06.悪魔の孫_07

「あら、マース、立ち直ったわね?そう、私も流着の民よ。550年前、この世界に来たの」


 魔法陣上に金髪の悪魔風のキャラクター、多分自分のつもりだろう、それと550~と言った感じの数字を出すフライア。


(550年前って言うと、日本は室町時代から戦国時代が始まったくらい、かな?正直スマホも無しにそらで歴史言えと言われても自信が無いんだけど)


「550歳……?めちゃくちゃ歳食ってるねお爺ちゃん」


 フライアの550年と言う言葉を聞いて、アタシはフライアの年齢を550歳程度と踏んで話しかける。

 フライアは見た目だけならアタシと大体同じかむしろ少し若いくらいである。アタシはフライアの身体と顔をジロジロ見ながら思う。


(なんでお爺ちゃんなのにアタシより若いのか意味わかんない。悪魔だからしょうがないんだけどさ)


 するとフライアはアタシの視線の意味を理解したのか、


「ふふんっ」


 と胸を見せつけるように張ってアタシを鼻で笑ってきた。


(うわっむっかつく、そのデカい乳握りしめてやろうか)


 そう思ってアタシは眉間に皺を寄せつつ威嚇するように口を横に広げ、両手をフライアに向けてニギニギと乳を掴む仕草をした。


「いやんっ♥」


 と言いつつ身体を横に逸らし、アタシの魔の手から守るように両腕で自分の胸を隠すフライア。頬を赤く染めつつ彼は言葉を続ける。


「そんな若く無いわ、4桁よぉ?」


 彼はサクッと4桁越えを主張してくる。


「因みに1000歳超えてからは数えてないから」

「えぇ…元の世界の時からそんな生きてたの……?」


 真顔に戻って言ってくるフライア。アタシはまたドン引きだ。魔法陣上の金髪の悪魔風のキャラクターの頭の上に1000↑?と言った数字を表示する。いったい何をやらかしたらそんな長く生きることになるのか。


「元の世界……ってのがそもそも、違うわね。もともと私は次元を超えていろんな異世界を渡り歩いていたのよ。世界によって時間の感覚と数え方は違うから、一口に1000年と言ってもその世界の1000年とは一致しないわ。だからもう数えずに1000歳以上ってことにしているの」


 魔法陣上の金髪の悪魔風のキャラクターが、ぴょんっと跳ねる度に、背景の世界が変わっていく。異世界旅行を表しているんだろう。


「世界の破壊者かな?」


 フライアの発言に、つい元の世界のネタで返してしまうアタシ。もちろん通じるハズも無く。


「私、この世界を壊しに来た訳じゃないわよ?むしろ壊されたのは私」


 きょとんとした顔のフライアに真面目に返される。


「壊されて巨乳のお爺ちゃんになっちゃったの?」


 アタシはフライアの壊された発言に、妬み嫉みを込めてジト目でフライアを弄る。


「えぇ……何を壊されたらそんな大きな胸になるんですの?」


 キートリーもアタシ同様にジト目でフライアを弄る。


(なんでこのお爺ちゃんアタシより胸大きいのか意味わかんない。キートリーもきっと同じ気持ちだろうなあ)


 そう思ってチラッとキートリーの胸を見る。


(Bくらいかな。アタシはEだから、随分と慎ましい、と言ったらキートリーに怒られそうだから言わない)


 キートリーはアタシの視線に気づいたのか、アタシを見たままちょっと頬を染めつつ両腕で自分の胸を隠した。


 対して目の前のお爺ちゃんに目を向ける。


(Fはあるな……あれっ?男だよねお爺ちゃん?)


 爆乳一歩寸前と言った辺り。因みにメグはもっと大きいです。


「違うわよ!私はこの世界に来る前からこうだったわよ!」


 むーっと不機嫌そうな顔をして、両手で自分の胸をペシペシペシと叩き主張するフライア。


(叩くたびに大きい胸がプルプル揺れるのが妬ましい。ていうかその揺れ方ブラしてないな?)


