第116話

 あれより更に3日。すでに王都では勢力図が完全に固まっていた。

 中央は僕ら帝国主導による政府。

 北方は教会の信者たち。

 南方は教会の非信者たち。

 

 中央はだんまりを決め込み、北方と南方は熾烈な争いを続けていた。

 街は崩壊し、多くの人の死体が老若男女問わずに転がっている。

 そんな地獄絵図が広がっていた。


「お嬢様だ!」


「……今までどこに?」


「無事だったのか!」

 

 そんな中この屋敷は今。大慌てとなっていた。

 その理由は簡単で、今まで行方を食らわせていたトイ民族の代表、アレシアが帰ってきたからだ。


「よ、よくぞご無事で!」


「……彼は?」


 彼女の声が。 


「か、彼?」


「ローオス帝国第二皇女殿下の側近であるリーエはどこにいるの?」

 

 彼女の僕を呼ぶ声が聞こえてくる。


「……あなた?」

 

 第二皇女の視線が僕の方へと向く。


「はい。そうらしいですね。少し出てきますね」


「いいわ」

 

 僕は第二皇女へと一言告げてから扉をくぐり、外へと出ようとする。


「ちょっと待って」


 その直前。

 第二皇女に止められる。


「あなた達の話を私も聞きたいわ。こっちに連れてきて、私の前で話してちょうだい」


「わかりました」

 

 僕は部屋を出て、アレシアの声がする方に向かっていく。


「見つけた」

 

 アレシアが僕のことを見つけ、一目散に近寄ってくる。


「ちょ!お待ちを!」


「止まってください!」

 

 僕に対して不敬とも取れるような言葉と態度で近づくアレシアを周りの使用人たちは止めようとするが、一切止まらずに僕の前にまでやってきてしまう。


「構いませんよ。私は一人の使用人のようなものですから」

 

 僕は慌てている使用人たちに笑顔で告げる。


「それで?何の用でしょうか?」


「あなたは……トイ王族の人間なの?」

 

 真っ直ぐな視線と言葉が僕へと向けられる。

 

「「「っ!?」」」


 それに対して、周りの使用人たちも驚愕して慌て始める。


「はい。そうらしいですね」


「「「っ!?」」」

 

 そして、肯定した僕の言葉に対して更に驚いた。


「……すぅ。そうなの……」

 

 表情に感情を浮かべないアレシアからは感情を読み取れない。

 流石は特別な瞳を持ったトイ王族と言えるだろう。


「話はここではなく、部屋の方でお願いします。僕の主人である第二皇女殿下が僕らの話を聞きたいとのご所望なので」


「えぇ。わかったわ」

 

 アレシアは僕の言葉に素直に従い、僕の後についてきた。

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