第139話 披露宴で…2

 そして、二人を見つめるクンテとツェンの姿もそこにあった。

 どうやらうまく潜り込めたようである。


「どう思う?ツェン」


「いや、さすがに、あの様子を見れば無理矢理とかは、ないんじゃないかな…。さっきも誰かが言ってた、まだ社交界にも出たことがなかった姫君に父親が、自分の崇拝する将軍に恋するようにしむけたって…事?きっかけはそうかもしれないけど…でも、幸せそうだし、つまりは両想いってことだし、良かったよね?」


 ツェンは心の底から喜んでいた。

 あんなにも素晴らしいお姫様がダルタスを好きでいる事が!二人ともが幸せそうなことが嬉しかった。

 ダルタスの真の価値を分かってくれる素晴らしい花嫁だと感激していた。


 だが、クンテの方は違った。

「ああ、純真無垢な姫君は父親のいう最高の男を父親の進めるままに信じて恋い慕ったという訳か?」


「は?」

 チェンはその斜め上のクンテの言葉に耳を疑った。


「いやいやいや…だから、取りあえず幸せそうだし良かったんじゃないかって…父親のお陰でダルタスの真の良さを彼女が理解してくれてるんなら、それに越した事ないじゃないのさ」


「バカをいうな!彼女は洗脳にかかっているようなものだ!そんなものは真実の愛ではない!」

 と、クンテはダルタスの旧友のくせに旧友があんな美女に純粋に惚れられているとは全く思っていなかった。


「ちょ、待てよ、クンテ!あいつがいい奴なのは、分かっているだろう?」と、ツェンがクンテを窘めるように言うと、クンテも少しだけ口調を和らげる。


「いや、いい奴だよ!あいつは…いい奴なんだけど女受けする奴じゃない。女性は俺達みたいな細身で会話上手な男を好む」


「へ?」何を言ってるんだ?とツェンは残念な子を見る目でクンテをみた。


 クンテは実はちょっぴり?ナルシストである。

 殆んどダルタスには勝てないが女にだけは自分の方がモテると思う事で自尊心をつないでいるようなところがあり、ちょっとだけ…いや、けっこう面倒くさいところがあるのである。


 いつも適当に話を合わせてやるのが、いつものツェンの立ち位置だ。

 幼馴染とはいえ、クンテは侯爵家、自分の家は伯爵家、身分が上なのはクンテの方なので何かとちょっとしたときに気を使ってやらないといけないのである。


 子供の頃から自分は、クンテのお守り役のようなかんじなのだから、仕方ない。

 ツェンにとっては”腐れ縁”というやつであろうか。


「まぁな、ダルタスは男にはモテる、すこぶるいい奴さ!強くてカッコいい!それは、認める!だけど女性が求めるのは、優しくて会話上手で華奢で美しい顔と細身の長身だ!少なくとも、この国では、そうだろ!それが普通だ!」と、クンテは饒舌に語りだした。


「それなのに、あんな選び放題であろう姫君がダルタスで満足するとは到底おもえない…あの顔の傷に加えてあの鍛え上げられた体躯は貴族のご令嬢から見たら怖いだけだろう?」


「ク…クンテ…言い過ぎだってば…まぁ…それは…公爵家の令嬢で王太子妃候補だったとも言われる姫でしかもあの美しさだし…選び放題だっただろうとは思うよ?でも、ルミアーナ様はダルタスの真の良さを理解できる素晴らしい女性だったって事じゃないのかな?」とツェンが言うも、クンテは、聞きもしない。


