序章

 暗渠から見上げているようだった。

 夜気を裂き、遠く吠える声が聞こえる。怯えるように木々が揺れて、ここが外だと思い出す。

 闇の中にヒトの形を認め、私は声を絞り出した。

「やっぱりあなたが、あの人を」

 予想はしていた、けれどそうであって欲しくなかったのに。

 影が動いた。ジャリ、と金属のこすれる音がする。それから、鈍い音。


 強烈な痛みを頭に感じた。すぐそばで、獣が喚いていた。うるさかったそれが、だんだんと遠のいていく。

 何もかもが、すべて。離れていく。

 ああ、私は……、あの人を……あいつを、許してはいけない。


 どこか遠くで、犬の鳴き声がした気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る