第23話 このチームには、センシティブにしたがる奴がいる
『チーム名って今から変更できないかしら』
『そんなに嫌? 結構気に入ってるんだけどなぁ』
「《東の蟻》って、なんか文学作品っぽいですよね」
『そうそう。高尚な感じがして、僕は好きなんだけどな』
『高尚だろうがなんだろうが、ダサいものはダサいのよ』
「じゃあ、ナーちゃんは何がよかったんですか?」
雑談は平和だけど、画面内はめちゃくちゃエグい!!
俺らが隠れてる周りで、色んなチームがバチバチにやり合ってるんだけど!?
ここだけ平和過ぎて逆に異次元で笑える。
『そうねぇ。《青田買い》とかいいんじゃないかしら』
『なんで? アズマさんがいるから?』
『? 何言ってるのよ。今って私があなたたちを青田買いしてる状況でしょ? これから認知されていくカップリングを、一足先に堪能してるもの』
『アズマさん。そろそろ僕らもファイトした方がいいかな』
「ですね。この場所を取れたのは大きいですけど、最終安地はこの辺だと思うんで、このルートで移動していった方がいいですね」
『ちょっとちょっと、何いきなり真面目にゲームしだしてるのよ! もうちょっとトークを盛り上げなさいよ。それでも配信者なのかしら?』
めげないな、この人もッ!!
俺たちがその手の話題に乗るわけないだろ!?
『知り合った当初のズマっちなら、キレッキレのツッコミで盛り上げてくれてたはずよ。どこで変わってしまったのかしら』
間違いなくナーちゃんと絡んでるうちに変わっていったんだよなぁ。でもさ、
「俺、知ってますよ。ナーちゃんが最近スルーされるのも気持ちよくなり始めてるの」
『え、本当? それはさすがに全方位に無敵過ぎない? 全てが気持ちいい方向に変換されるってことじゃん』
『あら、いいわねそれ。チーム名は《全てがエロになる》にしましょうよ』
「それはマズいですって。《企画屋》の2人から止められますよ」
『そんなことないわよ。あのクソ坊主はともかく、ぴょんこは私と同類だもの』
「え、マジですか?」
『悲しいことにそうなんだよね。ぴょんこさんの配信とか結構やばいの多いよ。どういう生き方すればあんなに煩悩に塗れるんだってくらい』
『今度コラボ配信するときはズマっちも呼んであげるわね』
「丁重にお断りします。そんな地獄に自ら突っ込むほどバカじゃない」
『ツッコむのはフメツの──、「おいっ!!」『ちょっと黙ろうか!?』』
何を言うつもりだったんだこの人は!? 油断も隙もあったもんじゃないな!?
ていうか、敵来たんだが!? マジか、このタイミングで詰めてくるの!?
『ふふ』
『何、その笑い』
『今、ぴょんこにチャットしたのよ』
「絶賛ファイト中なんですが!?」
どこにそんな余裕があるんだ、この人は!?
『だって私もうやられてるもの』
「いつの間に!? 報告入れてくださいよッ!!」
『練習ぐらい相手にも花を持たせてあげないといけないわよね』
「そんなことありませんが!? むしろ練習でしっかり勝ちに行きましょうよ!!」
『いい、ズマっち。覚えておきなさい? 本番で油断しないために、練習では負けておくぐらいがちょうどいいのよ』
「たまに出てくる師匠系のキャラはなんなんですか!? あ、クソ落ちた。戸羽ニキ、こっちで敵が回復してます!!」
『了解。詰める!』
お、よしいけ。いいぞ、さすが戸羽ニキ!
『あら、さすがね』
『僕を誰だと思ってるのさ』
『フメツじゃないわよ。ぴょんこに『チーム名を《全てがエロになる》に変えるわ』ってチャットしたら、即了承が下りたわ』
『は?』
「え、あ」
『ああ!?』
『何してるのよ、フメツ』
「今のはナーちゃんが悪い」
ナーちゃんからの衝撃的過ぎる報告に、キャラコンをミスった戸羽ニキがやられてしまった。
結果、この練習マッチでのチーム順位は9位。微妙過ぎる結果に何とも言えない。
『え、ナキア先生? 本気で言ってる?』
『当然でしょう』
『うわ、本当だ! ぴょんこさんから『チーム名を変えておいた~』ってチャット来てる』
「いやいやいや。さすがにドッキリですよね!?」
『こういう時のぴょんこさんは本気だね』
「マジっすか!? え、本当に……?」
『ふ、勝ったわ』
「なんにだよ!!」
こんなんで勝ち誇らないで欲しいんだが!?
『納得いくチーム名になったから、やっとやる気になったわ』
「今までやる気なかったんですか?」
『やる気があったら私がこんな負け方するわけないじゃない』
「~~~~~~っ!!!!!!!」
わかるか!? 俺の今の葛藤が!!