 プルプル揺れるフライアの胸から目を逸らし、黙ったままのパヤージュに目を向けてみる。


(キートリーより大きくてアタシより小さいくらい。Dと見る)


 アタシに見られていることに気づいたパヤージュは、不思議そうに首を傾げた。アタシは首を振り何でもないよと言う風な仕草をしてフライアに視線を戻した。


「お師匠様、次元を超える力があるなら、自分で脱出はできるのではないのですか?」


 相変わらず真面目な質問をしてくれるマース。言われたら確かにそうだ、次元移動できるならさっさとアタシを元の世界に戻してほしい。もちろんメグを助けてからだけど。

 因みにマースの胸はぺったんこです、男の子だし当然だよねぇ?男なのにアタシより巨乳なお爺ちゃんがおかしいだけ。


「ええ、今はできないのよ。この世界に来た時に、私の身体が強制的に裂かれて、半分になっちゃったの。その時に魂もバラバラになって各地に散ったわ。おかげて魔力は三分の一以下、使える魔法も減って、次元移動の魔法が使えなくなって、おかげで今の私は牧場の管理ボランティアよ?」


 肩を竦め自嘲気味に言うフライア。フライアの魔法陣上の金髪の悪魔風のキャラクターが、ぴょんと跳ねて次の世界に来た時、雷に打たれたような映像が映し出される。そして金髪の悪魔風のキャラクターの身体が半分に裂かれ、頭の上に表示されていた魂が、パーンと弾けて魔法陣上の背景に散った。金髪の悪魔風のキャラクターの隣りに1/3↓と言う数字が表示され、ジャンプしようとするキャラクターにバツ印が表示される。次元移動が出来ない事を示しているんだろう。

 しかし次元移動で寄っただけで身体引き裂いてくるこの世界はなかなか恐ろしいのではないのだろうか。いや、呼んでないのに勝手に来るフライアがそもそものイレギュラーなのだけれど。

 アタシはフライアの魂バラバラ発言でアタシに何をしてほしいかだいたい察しはついたので言ってみる。


「もしかして元の世界に帰るために必要なアタシの力って、そのバラバラになった魂集めてほしいってこと?」


 軽く首を傾げ人差し指を立てて質問した。ゲーム風に言うなら収集クエスト。〇〇を倒して××を何個集めて持ってきてね、ってやつだ。


「それよそれ!察しが良いじゃない千歳!」


 ビシッっと人差し指をアタシに向けるフライア。


「私の魂、あ・つ・め・て♥」


 フライアがアタシに媚るような声を出しつつウインクした。フライアの片目からふわふわとピンク色のハートマークが飛んでくる。変なところで無駄な魔法使わないで欲しい。アタシは飛んできたハートマークをさっと避けた。


「あぁん!なんで避けるのぉ?」


 握った両手を上下に小刻みに振って残念そうに言ってくるフライア。


「自分の祖父のウインクとか普通避けるでしょー、常識的に」


 ジト目で返すアタシ。お爺ちゃんにウインクしてもらって喜ぶ人はそうそういないと思う。


「いいから話続けて、続き続き」


 アタシは手をパンパンと鳴らし、フライアに話を促した。


「ぅぅん、もー。千歳なら私の散った魂を吸って私のところまで持ってこれるじゃない?それに私の魂がどこにあるかも感じる事が出来るの。そうやって集めて貰って、私の魂が回復すれば、いつかは次元移動魔法が使えるようになって、貴女を元の世界に返してあげることが出来るって寸法よ」


 フライアの魔法陣上のもう一人の金髪の悪魔キャラクターが、背景に散った魂風のものをあっちこっちに移動してかき集めて、集めた魂を元の金髪の悪魔キャラクターに渡した。そして金髪の悪魔キャラクターたちが一緒にジャンプをすると、〇印が表示される。次元移動が出来ますよと表現したいんだろう。

 この場合、アタシは便利な使いっ走りと言う訳である。フライアの言う事聞かないとメグと一緒に帰れないんだからしょうがないんだけど。


「お師匠様の散った魂って、オードゥスルスには食べられなかったのでしょうか?」


 マースのもっともな疑問だ。魂食いのこの世界において、無防備に散った魂が無事でいるとは思えない。


「この世界に来た直後に散らばったから、すぐには喰われなかったわ。でも550年の間に結構喰われて行ったみたい。だけどまだ喰われていない魂もいっぱい感じるの。それを拾い集めてほしいのよ」


 マースの疑問に答えるフライア。550年も経って残ってる魂だけで足りるのだろうか?


「なんで自分で魂集めやらなかったんですの?」


 キートリー、なかなか厳しいところを付いて来る。


「これでも頑張って集めたのよぉ?最初なんてただの町娘レベルに弱かったんだから。さらに最初に身体を裂かれた衝撃で、私30年くらい記憶喪失だったのよ?記憶が戻るまでの間、私なにやってたと思う?お貴族様の奴隷よ?30年間ずーっと奴隷やってたのよ?何回この身体を弄ばれたと思う?」


 両腕で身体を抱きしめて震える仕草をしてみせるフライア。フライアみたいな珍しい身体なら、それはもう、沢山。うん、やっぱり後ろでするんだろうか?とか思っていたら、フライアが魔法陣上によつんばいの体勢な金髪の奴隷風のキャラクターを表示してきた。それと奴隷キャラクターの真後ろに立つ、太ったお貴族様風のキャラクター。


