第34話 噂の行方
さてさて、この国はよく栄えた国とはいえ娯楽に関してはルミアーナが美羽として生きていた日本と比べたらとても少ない。
お花見や花火!祭りや舞踏会や観劇などはあるものの漫画も映画もテレビもない。
遊園地もなければコンサートもないからアイドルもいない。
写真もないから人々は、直接顔を合わせないかぎり、どこそこの娘は色白で可愛らしいとか、背が高いとか低いとかの噂がたよりである。
お金持ちの貴族令嬢や令息ならば絵師に絵をかせたものを結婚したい相手に贈る等する事もあるが、大体にして絵師は実物そっくりには描かず実物より美しく描きあげる為に実物に合ってみたらガッカリなどという事がしばしばあるのである。
しかしながらルミアーナの絵姿だけは絵師たちはより美しくは描かなかった…いや、描けなかったのである。
まさに絵にも描けない美しさ。
その肌の色も瞳の輝きも誰も描き尽くせなかったのである。
その内側から輝くような白い肌や光を織り込んだような美しい金の髪を…。
幼少のころから何度かルミアーナの美しさを絵師たちが後世に残そうと挑んだがある者は筆を折りある者は修業の旅にでるといった具合でまだ一枚も完成したものはなかったのである。
規格外れな美しさは本当に罪作りである。
…と、言う訳でルミアーナの美しさは、人の噂でのみ伝わる訳であったのだが、その美しさに加え命を狙われ一年もの間、眠りつづけたりという数奇な運命。
そんなルミアーナの事は娯楽に餓えた民衆の間で今まさに一番の関心をよんでいた。
それはもう、尾ひれはヒレつきまくりの脚色されまくりの噂が噂を呼び諸外国にまで物語のようにひろめきわたっていた。
「ラフィリルの美しき眠り姫の悲劇」
それはもう、ちょっとたちの悪い流行り病のような勢いであった。
まあ、噂がどれだけルミアーナを悲劇のヒロインに祭り上げようとも実際は愛しのダルタス将軍と相思相愛となることが出来て幸せの絶頂だったのだが…。
そして、このたちの悪い噂は外に隠居していたダルタスの実母ネルデア・ラフィリアードにまで届いていた。
「ダルタスは本当にそんなに変わってしまったのかしら?だとしたら私のせいだわ…。昔は優しい子だったのに…」と哀しそうに呟く。
「ネルデア、そんなに自分を責めるな…噂など尾ひれ端ひれがつくものだ。実際の所は当人に聞いてみなければわからないさ」と古くからの友人、この国の三将の一人、南東を守護するアルフ・ソーン将軍が慰めの言葉をかける。
「そうさ、ダルタスは武骨なとこはあるが俺達が知る限り嫌がる令嬢と無理矢理婚姻を結ぶような無粋な事をする奴じゃないさ」と、なんともう一人の将、西北を守護するカーク・ディムトリア将軍が言葉を繋ぐ。
三将軍のうち二人がお忍びで、首都を守護するダルタス将軍の母親の隠居する屋敷に訪れているのだから他者が知れば何事かと問われ兼ねない有り様である。
とは言うものの、そもそもダルタスの父親とこの二人は幼馴染みだった。
ネルデアは、この三人がまだひよっこだった学園の騎士学科時代に知り合った騎士仲間であった。
そう、ダルタスの母もリゼラのような女性騎士だったのである。
昔から美しく明るくはつらつとしたネルデアは、騎士達の憧れの的でアルフとカーク、そしてダルタスの父の三人はネルデアを挟んでの恋のライバルでもあった。
そしてネルデアを射止めたのが、ダルタスの父親のノア・ラフィリアードだったのである。
ノアは、二人と比べるとちょっとうっかりで頼りない所があったが、そこがネルデアの母性本能をくすぐったのだろう。
アルフとカークは、なんで、よりによってこいつなんだと思ったものの、ネルデアが選んだのだから仕方ない。
潔く身を引きそれ以来、良き友人関係を築いていた。
しかし、二十年前の隣国との紛争でノアが戦死し、もともと息子の嫁として認めていなかったノアの母親のドリーゼは色々と難癖をつけてはネルデアを責め、とうとう追い出してしまったのである。
「少なくとも半年前の会議で会った時には、いつもとかわりなかったしな…まあ、噂の眠り姫が目覚めたのも、その後らしいし…気になるならダルタスに会いに行けばいい」とアルフが言うとカークも賛成した。
「それがいい!何ならこのまま、送っていこう」
「二人ともありがとう。でも無理よ。知っているでしょう?私はダルタスには会えないわ…」
「ネル…まだ君は、義母殿の言葉に縛られているのか?ダルタス本人は君の事を恨んでなどいないと言うのに…」
カークは、信じられないと言うような口調である。
「あの子は本当に優しい子だわ…。もしも変わってしまったのだとしたらそれは間違いなく私のせいなのよ…」
ネルデアは繰り返しそう悲しそうに呟く。
たちの悪い噂話はダルタスの母ネルデアを知らず知らずのうちに悲しませていた。
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