第112話

 むせ返るような血の匂い。

 真っ青な雲ひとつ無いきれいな晴天の下。地上では雨が降っていた。


「打て!打て!打て!ちゃんと狙ってな!」


 聞こえてくる隊長の声。

 魔法を持った男はそんな隊長の言葉を意識の外へと追いやり、完全に集中しながら弓を構え、放つ。

 

 飛んだ矢は一人の敵兵に当たり、血を流して倒れる。

 

 そして倒れた敵兵の死骸を踏みつけて足場として敵兵が進んでくる。


「しっ」

 

 そんな敵兵に向けて魔法を持った男は再び矢を打った。

 狙いは外さない。

 確実に眉間を打ち抜き、再び人を殺した。


 一日目は打てなかった。二日目は吐いた。三日目は慣れた。

 人を殺すことに何の忌避感も抱かないようになった。

 

 『殺人』という行為に対して何の疑問も嫌悪も抱かないようになった。

 

 淡々と平然と人を殺していく。


「いやぁー、やっぱお前は腕がいいな!」


「はい!」

 

 魔法を持った男は自分へと向けられた隊長のお褒めの言葉に破顔し、嬉しそうに告げた。

 殺人を、人殺しを手柄とし、褒められる。

 

 これが戦いだ。戦場だ。戦争だ。


 人が、人の手で、人のために血の雨を降らしていた。


「クソッ!」


「狂信者がッ!」


「槍だ槍!弓兵も落とすの手伝え!」


 前で。魔法を持った男が弓を構え、人を殺している間にも敵は迫ってきている。

 砦に登ってこようとはしごを掛け、死体を足台として登ってきていた。


「俺が前に出る。お前は打っていろ」


「はい!」

 

 隊長が大きな槍を持って出る。


「オラァ!」


「流石は隊長!豪快だァ!」


「脳漿炸裂させてぶちまけてやるよぉー!」


 隊長の勇猛果敢な声を聞きながら、魔法を持った男は弓を構えた。




 あとがき。

 ちなみに作者は小5か6のときに初めて読んだ脳漿炸裂ガールの本が一番最初であり、こんな風に小説まで書くようなオタクになった原点である。

 それまで読書とかクソ嫌いだった。

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