第91話

 僕の発言。僕の言葉。

 それを受け、人々は話し合い、ざわめきが続く。

 

 暴言が飛び交い、熱心な議論が続けられる。

 

 そんな様子を僕はただただ壇上で見ていた。

 人は……弱い生き物である。

 自分で結論を出し、前へと進む。そんな当たり前のことが出来る人は案外少ない。人は自分で何かをするよりも前に誰かに頼りたくなるものである。

 

 人々の視線は自然と僕の方へと集まってきた。

 声はだんだんと少なくなっていき、沈黙がこの場に降りるようになる。

 

「すぅー」

 

 そんな中僕はゆっくりと息を吸う。


「諸君!」

 

 僕のよく通る声があたりに響く。


「偉大なるトイ民族の諸君!君達に罪はないッ!それなのにも関わらず君たちは迫害され、故郷を失った!神国メシアの策略によって君たちは不当な扱いを受け続けてきた!民族の誇りも!故郷も!全てを奪われた!」

 

 人々の熱が高まっていく。そんな様子を僕は内心冷たい視線で眺めていた。

 便利やなぁ。僕の声。僕の声は、他人の心を奮い立たたせる。


「君たちはそれを良しとするのかッ!尊厳を!誇りを!故郷を奪われッ!それでもなお!君達は沈黙を保ち続けるのかッ!」

 

 沈黙。

 僕が言葉を止めれば、次に起こるのは沈黙である。

 そして、その沈黙はすぐに破られることになる。


「否……」

 

 誰かがポツリと呟いた。

 そして、声はどんどんと広がっていく。

 一人から、二人。二人から、三人と。

 声は次々と波及していく。


「「「否ッ!否ッ!否ッ!」」」


「ならばどうする?」


「「「戦えッ!!!」」」

 

 洗練された精鋭兵のごとく声がピタリと揃う。


「そうだッ!戦えッ!君たちは今ッ!我らがトイ民族の名誉を回復しッ!あるべき姿へと戻すのだッ!!!」

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