「その映像はいらない」


 ジト目で手と顔を横に振って拒否するアタシ。


「えー、何をされたかじっくり説明するのにー」


 赤く染めた頬に手を当てて何故か残念そうに答えるフライア。それを説明されたら話が書けなくなる。やめやめて。


「弱っていたとはいえ、悪魔を奴隷にするなんて、何かあとが怖そうですわよね」


 フライアの詳細説明を飛ばして上手い事話しを進めてくれるキートリー。


「きっちり仕返しはしたわよ?」


 いきなり真顔になるフライア。


「今その貴族は絶家してもうないわ」

「怖いですわ、お爺様怖いですわ」


 キートリーが自分の首を摩りながら冷や汗を垂らしている。フライアの魔法陣上の太ったお貴族様風のキャラクターにバツ印が書かれた。その後ろの貴族の館風の建物にもバツ印が書かれる。絶家の表現なんだろう。


(絶家って何やったら絶家になるんだろ?普通にみんなの命を奪ったのかな?)


 一家皆殺しにすれば絶家するだろうけれど、このお爺ちゃんがそんな方法を取るのだろうか?


「みんな私と同じ容姿と体形にして奴隷として売り飛ばしたのよ」


 フライアから有情なのか無情なのかわからない答えが返ってきた。魔法陣上の金髪の奴隷キャラクターが金髪の悪魔キャラクターに変身し、そして太った貴族風のキャラクター達を次々と金髪の奴隷キャラクターに変えていく。最後には馬車に乗せられ、泣いている金髪の奴隷キャラクターが大量にドナドナされていった。


「発想が怖いですわ、自分と同じ顔を奴隷として売ってでも仕返しをする辺り発想が恐ろしいですわ」


 自分の両腕を掴んで組んでイヤイヤという仕草をしているキートリー。それにしてもキートリーの言う通りなんでわざわざ自分の容姿にしたのか。


「泣きながら売られて行く自分を見送るのは、さいっっっこうに興奮したわ……」


 ちょっと空を向き、頬を染めて目を瞑って答えるフライア。このお爺ちゃんはマゾヒストの気があるらしい。魔法陣上のドナドナされていく金髪の奴隷キャラクターを見ている金髪の悪魔キャラクターが、倒れ込み身体をぴくぴくと震わせている。そのキャラクターの上に大量のハートマークが浮かんでは消えるを繰り返している。


「性癖がねじ曲がってますわ、貴方と血がつながっているのが信じられませんわ」


 両手で頬を抑えムンクの叫びみたいな顔をして顔の方向をフライアから逸らすキートリー、逸らした先のアタシと目が合う。


「このお爺ちゃんの性癖に関してはアタシ関係ないから。そんな目でアタシに訴えられても困るから」


 アタシもキートリーを見ながら彼女の真似をしてムンクの叫びな顔をし返す。

 キートリーも言っているが、アタシもこの人と血がつながっているというのが信じられない。まあアタシは悪魔化できちゃうから間違いなくこの人の孫なんだけど。

 このままフライアの性癖の事を話題にしてたら話が終わらない。なのでアタシはアタシのやる事の話に戻す。


「兎も角、アタシがやればいいのは、フライアの散った魂集めってことね?どこにあるかは……」

「近くに寄れば、なんとなーくでわかると思うわよ?だけどオードゥスルス表面に放置されてた物は私が既に大体集めたから、それ以外の、僻地とか地下洞窟とか水中とか、生物や物に乗り移って土着の民の間に流通しちゃってるやつとか、そういうを狙って各地を巡ってもらうことになるから、結構時間は掛かるわ、年単位で考えて」


 魔法陣上の金髪の悪魔キャラクターが、汗をかきながら丸っこい島の各地をあちこち飛び回っている。


(もうちょっとこう、ドラ〇ンレーダーみたいな便利な代物はないのぉ?ないんだろうなぁ?ってアタシ自身が魂レーダーか)


 フライアにドラ〇ンレーダーと言っても通じそうにないので黙っておく。と言うか、この世界には普通のレーダーすらあるか怪しい。ゴブリンに滅ぼされた村と、ボーフォート軍のキャンプしかまだ見てないけれど、電気用品に当たる物ようなモノは一切目に入っていない。この世界ではまだ電気の発明がされていないのかもしれない。

 年単位でとフライアに言われ、アタシはちょっと引っ掛かったので聞いてみる。


「年単位かぁー、ところでその年単位ってもしかして悪魔基準の年単位じゃないよね?」

「……」


 アタシの質問に視線を斜め上に逸らしつつ何故か黙るフライア。


「なーんか言ってよお爺ちゃん。……もしかしてマジで悪魔基準の年単位なの?アタシおばあちゃんになっちゃうの?」


 質問しているうちに不安になってきた。悪魔基準の年単位とか、何十年アタシをこの世界に留め置くつもりだろう?


