第30話
僕はガナダルシア砦の執務室から立派な馬に乗り、移動するギリア族の様子を眺める。
「……っ」
第三皇女は彼らを見て表情を歪ませる。
「……あなたは」
第三皇女が小さな声を絞り出す。
「穏便に終わらせる。私に対してそう、言いました」
「終わらせたでしょう?何の問題もなく」
「穏便!?あれで!?」
睨みつける。第三皇女が僕を。
涙すら浮かべたその瞳で。
「彼らが必死に築き上げてきた土地を!我らは容赦なく奪った!また!彼らは失意の中移動している!この何処が穏便なの!?」
「だが死んでいません」
彼らは誰も死んでいない。
「あなたが皇帝陛下より承った任務はギリア族の排除。ギリア族を全滅させることです。それがあなたが受けた命」
「……そう、だけど!」
「彼らは全員死ぬ運命にありました。ですが、彼らは誰も死なず土地を追われるだけで済んでいます」
「でも!」
「それ以外にどんな方法がありましたか?彼らを生かす方法なんて唯一つ。土地を失い、我が国の一員として暮らすしか無いないのですよ。他に方法はなんてありませんでした。彼らが必死に作ったと言っても不毛な北の大地です。我が国を襲わないと生活一つ出来ないそんな土地です。我が国として、彼らを放置しておくなんて出来ません。そんなこと誰よりもあなたが理解しているでしょう?」
「……それでも、彼らは……。確かに方法はそれしかなかった。でも説得の方法は他にもあったはず」
「ありましたね。ですが、なぜそんなことをしなくてはいけないのですか?そんなの無駄な手間でしかありません。彼らを真面目に説得するなど時間の無駄です」
「そんなこと……!」
まぁそれは仕方ないよね。
イグニス家としては優秀な馬と戦闘技術を持つ彼らにイグニス家への忠誠を誓わせたいんだよ。
ここでボロクソ叩かれ、心を折られ、失意の中向かったイグニス公爵家で、優しくしてもらい、平和で豊かな生活を送れるようになれば良い感じに忠誠を誓ってくれるだろう。
心に傷を負った者ほど洗脳しやすい人も他にいない。
「くだらないことを話していないで、後片付けを終わらせてください。もう、僕達の任務は終了し、王都に帰らなくてはいけないのですから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます