封剣伝説~復讐から始まる【憑依】スキル使いの英雄譚~
波 七海
第1章 ノースデンの悲劇編
第1話 全ての始まり
「クロム・ド・スタークス
第2皇子暗殺未遂の罪により聖地アハトへの追放、及び蟄居を命ずる」
法廷に裁判長の朗々とした声が響き渡る。
この場の緊張が緩み、あちこちから
何故なら、多くの者が予想していた最悪の刑を免れる判決であったから。
裁判長によって減刑の理由などが次々と告げられていく。
剣聖として先の大戦で数々の武功を上げ、スタークス領の発展に寄与したこと。
ジオナンド帝國の精鋭、
隣国のセルニグア王国との間に婚姻関係結び、強固な同盟関係を構築したこと。
これらが考慮されて本来ならば死罪になるところを罪を減じられたこと。
ジオナンド帝國の者で剣聖クロムの
数万の大軍を橋の上で迎え撃ち、わずかな兵と共に足止めした結果、見事、
セルニグア王国の
北方の蛮族、サバランとの戦いで勇猛で知られていた敵将を一騎討ちの末、討ち取った。その遺体は見事なまでに左右に両断されていたと言う。
クロムは常に先頭をきって敵と戦い、その顔や体を敵兵の鮮血で染め上げていたため、『
剣聖とは全ての剣技を修めた者のみが名乗ることが許される称号であり、スキルなのである。
その判決に成り行きを見守っていた
クロムの3男であるセレンは、尊敬する父親との永遠の別れにならなかったことを喜んでいた。
セレンはまだまだ甘えたい盛りの8歳の幼子である。
厳しくも優しい父親であり、剣の師匠でもあるクロムはかけがえのない存在であったのだ。それに父親が暗殺などと言う卑怯な真似をしたとは到底思えなかった。
セレンは幼いながらも判決を受け止めて、父親譲りの黒髪を揺らしながらウンウンと頷いていた。
『生きてさえいれば、後はどうとでもなる』
そうクロムから教えられていたのだから当然と言えよう。
裁判の立会人となったラディウス聖教国の若き女司教、メリッサ・アンセム・メルティーニは判決を聞いてなお厳しい表情をしている。
ただ、判決を聞くまで蒼白だった顔色は元の血色の良いものに戻っていた。
張りつめていた緊張の糸が解けたのかも知れない。
メリッサはクロムとは国家の要人としてだけでなく、個人的にも交流があった。
クロムのような人格者が死罪にならずに済んだのは彼女にとって
彼女を始めとしたラディウス聖教国の擁護もあり、クロムの身柄は聖地アハトに預けられることとなった。
聖地アハトとは帝國領内の北方に位置する聖教国の領地である。
聖教国はこのような飛び地を世界各地に領有している。
暗殺未遂現場を押さえた人物であり、同時にクロムの弟子でもあるモンステッラ・ド・ラムダーグは剣聖クロムの1番弟子である。
未だ自分の師匠が暗殺未遂事件を起こしたなど信じられないのか、追放判決には不服なようだが死罪を免れたことには安堵したのだろう。
こちらも緊張が解けて普段の精悍な顔付きからうって変わって笑顔を周囲に見せていた。
――ジオナンド帝國第2皇子暗殺未遂事件
モンステッラが騒ぎを聞きつけて現場に踏み込むと、そこには蒼白な顔をして傷を負った第2皇子と、抜き身の大剣を右手に持ってその場に佇むクロムがいたのだ。
皇子の周囲には帝國の兵士が何人も倒れ伏していた。
その内に、王城の衛兵らが駆けつけて事態は大事となったのである。
帝國
彼は第2皇子を後継者として推す派閥の筆頭であった。
被害者の後見人としては、判決内容が不服なのかも知れない。
取り巻きたちと何やらボソボソと会話を交わしている。
帝國の北斗騎士団の団長であるネジオグ・ド・アリアハンも複雑そうな表情だ。
彼自身はクロムと多くの戦場を駆け回った友のような存在であったが、心無い者から北斗騎士団のトップには相応しくないと陰口を叩かれていた。
現在の地位をクロムに脅かされる立場としては死罪ではなくとも、追放による
腕組みをしたまま、未だ続く裁判長の宣言をジッと聞いている。
ジオナンド帝國第7代皇帝であるシーガイア・クルス・ガレ・リンガドールも皇族席にて裁判の様子を
数々の武勇を誇り、帝國の最高戦力と言っても良いクロムを重用していた彼にとってこの判決内容に何を感じているのかは分からない。
その表情からは何も読み取れないのだ。
ただ、判決自体が皇帝の意向を組まれている可能性は誰にも否定できないだろう。
第2皇子暗殺未遂事件と言う大罪により貴族諸侯から強烈な突き上げを喰らってしまった以上、それなりの処分でなくては彼らの納得は得られないのだ。
人望の厚かったクロムであったから、彼が死罪を言い渡されなかったことは彼を慕う者にとっては僥倖であった。もちろん、彼を良く思わない者たちが陰で歯噛みして悔しがったのは言うまでもないであろう。
そして彼の家族も様々な反応を示していた。
スタークス伯爵家はクロム、正室テルル、側室アルシェ、長兄ネオンラーグ、次兄レニウミス、3男セレン、妹スズから成る。
セレンとスズは正室であるテルルの子供であり、2人の兄は側室アルシェの子供である。
セレンの兄たちはどこか複雑な顔をしていた。
セレンは死を免れたことをどうして喜べないのか疑問に思ったが、何も言わないでおいた。再起を図ることだって可能だろうに。
長々とした宣言が終わった最後に、追放される者の名前が読み上げられた。
その瞬間、法廷はどよめきに包まれた。
追放されるのはスタークス家の中のクロム、テルル、セレンだけであったのだ。
セレンの腹違いの兄2人と妹は何故か、帝都ジオニスに残ることとなった。
これは側室であるアルシェの出自によるところが大きかったのだが、まだ8歳のセレンには知る
「馬鹿な……」
司教のメリッサの呟きが漏れる。
何かの政治的な意図が反映されていることは明らかである。
傍聴人たちのどよめきを残したまま、裁判は終了した。
この判決によって運命の歯車が回り出したことに気づく者はいなかった。
※※※※※
読んで頂きありがとうございます。波 七海です。
さて拙作はカクヨムコンにエントリーしております。
読者選考期間が2月7日まであり、評価
なので、続きを読んで面白かった!まぁまぁだな!続きも読んでやるぜ!などなどございましたら是非、評価☆を頂けると嬉しいです。
さぁページ下部にある☆を連打するのです!
ついでにレビューなんてものを頂けると泣くほど喜びます。
是非是非、目を通して頂き、評価☆や応援♡、フォローをして欲しいです!
よろしくお願い致します(๑•̀ㅂ•́)و✧
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます