心理描写ってなんだ? 喜怒編
今回のお題は「心理描写」です。
ツイッターにて以前お題を頂きましたので、こちらについて書かせて頂きます。
心理描写を表現したいけど、そもそも心理描写って具体的に何の事なのか、いまいち掴めていない方も多いのではないでしょうか。私もその一人です。
心理描写とは何なのか知るべく、夜葉はアマゾンの奥地へと向か……わずに、ざっくりとここで説明したいと思います。
いきなり心理描写について語られても難しいと思いますので、まず「心理」と「描写」に分けて話しましょう。
「心理」とは。
心の状態の事です。
考えている事や思っている事の内、意識して外に出さない感情と言うと伝わりやすいでしょうか。
「描写」とは。
読んで字のごとく描き写す事です。
つまり心理描写とは、心の内に秘めた思いを意識して発するのではなく、自然と溢れ出るように描く事を指すと夜葉は解釈しております。
まだまだ何を言っているのか難しいと感じるかと思いますので、まずは具体的なシーンを読んで頂きましょう。
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魔王城。玉座前にて。
「クソゥ!! 吾輩が、魔王である吾輩がお前なんぞに敗れるなど、そんな事あってよいはずが……!!」
魔王と名乗った魔物は片膝をつき、大きく声を張り上げながら怒りを露わにする。
「やった……。ついにやったんだ! 俺が、俺達が魔王を倒したんだ!!」
後に勇者と呼ばれる青年は、そんな魔王の前でボロボロになりながらも喜びに包まれていた。
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はい。今即興で考えたあるあるっぽいシーンです。
何が伝えたいの? と疑問を抱くと思いますので端的に説明しますと「怒る魔王」と「喜ぶ勇者」を描いたワンシーンです。
怒りと喜びと聞くと、感情表現の種類を表す時によく言われる「喜怒哀楽」を思い出した方もいるのでは無いでしょうか。
今回はその四つの感情から「喜び」「怒り」の表現について詳しく書きたいと思います。
上記のワンシーンを見て、魔王は何に怒り、逆に勇者は何に喜んでいるのか分かりますでしょうか。
現在の描き方ですと、勇者に負けて悔しい魔王と、それとは裏腹に勝てて嬉しい勇者、という事が分かるかと思います。
しかし、逆に言えば何故魔王は負けて悔しいのか、そして勇者は勝てて嬉しいのかの細部までは分からないのです。
では魔王の立場になって考えてみましょう。
何故、魔王は負けて怒りを露わにしているのでしょうか。
・世界征服しこの世の全てを手に入れる事に失敗したから?
・部下や仲間のために魔物の世界を作るという悲願が叶わなかったから?
・絶対に勝てるという強者の自信が砕け散ったから?
・ライバルと認めていた勇者についに破れ純粋に負けが悔しいから?
魔王の怒りだけでも、パッと思いつく限りでこれだけのパターンがあるかと思います。
しかし上記の文章では、怒り以上の詳しい理由が分からず、描写が不足していると言えるのです。
それでは次は勇者の立場になって考えてみましょう。
何故、勇者は勝てて喜んでいるのでしょうか。
・世界征服を阻止し世界に平和をもたらせたから?
・絶対に敵わないと思っていた強大な敵を前に、仲間達との協力により勝ちを掴み取ったから?
・魔王によってもたらされていた病気や災害から、祖国や故郷の家族を守る事が出来たから?
・王様からの依頼を達成し、大金が手に入ったり英雄として崇められる事が確定して嬉しいから?
勇者の喜びでも、少なくともこれだけのパターンが思い浮かびました。
同じように、何故喜んでいるのかが描かれていないため色々な捉え方が出来てしまうのです。
つまり心理描写が不足すると、作者が意図していない解釈をされ、物語の面白さやメッセージを完全に伝える事が出来なくなってしまうという事です。
物語を描いている以上、キャラクター達はただ嬉しいや何となく怒ってしまうなどはほぼ無いと思います。
その感情に至るまでの経緯が必ずあるはずですので、その部分を意識した上でもう一度先ほどのワンシーンを書いてみましょう。
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魔王城。玉座前にて。
「クソゥ!! 吾輩が、魔王である吾輩がお前なんぞに敗れるなど、そんな事あってよいはずが……!!」
魔王と名乗った魔物は片膝をつき、築き上げた魔王城を見て声を張り上げる。
瓦礫の山と化した権威の象徴に囲まれながら、儚くも消え去った己の野望を受け入れ切れず、強く地面を叩き悔しさを露わにする。
「やった……。ついにやったんだ! 俺が、俺達が魔王を倒したんだ!!」
後に勇者と呼ばれる青年はそんな魔王の前で、ボロボロになりながらも掴み取った勝利を仲間と分かち合っていた。
待っている故郷の皆の事を思うと、自然と涙が溢れていた。
悲願を達成したのだと、強く、強く胸の内で噛み締めていたのだ。
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いかがでしょう。同じセリフ、同じ場面でも、より魔王の怒りは強く。そして勇者の喜びは大きく写っているのではないでしょうか。
(そんなに変わらないと思われたなら私の実力不足です。すみません)
以上のように言葉や行動として具体的に何かをしなくても、キャラクター達の経緯を考え自然と表れる情景を描く事で、溢れ出る心の内、つまり心理を描写する事が出来ると思います。
今回は「喜怒哀楽」の内分かりやすい「喜怒」の部分を記述しましたので、次回は「哀楽」について語る予定です。
「哀楽」の部分を描けるようになると、さらに細かな描写や何気ないシーンも印象的に映るなど、物語がより美しく仕上がる事間違いなしです。
それではまた、哀楽編でお会いしましょう。
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