第160話 地下牢で~クンテの想い.ダルタスの怒り~

 辺境に領地をもつダート侯爵家の嫡男クンテは今、ラフィリル王国王城の中にある地下牢に閉じ込められている。

 昨日、ダルタスの顔にもともとあった傷の上に、さらなる傷を負わせようとしてか黒魔石の粉をぶつけようとしたのである。


 まさかまさか、愛しい姫に当たるなんて夢にも思わずに…である。

 クンテは、いまだに思う。


 彼女の目を覚まさせるために…、

 彼女を助けようとして…、

 きっと彼女はダルタスを崇拝する父親に洗脳されているんだ。

 でなければおかしい…。


 ぶつぶつと牢の中でひとり呟くクンテだった。


 なぜ、彼女はダルタスを庇ったりしたんだ!


 わかりきった答えなのに何度も何度も頭の中で繰り返す。


 それは誰の目にも明らかだった。

 気づかないのは現実を見ようとしない者のみ。

 現実が見えない者だけである。


 そう、まさに恋は盲目。


 とちくるったクンテには見えなくなっていたのだろう。

 見たくないもの…は…。


 ルミアーナ姫はダルタス将軍を心から愛しているのだということが…。


 ルミアーナ姫がダルタス将軍を見つめるまなざし

 ダルタス将軍がルミアーナ姫を見つめるまなざし


 その全てが物語っていたというのに…。


 バンっと牢の扉が開かれた。


「ひっ」とクンテは小さな悲鳴をあげ息をのんだ。


 悪鬼のごとき表情のダルタスがそこにいたのだ。


 クンテの襟ぐらを掴み壁におしつける。


「クンテぇ~!ルミアーナの顔には消えない痣が残った。お前の投げた黒魔石の粉のせいだ!お前はおれの顔がこれ以上醜くなればルミアーナが俺から離れるとおもったのだろうがな!」

   

 図星をさされ、クンテは、狼狽し赤くなったり青くなったりしている。


「生憎だったなルミアーナは俺が魔物の血を全身に浴びた時ですらこの俺を抱きしめてくれたわ!」


「なっ!ダルタス、そんな話は嘘だ!嘘に決まっている!それでお前はなんで無事なんだ?」


「あの時は月の石の浄化の力を戴くことができた!しかし、ルミアーナの顔の痣は月の石ですら消せなかったとルーク王子が言っていた。」


「そ…そんな…そんなつもりじゃなかった!」

  怯えるように首をふるクンテにダルタスはぎりぎりと歯ぎしりをした。


「くそっ!」ダルタスは絞めあげ持ち上げていた襟ぐりを振り下ろしクンテを突き落とす。


「ぐはっ!」と石造りの床にたたきつけられクンテは呻いた。


「しばらく、ここから出られると思うな!ルミアーナが許しても俺が許さん!」


 ダルタスは蔑むようにクンテを一瞥すると牢を後にした。

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