第5話

 僕はイグニス公爵家内を歩く。

 メイドたちは僕に目をつけられないように顔を伏せて早足に通り抜き、執事共は僕に一切の遠慮なく侮蔑の視線を向けてくる。

 執事たちが隠そうともせずに僕に侮蔑の視線を向けてくるのは僕がそんな視線に気づくわけがないだろうと僕のことを舐め腐っているからだろう。

 まぁ無能と思われ、侮蔑の視線を向けられることが僕の目的なのでそれくらいのことで目くじらを立てるようなことはしないが。

 ……侮蔑の視線を向けられることが目的。

 すっげぇドMに聞こえるな。


「おい、なんか作れ」

 

 イグニス公爵家のキッチンについた僕はキッチンにいる料理人たちに命令を下す。


「はっ、直ちに」

 

 僕の無茶振りにも料理人たちはもう慣れたものだ。

 サクッと美味しく素早く作れる料理を作ってくれる。

 ここの料理人の一人に僕の忠実なしもべを混ぜている。日本の料理なども教えているのでここの料理人たちの料理スキルは帝国一だろう。

 僕が食べてもちゃんと美味しいごはんを作ってくれるのでありがたい。

 

 もぐもぐもぐ

 

 僕は貰ったもんを食堂に持っていき、食べ始める。

 うん。美味しい。


「あのクソ兄貴……なんでカインお兄様が次男なの」


「全くだ。なんで生まれてきたのだろうな。あいつは。任せろ。俺が必ずやあの無能を叩き落として……」

 

 外から弟と妹の声が聞こえてくる。

 ……もうちょっとで良いから隠さん?

 俺も最早気づかないふりをするのが辛いんだけど。

 流石に僕がどんな無能でもそんな大きな声で話されたのに何の反応も示さないのは無能すぎるじゃん。

 ……ご飯に夢中で気づかなかったとか言うとんでもない理由でごまかすけど!

 もうちょっとでいいから弟と妹には優秀になってもらいたい。

 僕を叩き落とすってことは僕を殺すっていうことだからね?

 この世界は長男優遇。

 長男が死なない限り弟が継ぐことがない。公爵家の長男ともなれば大体の罪は握りつぶせる。つまり、殺すしか無いのだ。

 白昼堂々と殺人予告するとかやばすぎるッピ。

 

「ごちそうさまでした!!!」

 

 僕は大きな声でごちそうさまと告げる。

 弟と妹に聞かせるように。


「「ちっ」」

 

 二人は僕に気づいたのか舌打ちして、遠ざかっていく。


「うむ。今日も美味であった」

 

 僕は席を立ち、自室に戻る。

 

「ガイア」


「はえ?」

 

 僕は老婆の声に引き止められ、足を止める。

 そこに立っていたのはイグニス家元当主であるお祖父様の正妻であるお祖母様だった。

 

「ちょっと話がある。ついてきなさい」

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