第15話 庭園でのふたりドキドキ
アークフィル公爵家ご自慢の庭園ではちょうど色とりどりの花が咲きほこり甘い香りを漂わせていた。
ルミアーナはダルタスと一緒に居られることが嬉しくて沢山話しかけた。
「ダルタス様はこれまで戦で沢山の功をたてられたと父から伺いましたわ。日々、大変な修練をなさっていらっしゃるのでしょうね?」
「うむ、まあ、いざという時の為に日々の訓練は欠かさないな」
「まあ、それは戦に備えてですの?」
「いや、心配せずとも今は諸外国を含め我が国も落ち着いているから戦などはおこらないだろう。しかし、軍というのは戦の為だけに在るわけではない。災害時の復興作業時や自国の治安の為にも働いているからな」
なるほど、自衛隊や警察のようなものね?とルミアーナは思った。
「まあ、人命救助もなさるのですね。素晴らしいお仕事ですわ」とルミアーナは嬉しそうに微笑む。
「それで、日々の訓練とは一体どのような事をなさるのですか?」
ルミアーナは、楽しそうに軍の規律や訓練の仕方、剣術や体術などの事を聞いてくる。
ダルタスは思った。
たぶん軍人の自分に話を合わせてくれているのだろうがおよそ若い娘の好む話ではないだろう。
話題に困った時にこのような話をふれば良いと父親からにでも言われているのだろうか?と思う。
でもそれにしては本当に、楽しそうに話しかけてくるのである。
「ルミアーナ嬢は、普段どうすごしているのだ?」
「あら、私ですか?私はつい最近まで一年以上も眠っておりましたから、目覚めた時には腕も体も重くてなかなかもちあがりませんでしたの。」と、事もなげに明るく言う。
「それは、大変だったな」
「ですから体を鍛えようと毎日少しずつ体を動かす練習からはじめて、今も毎朝毎晩きめた運動をしておりますの。最近では息切れすることなく屋敷のまわりを走れるようにもなりましたのよ」
「ほう?」
ダルタスはこの姫は可愛らしいだけではないのだな…と思った。
一年以上もの眠りから目覚めてこれほど元気になる為にか弱い身でどれ程に頑張ったのだろうか。
「私、今度、ダルタス様の訓練のご様子を拝見したいですわ?あ、もちろんご迷惑でなければ…ですけれど」
「は?あ、いや、別に問題はないが深窓のご令嬢がみても楽しくはないと思うのだが?」
「そんな事はございませんわ。ダルタス様の勇姿を見てみとうございます」
格闘好きのルミアーナにしてみれば、むしろめちゃくちゃ楽しみである。
男らしいダルタス将軍の訓練姿などみられたのならばどれほど嬉しいだろうか。
「む、そうか、では明日は王宮で近衛兵達の訓練があるから、お父上に連れてきてもらうと良い。訓練場に特別に入れるように話を通しておこう。」
「嬉しいっ!ダルタス様っありがとうございます!」と抱きついた。
「おわっ!」
「あっ!っ!ご、ごめんなさい!私ってば…はしたなかったですね?」と、しゅんとする。
「もっ…問題ない」と言いながら、明らかに動揺した様子のダルタスをみて、ルミアーナは少し思い詰めたような顔をした。
「あの…ダルタス様…?ダルタス様はじゃじゃ馬な女の子はお嫌いですか?」
「む?何故そんなことを?」
「私…やはり嘘は、嫌なので正直に言います。」
思いつめたように、ルミアーナにとっては一大決心のカミングアウトである。
「私、私!全然、深窓のご令嬢などではありませんの!むしろお転婆でじゃじゃ馬な女ですの!」と、目をつむって今にも泣きそうな顔で告白した。
う…やっぱり言うんじゃなかった。
ルミアーナがそう思っていたら
一瞬、何事かと固まった後、一呼吸おいて
「…問題ない」とダルタスは答えた。
「え?あ、ほんとに?」
「ああ」と、そっけなく答えるダルタス。
「っ!」ルミアーナは一瞬、泣きそうな顔をしたかと思うと
「ダルタス様!ありがとうっ!」
そう言ってダルタスに飛びついたかと思うとダルタスの頬の傷に軽くキスした!
それは、子供が母親やまるで父親にするような可愛らしい「ありがとう」のキスだったが、ダルタスは真っ赤になった。
ルミアーナもダルタスに負けないほど赤い顔で「うふっ」と笑うと、恥ずかしさにぱっと離れて駆け出したので、反射的にダルタスは追いかけた。
ほんの、数秒走るとすぐに追い付かれダルタスにぐいっとお腹に右腕をまわされ後ろから引き寄せられた。
「きゃ」と小さな悲鳴をあげ躓きそうになるルミアーナの背に腕を滑らせ軽々と抱き上げる。
ダルタスの顔がすっとちかづきルミアーナの唇にふれた。
「え?」
一瞬、何がおきたかわからなかったが、直ぐ様それに気づく。
え!キス?まさかのファーストキス!
私、私、ダルタス様にキ!キキキ、キスされたんだわ!と胸が狂おしいほどにときめいた。
ダルタスは
「ふっ」と、笑うと
「逃げるな…」と短く言った。
「は…はい」と言ってルミアーナは真っ赤な顔を隠すようにダルタスの肩に顔をうずめた。
ダルタスの厚い胸に抱かれたルミアーナのハートは、ときめきではちきれんばかりだった。
そしてふわりとルミアーナの甘い香りがダルタスをかすめる。
二人は、ほんのひと時、その余韻にひたると「そろそろ公爵たちの所へ戻ろう。」と、ダルタスがルミアーナをそっと手放した。
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