「千歳は悪魔化したからもう歳取らないわよ?命さえ喰ってれば、アタシみたいに4桁普通に生きるわよ?」


 アタシに視線を戻したフライアが真顔でとんでもない事を言ってくる。魔法陣上の金髪の悪魔キャラクターの上の数字が32からどんどんカウントアップされて、最終的に1000↑と書かれた。


「……なんでそういう重大なことさっさと言ってくれないの?」


 アタシは少しの間口をポカーンと開けたあと、フライアに言った。


「ええぇぇぇーーっ!?アタシ完全に人外じゃんこれぇ!?不死者ってそう言う事なのぉっ!?」


 アタシは1000↑と書かれた金髪の悪魔キャラクターを指差して叫ぶ。ヴァルキリーに不死者と言われた理由が分かった。今のアタシは間違いなく不死者だ。


「悪魔化出来る時点で余裕で人外だから安心しなさい?」


 軽く言ってくるフライア。安心できる要素が何もない。老い無い死なないでいきなり思い十字架を背負わされたアタシ。


(ごめんメグ、アタシ一緒に年取る事出来なくなってたよ。ヌールエルさん、もしかしてこれが嫌で餓死したんじゃないかな?)


 涙目で月夜を見上げそんなことを思うアタシだった。


「っていうか貴女いつまで悪魔化してるの?人間に戻ったら?」


 そんなアタシの想いもいざ知らず、さっきまで表示していた映像を映す魔法陣を消したフライアが、アタシの角と翼を指差して言ってくる。

 アタシは上げた顔を下ろし、少し俯いた。


(うん、忘れよう。メグを助けるのが先だ、先)


 寿命の事は一旦忘れる事にする、考えても頭が痛くなるだけだった。

 俯いたついでに自分の身体を見る。乳首と股間は身体の黒い模様が重なった厚みで隠れているが、それ以外は青い素肌がほとんど丸見え。不思議と寒くはないけれど、このまま人前に出たら痴女か?と聞かれたら痴女だな?と答える程度には何も着ていない。


「服が無いんですよね、誰か服貸して欲しい」


 フライアを見て答える。切実な問題だ。悪魔化したアタシは、身体の黒い模様で隠すべきところを隠しているだけなので、このまま人間に戻ったら全裸なのだ。

 

「千歳様ぁ!私の服を着てくださいなぁ!」


 後ろでサティさんの声がする。いつの間にか気絶から復帰したサティさんが、メイド服のエプロンを脱ぎ、両手を広げながらエプロンをアタシに渡そうと笑顔で走ってくる。この人はアタシに裸エプロンをさせるつもりなのだろうか?


「せいっ」


 アタシは立ちあがって即座にサティさんの後ろに回り込んだ。サティさんはアタシのスピードに反応出来ておらず、前を向いたままだ。そんなアタシをキートリーとフライアは目で追っかけていた。アタシはそのままうなじに指を合せて一瞬だけ命を吸ってサティさんを気絶させた。うん、甘くておいしい。


「んあぁんっ♥」


 サティさんは嬉しそうな声を上げて海老反りした後、また気絶した。彼女がまた顔から倒れ込むので、アタシは後ろからサティさんの腰の辺りに手を回して抱きかかえる。ほんの少量とは言え、命を吸っても数分気絶するだけで体力回復して戻ってくるとは、なかなか侮れないぞサティさん。

 パヤージュが今頃アタシが移動したことに気づいたのかこっちを振り向いた。アタシの左肩に手を当てて立っていたマースは、アタシが立ち上がったときに翼で包んで一緒に移動した。今、アタシの左肩で翼に包まれたまま不思議そうな顔をして左右を見渡している。

 アタシは右手でサティさんを、左翼でマースを抱えたままフライアの前に戻って座った。気絶中のサティさんをまた地面に転がせるのもなんなので、胡坐で座ってるアタシの足の上にサティさんを横にして乗っける。


「サティ、貴女と言う人は……」


 キートリーが呆れ顔しつつ手で頭を抑えている。


「この子は、まあしょうがないわよ。ヌールエルが唯一手出しした子だし」


 フライアが若干呆れ顔しつつ、アタシの足元のサティさんを見て、割と重要な事を言って来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る