ふざけてなんかないよ
西園寺 亜裕太
第1話
学校もすでに冬休みに入ったクリスマスの日に、紗良は親友の実果の家に来ていた。
実果の家は少し学校から遠い山の中にあるけれど、空気が澄んでいてとても良い場所だなといつも思っている。
道内で農家をしている家庭の一人娘である実果の実家には、夏場に来ると虫も多くて紗良はよく悲鳴を上げることもあるが、冬場に来るときはそういった心配はないから少し気が楽だ。
ちなみに虫が服に着いた時にはいつも実果が苦笑しながら素手で捕まえてその辺に投げてくれるから、凄く頼もしい。
実果の家に着いて、暖かい部屋の中に入ったのはいいけれど、机の上に並べられたものを見て、紗良は一瞬首を傾げて困惑の眼差しを実果に向ける。そんな紗良の様子を気にすることなく、楽しそうに実果はグラスを上に持ち上げた。
「さ、乾杯しようよ!」
実果は乾杯する気満々だけど、その飲み物が何なのか理解するのに時間がかかり、紗良はなかなか応じられない。
「ねえ、それ何なの……?」
実果が可愛らしい笑みを浮かべながら手にもつ、ガラスのコップに入った灰色の液体に、紗良の視線は釘付けになっていた。
とてもおいしそうなものには見えないし、そもそも人が飲んでも体に悪影響がない物かどうかも怪しい。せっかく準備してくれた実果には悪いけど、飲むのを躊躇してしまう。
そんな紗良の不安は気にせず、実果は自信満々に言う。
「何って、実果特製美味しい野菜ジュースだよ!」
「飲み物、なのよね……?」
「当たり前でしょ! いろんな野菜をブレンドしてるんだから! ほうれん草とカボチャと小松菜とトウモロコシとトマトと――」
「待って待って! そんなに野菜混ぜてるの?」
「うん、20種くらい混ぜて、そこから最高に美味しい味付けをしてるから、きっと紗良ちゃんも満足してくれると思ったんだ! 何回も改良を重ねたから絶対に美味しいはずだよ!」
「えぇ……」
正直飲みたくないけど、実果がとても期待をこめた眼差しで見つめてくる。
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