第38話
「ちょっと今話せるかしら?」
僕はフレンドリーに話しかけられる。
「無理です」
「……へ?」
僕が平然と否定の言葉を口にすると、エリュンデ公爵家、当主の娘はぽかーんと口を開けて固まる。
まぁ、平民である僕がエリュンデ公爵家、当主の娘からのお誘いを断るなどありえないことだ。その反応になるのも当然だろう。
僕の言葉に食堂にいる周りの人たちも信じられないくらいに動揺しているし。……ちと動揺しすぎのような気もするけど。
「僕は第二皇女様の秘書として働かせてもらっています。気軽に大物貴族の方とお話するわけにはいきません」
僕の立場は結構あやふやで、不安定。
第二皇女の秘書としてそばに立ち色々と動いているけど、それを第二皇女の周りの貴族たちは快く思っていない。
僕が軽率に貴族なんかと会ったりすると、情報を横流ししたスパイだとして、速攻で売られて尻尾切りされてしまうだろう。
「な、なるほど……」
僕の言葉にエリュンデ公爵家、当主の娘は頷く。
周りの人間も僕の淀みない言葉に驚きの表情を浮かべている。
……想像以上の反応だな。これは。
ちょっと貴族たちの平民に対する差別意識を見誤っていた。少しばかり上方修正が必要そうだ。……どうやら僕はまだ前世の価値観を引きずりまくっているらしい。なんと情けない。
あぁー、ダメだ。めちゃくちゃダメだ。ゴミクズだぁ。
もぉーなんか誤算ばっかり、ミスしまくり。クソ雑魚だぁー。あぁ、僕はもう一度くらい死んだほうがいいかもしれない。
「じゃあ一度第二皇女殿下の方に話を通してから来ますわ」
僕が自己嫌悪している最中に、エリュンデ公爵家、当主の娘がそう告げる。
そうすることを選んだのね。
「はい。お願いいたします」
僕は内心の様子などおくびにも出さず、お礼を口にする。
それを聞いて、エリュンデ公爵家、当主の娘は僕の元から去っていく。
ふぅー。一件落着!
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