第90話
それからしばらく。
僕はただ、黙って民衆が静かになるのを待っていた。
次第に。
段々と暴言を吐き散らす人も減っていき、ざわめきの声も聞こえなくなってくる。
そして、この場は静寂に包まれ、人々の注目が僕に集まってくる。
「私に出来ることはあまり多くありません。私は、一市民として育ってきました。自分が、王家の人間であるということを知ったのはつい最近です」
静寂の中、僕は自分の声を響かせる。
「あなた方を巧みな演説で魅了する、なんということは出来ません。私は第二皇女殿下の側近らしく、得られた情報をただ報告することしか出来ません。……ですから、私があなた方に示せる誠意は嘘偽り無く事実を伝えることだけです」
そこで一度僕は声を止める。聞いている人たちを見渡し、口を開く。
「かねてから、ローオス帝国は疑問に抱いていました。トイ王国があれだけの力を持った魔導生物を作ることが出来るのか、と。ですから、ローオス帝国はあの事件について詳しく調査をしています。そして、その調査の結果得られた答えを簡潔に言いましょう」
「ローオス帝国は、トイ王国で魔導生物について研究していた痕跡を見つけることが出来ませんでした。そして、神国メシアにて魔導生物を研究していた痕跡を確認した。
聞いている人たちの息を飲む声が聞こえてくる。
「神国メシア。彼の国にもはや大義はない。我が帝国はそう判断いたしました。政治内部では汚職が蔓延し、腐敗しきっています。何の罪もない無辜の民を、異教徒と断じてそのほとんどを容赦なく断罪し、そして────世界を自らが支配するために数多の非人道的な実験を繰り返しているような国です」
僕は、その全てを話し終える。
「私が話せるのはこれだけです。私の発言を嘘だと断ずるも、ローオス帝国を悪の帝国と罵るのも構いません。私は自分の義務を果たしました。考えるのは……あなたたちです。私はあなた達に対して何かを命ずる権限などありませんから」
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