります」
『じゃあ、こっちのルートを経由してここに行くのは?』
「ありだと思います」
『賛成よ』
大会本番、すでに一戦目を終え二戦目も中盤近い。
全20チームの内、まだ1チームも脱落していない辺り、これから先の戦いがめちゃくちゃハードになるのは間違いない。
リスナー側で見てたことはあるけど、ものすごいガチだよな。いつもならこれぐらいのタイミングだと半分ぐらいのチームが脱落してたりするのに。
『肉が食べたいわねー』
『どうしたの、突然』
『さっき大会が始まる前に仕事関係の連絡が来たのよ。この大会が終わったらまた締め切りに追われるのかと思ったら、肉が恋しくなったわ』
「めっちゃ現実逃避じゃないですか」
『あら、社畜がしんどくてVTuberになった男が何か言ってるわ』
「俺の転生は現実逃避ではなく人生のリセットです。とんでもなく前向きな代物なんですよ」
『ついでに美少女にもなってみたらどうかしら。手伝うわよ』
「結構です! 転生はしましたが転換はしませんってば!!」
『1人が不安ならフメツも一緒に転換させるわよ』
『僕を巻き込まないで!?』
『どうしてそんな寂しいことを言うのよ。フメツもVTuberなら、女性ライバー同士のてぇてぇがどれだけ需要あるか知ってるでしょ?』
『それは女性同士だからだよ!! バ美肉同士のてぇてぇなんてどこに需要があるんだ!!』
『私』
『ダメだ強すぎる!! アズマさん!!』
「俺に振らないでくださいよ!? ここはチームリーダーの戸羽ニキが何とかする場面じゃないんですか!?」
『しょうがないわねぇ。それじゃあ今度私が男性ライバー同士のてぇてぇを布教してあげるわ。大丈夫。必ず私が目覚めさせてあげるわ』
「クライマックス風のカッコいいセリフなのに、向かってるベクトルが最低過ぎません!?」
ナーちゃんのマイペースっぷりが無敵すぎる。
何を話してたって、気づいたら巻き込まれてるんだが!?
誰かこの蟻地獄みたいなコミュニケーションに打ち勝つ方法を教えてくれ!!
『来ないね、敵。どうする、移動する?』
「ボチボチ脱落チームも出てますしね。キルポイントも欲しいですし、行きますか?」
『私はいつでもいいわよ。移動スキルを使って斥候をしてきてもいいわよ』
「行くなら3人で行きましょう。結構な乱戦になりそうですし、出会い頭にナーちゃんが落とされるとジリ貧になります」
『僕も賛成』
「今ここにいるので、出来ればここ、無理ならその手前のここに移動しましょう。で、最終的にここを目指せれば割といいポジションが確保できると思います」
マップ上で今後の動き方を確認しつつ、残りチーム数と敵の移動ルートに考えを巡らせる。もうここから先は接敵、即戦闘になる。
EX.というゲームが生き残りを競うサバイバルゲームである以上、勝ちを狙うだけなら隠れていればいい。しかし、それだと上位は狙えるかもしれないが、優勝なんて出来るはずもない。ましてや、個人最強の称号なんて夢のまた夢だ。
『慌てずに。接敵したら味方のフォローが受けられるポジションまで下がろう』
『誰に言ってるのよ。私もズマっちもそこまでバカじゃないわ』
「でも大事ですよ、そういう声がけ。残りチームも半分になりましたし、行きましょう」
と、隠れていた場所から出た瞬間だった。
「──!?」
『撃たれてる!!』
『どこのどいつよ!!』
「右右右!!!! ここにいる!!!!」
敵の位置を示しながらボックスを展開。チームを守りつつ、受けたダメージ分を回復し立て直す。
『ナイスボックス!』
『ポータルを使うわ。一気に行くわよ!!』
言うが早いが駆け出していくのは、ナーちゃんが操作するキャラだ。
あのキャラが使用できるスキルであるポータルは、離れた場所に出入り口を設置し、瞬間移動を可能にするものだ。
今みたいに敵から狙われている窮地を脱するにはピッタリなスキルだ。ただ、
『ちっ!!』
「ナーちゃん!?」
『こっちも敵が来てるわ!!』
『一回戻って!!』
『わかってるわよ』
「大丈夫ですか?」
『回復するわ。フォローお願い』
ポータルを設置した先で食らったダメージをナーちゃんが回復する間に、何とか状況を整理する。……いや、ヤバいなこれは。
「多分ですけど、今ここから狙われてます。で、俺らが行こうとした場所にはもう別チームがいますね。あと、ついでに言うとこっちからも来てる気がします」
『動くに動けないね。どうする?』
『ここを潰しに行くのは?』
「きついと思います。今狙ってきたチームから射線通ってますし。逆に言えば、どのチームも複数のチームから狙われる可能性が高いので動けないんだって、来た!? マジで!?」
なんで!?