「そもそも王太子も何だって自分の妃候補をダルタスとめあわせたりしたんだか…」と、クンテが、ぶつぶつと呟く。


 そんな、ものすご~くダルタスに失礼な言いぐさをこそこそと話し合っていると二人を見知る人物が後ろから声をかけてきた。


「クンテ?…とツェン?」


「え?」と二人が振り向くとそこには今しがた話に出ていたアクルス王太子、その人がいた。


「今の話…ダルタスに聞こえてたら殺されるぞ?」とため息をつきながら軽く二人の頭をこづいた。


 恋敵だったとはいえ自分の従兄いとこの事である。


「久しぶりだな」


「アクルス王太子殿下!お久しぶりでございます」と二人は恐縮し、同時にひざまづき礼をとった。


「ダート侯爵家とモール伯爵家の跡取り息子たちがそろって、どうした?招待客のリストにはなかっただろう?」


「へへっ、ばれましたか?…って、どうして王太子殿下がダルタスの招待客リストまで、ご存じなのですか?」とクンテが訪ねた。


「ん~、まぁ、色々あって今回の挙式の段取りは全て王家で執り行って招待客も俺とルークが手配したからな」


「なんだってまた、王太子殿下が?」とツェンが不思議がったが、クンテの方は、王太子に恨み言を吐いた。


「殿下、殿下自らが招待客を設定したというのなら、どうして学友であり親友でもある僕たちをそのリストにのせて下さらなかったんです?」


「親友?悪友の間違いであろう?さっきも随分な言い草だったではないか?」


「あ、あれは、え~と、ダルタスの良さは女性には分かりにくいって話で…」とクンテが口ごもった。


「確かにな…でもな…ルミアーナ嬢は特別なんだ…かの姫は…決して父親に言い含められたからでもなければ洗脳された訳でもない。かの姫にとってダルタスは真実、愛する相手なのだ。そうでなければ月の石がこの結婚を祝福するはずもなかろう?」


「え?月の石が?それって」


「ルミアーナ嬢は血族の姫にして月の石の主…変な相手を選んでいたら月の石が許さぬ…」


「月の石って伝説だけじゃなかったんですか?化石みたいな月の石が四個だけ大神殿にあるとは聞いた事ありましたけど」


「その石が神託により眠りについたルミアーナ嬢をを助けよと…彼女が主となるものなのだと告げて、神殿はその石を彼女に託したのだ。しかしその後、石を失った神殿は邪気に取り込まれて…だが、それとて月の主であるルミアーナが、創り出した新たな月の石によって祓われた」


「な、何か、話が壮大すぎて、よくわかんないんですけど、なんかとにかく、血筋も良くて王家も神殿も総出で守りたいくらいのお姫様ってことです?」とツェンが訪ねる。


「まぁ、そういうことだ」とアクルス王太子が答える。


「ってか、そんな、すごい姫様とダルタスがどうして?もともとは王太子殿下の妃候補だったのでしょう?」とクンテが、言うとみるみる王太子の顔が不機嫌な顔になる。


 クンテは地雷を踏んでしまったようである。


「私とて、ルミアーナ嬢のことを知る前にちょっとした悪戯心で、ダルタスとの見合いをもくろんだのだ。まさかあのような姫がこの世にいるとは思わなかった」と悔しそうにつぶやいた。


「えええっ?でも、それだったら、ダルタスと婚約が調う前に王太子から申し込めばよかったのでは?」とクンテは不思議でしょうがないように聞いた。


「くっ!見合いしたその日に婚約してしまったのだ!」と、悔しさと後悔にどんどん情けない顔になる王太子なのに二人は気づかず疑問をぶつける。


「え?でも結婚する前にだったら間に合ったんじゃないんですか?なんたって次期国王のアクルス王太子殿下ですのに?」と悪気なくツェンが突っ込んだ。


 もはや、地雷の上でタップダンンスを踏んでいる状態だ。(まぁ、ラフィリルに地雷はないのだが…)


「…たんだ」


「え?」


「は?」


「ふ・ら・れ・たのだ!私は!」とヤケクソ気味に王太子アクルスが答える。


「えええええっ?嘘でしょう?王太子よりダルタスを選んだって言うんですか?」


「そうだよ!ダルタス以外は嫌だと!自分に指一本触れたら死ぬとまで言われて…」


「いやいやいや!あり得ないでしょう?」とツェンが突っ込む。


 それはそうだろう。

 王太子アクルスはなんといっても次期国王、そして、すこぶる美形!細身で華奢に見えて、実は、文武両道!この国で結婚してほしい男性ナンバーワンの誉れも高かったのだから!


「それが、あったのだ!とにかく、もう古傷をえぐらないでくれ…私とて傷ついているのだ」と王太子がよろよろと壁際に寄りかかる。


「王太子を振ってダルタスに…」とクンテがつぶやく。


「すごいや!すごい!そんな女性がいたなんて!それって本当にダルタスのこと真剣に好きって事ですもんね?ダルタスの男気を理解できるなんて、本当に、なんて素晴らしい花嫁なんだ」とツェンは素直に喜んだ。


 だが、クンテはまだ、信じがたかった。


 この国で一番偉いのはもちろん国王である。


 そして二番目に偉いのは問われれば次期国王である王太子アクルスだと答えるだろう。


 確かにダルタスだって公爵で身分は高く王位継承権だって五位以内である。


 しかし当然、王太子にもかなう筈もない。


 クンテは、納得できずに困惑していた。

 そんな事が許されるのか?許されていいのか???

 どくんっと胸の奥にあるどす黒い何かが動いた。


 そしてダンスを終えて、貴賓席に座る国王夫妻に挨拶するダルタス夫妻に目をやった。

 そこでは、アークフィル公爵夫妻や弟となるティムン、ダルタスの生母ネルデアと祖母のドリーゼも一緒に和やかに歓談していた。

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