第135話 噂の花嫁の顔

 空はどこまでも青く澄み渡り、雲一つない晴天に恵まれダルタス将軍とルミアーナは挙式の日を迎えた。


  街道は、噂の”鬼将軍ダルタス眠り姫ルミアーナ”の結婚式後のパレードを一目見ようと数日前から場所取りで埋め尽くされていた。


  世間の噂では、相変わらずダルタス将軍は悪役で、嫌がる姫を無理やりに納得させただの何だのと言われ放題である。


  一方、眠り姫ルミアーナの方はと言えば比類なき美少女とか天使か女神かはたまた妖精の姫かとのその美しさを称える噂が多いものの本物を見たことがある人間はごくごく限られていて、一般庶民がみかけようはずもなかった。


 という事で、ごくごく少数派の意見ではあるがルミアーナを貶めるような噂も中には無くもなかった。


 そう、 実は『眠り姫は、とんでもないだった説!』なるものも浮上していたのだ。


  普段、娯楽の少ない民衆たちの中には眠り姫が本当に噂にたがわぬ美女なのかそれとも不細工なのかという賭けまでしている輩もいるという。


 そんな中、遠方からダルタスの学生時代の旧友たちも、この結婚式のパレードを一目見ようとやってきていた。


  侯爵家の跡継ぎ息子であるクンテ・ダートと伯爵家跡継ぎ息子のツェン・モーラ。

 ダルタスがまだ騎士学校にいた頃の悪友?親友?らである。


  「クンテ、どう思う?あの噂、ダルタスが嫌がる令嬢に無理やり結婚を迫ったっての?ありえないよなぁ?」


  「ああ、ツェン、俺もそう思う。あいつは見た目で色々、初対面では誤解されやすいけど俺ら同期の中では一番優しい真面目な奴だったしな?」


  「そうだよな」とツェンが嬉しそうに頷く。

 そうなんだ!ダルタスはすごく優しいいい奴なんだ!とツェンは心から頷いた!


  「でもな、そうなってくると眠り姫が、絶世の美女ってぇのも怪しいもんだぜ?」


  「ああ、まぁ、それはね~。大体、こいいう噂ってのは尾ひれはひれ、背びれに胸びれまでついてるに決まってるからね」


  「そうそう、大体、閉じこもって寝てた姫さんの顔をこの大衆たちの一体誰が見かけたっていうんだか、絶対、とんでもないものに決まっている」


  「とんでもないって…それは、ちょっと失礼じゃない?」と、ちょっと意地の悪いクンテの言い様にちょっと引き気味になるが、ダルタスの為には噂通りの美女だと良いなあと思うツェンであった。


  「むしろ、ダルタスに心酔しているという娘の父親、アークフィル公爵がむりやりダルタスに娘を押し付けたって線も濃厚だと思うね?あいつは優しいから、断り切れなかったんじゃねぇか?」


  「う…う~ん、そ、それは…ありえるかなぁ?え?だとしたら、眠り姫が噂ほどの美女じゃなくて逆に自分がもらってやらなきゃ誰も相手にしないだろうと思ったとか?女側に恥をかかせては気の毒に思ったとか…?」


 随分、失礼な仮説だが、正直、ダルタスはあの頬の傷のせいもあり、一般の貴族女性が恐れもせず慕うなど、ちょっと考えにくかった。

 ツェンは、ダルタスのお嫁さんがダルタスの中身をちゃんと解って好きになってくれていることを祈った。


  「あ、そういや、そもそも王太子が見合いを謀ってって話だったよな?やっぱ、押し付けられたんじゃないか?アクルス王太子と言えば、学園時代も美女ばっかり引き連れてたもんな?王太子の身代わりにされたとかじゃないのか?」とクンテが言う。


「ええっ?何て事言うのさ!ダルタスにも王太子殿下にもダルタスの奥様にも失礼だよっ」とツェンがさすがに、失礼すぎるクンテを窘めようとするがクンテは面白そうにちゃかす。


  「ははっ、あのダルタスならありそうだよな~?損な役回りばかり引き受けちゃうところとかあったよな?いいか!例え、あいつの嫁さんがでもそこには触れるなよ!とにかく、あいつが結婚できたのは快挙なんだ!祝ってやらないとな」と、口では同情的だが、若干、ダルタスを小バカにしたような言いようのクンテである。


 心底ダルタスを尊敬しているツェンは、少しばかり眉をしかめつつも、クンテの言葉の中にあるちょっとした毒には気づかぬ素振りで受け応える。


  「わかってるよ!取りあえず公爵令嬢との縁なんて申し分ない良縁だし。心から祝福するに決まっている!だけど水臭いよな?僕達をよばないなんて」


  「ああ~そりゃ仕方ないんじゃない?昔、あいつが好意をもった女達みんな俺のほうになびいてきちゃったし」


  「ああ~、あれは…クンテがひどかったよね!絶対わざとだろ?もう、やめてくれよな!でも、そうか、そういう事ならダルタスも眠り姫の事は気にいってるんじゃないか?自分以外になびいてほしくないって事だろ?」


  「ああ、だといいな。やっぱ、いくら身分が高くても結婚は好きな相手とするのが一番だしな!どんなだとしてもあいつが気にいったんならそれで良しだ!」


 まだ、言うか!と内心、ツェンはクンテは相も変わらず馬鹿だなぁと思った。


 人としても武人としてもダルタスの方が何倍も素晴らしいのを分かっているから、憧れながらもやっかみめいた気持ちがついつい、言葉になってでちゃうんだろうなと、ツェンは冷静に分析している。


「クンテ、頼むからダルタスの事、純粋に祝福してよ?まさかと思うけどダルタスのお嫁さんに変なちょっかい出さないでよ」


「はははっ!王太子殿下が従弟のダルタスに押し付けたような令嬢になんて興味ないし!」


 …と、勝手なことを言い合いながらも、ダルタスの旧友のクンテとツェンは、呼ばれもしないのに国のはずれから王都までわざわざ駆けつけていた。


  旧友ダルタスへの祝福と何よりあの強面のダルタスに嫁いだという怖いもの知らずの花嫁ルミアーナを一目見る為である。

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