この状況で突っ込んでくるか普通!?
『ミチェよ!!』
『ツルギが狙ってきてる!!』
「別チームからも撃たれてます!!」
『ジモクじゃない!!』
『エグいエグいエグい!!!!』
「ヤッバ、これ」
マジで無理!! そう思った瞬間には、俺も戸羽ニキもナーちゃんも全員がやられていた。いや、今のは無理だってー。
『いや、ごめん!』
『無理ね、今のは』
「なんであの状況で突っ込んでこれるんだ……」
どう考えたってやられる可能性の方が高いのに。
『ミチェだもの。それは来るわよ』
『ジブロンドって本来そんなに先陣を切るキャラじゃないのにね』
『ミチェのジブロンドは戦車って、それ随分前から言われてるじゃない』
「いやぁ、クッソー……」
『アズマさん、落ち込まないで大丈夫だよ。今のはしょうがないって』
戸羽ニキはそう言うけどさぁ。
「もうちょっと判断早く動くか、逆にもうちょっと我慢してれば……。すみません、俺のオーダーミスです」
『それはないから安心しなさい。私でもあのタイミングで動くのは正解だと思ったわ。私たちに足りなかったのは、ミチェをはじき返す戦闘力よ』
『そんなの持ってるVTuberいないけどね。いや、でも今のは運が悪かった。ツルギと雄のチームに挟まれてたし』
『ジモクって本当にイヤらしいわよねぇ。ちょっとでも隙を見せたらすぐに食いついてくるんだもの』
『勝てるシチュエーションは絶対に零さないイメージあるな。あと、無理はしない』
『面白味のない男ってことね』
戸羽ニキとナーちゃんの雑談を聞きつつ、俺はモニターに目をやる。
そこには、俺を倒したミチエーリさんのプレイ画面が表示されている。
二戦目も終盤になり、画面内では目まぐるしく戦闘が行われている。
その戦いっぷりを見ていると、嫌でも自分が下手だと思わせられる。
キャラクター操作、エイムの合わせ方、武器を切り替えるタイミングに遮蔽物の活かし方。
1人のプレイヤーとしてなら、その上手さを素直に尊敬出来たのかもしれない。
ただ今は、同じ大会に出場して競う対戦相手の1人だ。負けた悔しさが、プレイヤーとしてのリスペクトを上回る。
「どうすればミチエーリさんに勝てますかね」
『アズマさん?』
『ズマっち?』
「あ、いや。まあ、その、やられっぱなしも悔しいなって思って」
ぴょんこさんも袈裟坊主さんも、今回の大会はお祭りだと言っていた。
きっとそうなのだろう。VTuber同士で集まって、楽しむのがこの大会の趣旨なのかもしれない。
だから、今の俺みたいにガチで悔しがる、なんてのはもしかしたらズレてるのかもしれない。
それでも、悔しいものは悔しいんだよなぁ。
『ズマっちは勝ちたいの? ミチェに』
「──はい。負けっぱなしはムカつきます」
『ということらしいわよ、フメツ』
『大事だよ、そういうの。お祭りだよって言われたって、勝ちたいよね。僕もそうだよ。だから、勝ちに行こう。ミチェさんやジモクさんだけじゃなくて、僕ら以外の全チームに』
『当然。負けっぱなしなんて性に合わないもの。それに借りっていうのは、のしつけて返すものだものね』
『僕だってツルギと雄に勝ちたいしね。リスナーもきっと応援してくれてるよ』
「はい」
大会中は非表示にするルールだから、今コメントは見れない。
ただ、それでもリスナーたちが『頑張れ』と言ってくれていることを信じて、俺は改めて勝ちに行くことを決意する。
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