第98話

 静かな一室。

 その部屋にほとんど物はなく、光は闇に閉ざされている。

 部屋の中央には唯一の物であるベッドだけが置かれていた。


 そんな中に彼女。この王都唯一のトイ民族代表、トイ民族の王族である彼女がいる。

 ベッドの上でピクリとも動かず、ただただじっと体育座りをして蹲っていた。

 罪人である自分には、奴隷のように体育座りをしているのがお似合いだ。彼女は自分をそう評する。

 

 コンコン 

 

 静かな一室にドアがノックされる音が響き渡る。


「今晩はローオス帝国の人間とのパーティーがある。その場にお前が出場しないというわけにはいかない」

 

 部屋へとオラキエ公の声が響いた。

 

 パッ

 

 部屋を光が包む。

 彼女が発動させた光魔術だ。

 トイ王国の王族は高い魔術適正が存在している。どんな魔術であっても解析し、発動出来る。

 トイ王国の王族の面々は単純な戦闘能力であれば、最強レベルなのだ。


「行くわ」

 

 小さな声で彼女が言葉を発し、ベッドから降りる。

 その際に音は発しない。

 シワひとつ無いきれいなドレスを纏った彼女は音もなく部屋を歩き、ドアの前へと立つ。


「開けるわ」

 

 彼女は音を一切立てずに腕を持ち上げる。


 ガチャ

 

 ドアが開かれる僅かな音が囀る。


「うん。では行こうか」

 

 歩き出すオラニエ公。

 そんな彼の後を彼女は何も喋ることなくただただついていった。



 彼女は全てを恨んでいる。

 自分も。

 この国も。

 トイ王国も。

 トイの王族も。

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