第86話

「それで?何の用だろうか?」

 

 この家にある一室で、僕と当主様が向き合う。


「現在の情勢を知っているでしょうか?」


「……すまない。よく、わかっていない。基本的に他の勢力との接触は避けていますので」


「ではまぁ……簡潔に神国メシアとローオス帝国で内戦が勃発中です」


「……は?」

 

 僕の一言に当主様が完全に硬直した。


「え?あっ……内戦?あの二国が!?」


「はい」

 

 僕は当主様の疑問の声に肯定で答える。


「馬鹿な……」


「第二皇女殿下は今のタイミングを好機とし、自身が帝位に就き、そのまま神国を滅ぼすことを計画しています。そこで、です。あなたがたトイ民族の力を借りたいのです」

 

「……」

 

 僕の畳み掛けるような言葉に当主様は絶句し、そして。


「すまないが。協力は出来ない」

 

 はっきりと拒絶の言葉を口にした。


「その理由はなんでしょうか?」


「別に君がトイ王国の王族だからというわけではない。その理由は実に簡単。我々トイ民族がそれを行う理由がないか」


「魔導生物」

 

 僕は理由がない、そう話す当主様の言葉を遮って一言告げる。


「……それがどうした?」

 

「魔導生物に関する研究の資料。……ローオス帝国がトイ王国の内部について捜査したところ、それらの資料は見つける事ができませんでした」

 

 魔導生物。

 それは魔術によって強引に生物としての在り方を変えられた生物のことを指す。


「……は?」


「当然。研究施設も。我々ローオス帝国はどんなに頑張っても見つけることは出来なかった、とのことです。そして─────人工生物。その研究の最先端を走っているのは神国メシアです」


「なっ……何を……」

 

 当主様は絶句する。僕の言葉に。


「もう一度聞きましょう。手伝ってくれますか?」

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