『あはははははッ!!!!!!』
「いやいやいや、何笑ってるんですか!?」
『ナキア先生と知り合ったばかりの頃を思い出して。アズマさんが当時の僕と同じ反応してるの見たらおかしくなっちゃった。あははは! そうそう、そんな感じだった』
『ズマっちもようやっとフメツの影ぐらいは踏めたわけね。ところで使用キャラについてなんだけど』
「話題変更がシームレス過ぎません!?」
振り落とされるぞ、その変化感!! ビックリしたぁ。
『あ、それ僕も相談したかった』
「今、結構バランスよく組めてると思うんですけど、変えるんですか?」
EX.における醍醐味のひとつにキャラの組み合わせがある。
パーティーメンバーそれぞれが別のキャラクターを使ってチームを組まなければならないというルール上、当然ながら選ぶキャラクターによってもチームの立ち回りや、それによる強さなんかがガラリと変わる。
『キャラと言うか、役割かな。今ってナキア先生が全体を見てオーダーを出して、僕とアズマさんが動いてるじゃん。でも、オーダー役はアズマさんの方がいいと思うんだよね』
『ちょっとフメツ。私が言おうとしてたことを全部言わないで頂戴』
『だって僕がチームリーダーだし』
『関係ないわよ。ズマっち、あなたがジブロンドを使いなさい。レインは私が使うわ』
『それも賛成。ナキア先生の方が対面戦闘強いし、スキルで行って帰ってが出来るレインは向いてると思う』
おっと、マジか。
接敵回数を増やせれば、その分キル数も稼げて個人最強を狙いやすくなると思ったから、奇襲や斥候も出来るレインを選んだんだけど。
「ちなみに理由って何になりますか?」
『ズマっちが全体を見れてるからよ。今だって最終安地を予測してのルート立てが一番早かったし、ファイト中も周りを見ながら押し引きの判断をしてたじゃない』
『ジブロンドってスキルで戦場のコントロールが出来るじゃん。今日何回かやってて、ナキア先生よりもアズマさんの方が全体を見ての判断が出来てるなって思ったんだよね』
『実際、私もズマっちの判断でスキル使ってたりしたものね』
「あー、まあ、そういうことなら。わかりました、俺がジブロンドをやります」
ぐわ、しくった!!
昨夜から死ぬほど色んな動画を見て勉強したせいだ。
安地の移動パターンに、各シチュエーションでの立ち回り方、スキルの使用タイミングに活かし方なんかをノートに書き出して整理したせいで、EX.の理解度が上がり過ぎたんだ。
くっそー、ジブロンドって戸羽ニキの言う通り、全体を見て動くケースが多いから、味方より一歩引いたポジショニングが強いんだよなー。
キルを取りたいからガンガン前に出れるキャラがよかったのにッ!!
『フメツは今のままでいいわよね』
『そうだね。索敵役は欲しいし』
ちなみに戸羽ニキが使っているのはブラッドフェザーという、索敵能力に秀でたキャラクターだ。ナーちゃんの使うレインや、俺が使うことになったジブロンドと併せて、EX.を始めてすぐに使えるキャラクターの一人だ。
『明日以降の練習試合は、もうキャラの変更は無しにして連携を仕上げていこう』
「了解しました。ジブロンド使いの動画を見て勉強しておきます」
『それならミチエーリの動画がオススメよ』
『あー、確かに。ミチェさんのジブロンドは強い。あれ、今回って確かツルギのチームだったっけ』
「確かそうですね。俺もミチエーリさんは見たことあります。立ち回り上手いですよね」
『スキル使用からの詰め方とか、味方のバックアップとか。とにかくミチェがいると楽に戦えるのよね。あれレベルの立ち回りをズマっちがしてくれたら、私たちは優勝ね』
『確かに。ミチェさん並みに自分の考えを持って動いてくれたら、安心して背中を任せられる』
「めっちゃプレッシャーかけてくるじゃないですか」
『期待してるってことよ』
『アズマさんなら出来るよ』
「って言ってるお二人のせいで負けたら目も当てられないですよ」
『フメツはともかく、私は大丈夫よ。チーム名もテンション上がるのに変えたし』
『それで逆に僕のテンション落ちたらどうするんですか』
『その程度のことを負けた言い訳にするしょぼい男だったわけ? 戸羽丹フメツは』
『うっわ、ずる。何その言い方。聞いた? アズマさん』
「戸羽ニキならやってくれるから問題ないですよね」
『当然じゃない。戸羽丹フメツよ? トップVTuberがまさかねぇ』
『なんでチームメイトからこんなに煽られてるのさ。まあ、いいや。じゃあ、今日の練習配信はここまでってことで。明日も同じ時間から練習試合が組まれてるから、よろしくね』
「了解しました」
『わかったわ』
『じゃあ、リスナーのみんなも付き合ってくれてありがとう。お疲れー』
『ばいばい』
「あざまるうぃーす」
それぞれに挨拶をして配信を終える。
よし、切り忘れはないな。
諸々を確認したあと、俺は早速『ミチエーリ EX.』と動画を検索する。
画面に出てきたのは、紫の髪が特徴的なミリタリージャケットを羽織った美少女だ。チャンネル登録者数が15万人近い人気VTuber。
戸羽ニキとナーちゃんから絶賛される彼女の立ち回りを勉強すべく、俺は今夜もまたノートを開くのだった。
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