05.暴走_side05

 マースによるサティの治療、その時間稼ぎをするためワタクシは再度戦闘態勢に入ります。と、女悪魔の方に視線を向けたところ、


「ちょっ!?お父様!?」


 マースの強化魔術付きとは言え、デタラメなスピードで巨体の女悪魔を翻弄するお父様。


「ドリャアアアッ!」


-ザシュッ!-

-ズバッ!-


 お父様を殴ろうと女悪魔が腕を振り回しますが、お父様は握った剣でその腕を斬り上げ根元からいとも簡単に切断。


「グギャアアアアアッッ!?」


 片腕を斬り飛ばされ、断面から青色の血を吹き出しつつ悲鳴と共に怯む女悪魔。お父様はその隙に背中側に回り込み女悪魔の翼を切り落とし切断。


「ギギァァァァッ!?」


 翼を斬り落とされ悲鳴を上げる女悪魔を横目に、クルリと側面を回り残っている片腕も切り上げ切断していくお父様。


「ガアアァァァァッ!?」


 両腕と背中の翼から青い血を吹き出しつつ、悲鳴を上げる女悪魔。もう女悪魔には両腕と翼が無いですの。


「ちょっ!?お父様!それ千歳様の身体でもあるんですのよっ!少しは手加減しなさいなっ!」


 ワタクシはお父様の傍に駆け寄りながら、お父様を諫めますの。あの勢いで斬ってたら千歳様が正気に戻ったときに手足が無くなってしまいますわ。それに千歳様、悪魔化してる最中にも意識があると言っていましたわ。自分の腕が斬り飛ばされる感覚ってどんな感じなのかはワタクシ存じませんが、千歳様は恐怖でいっぱいでしょうに。


「ああそういやそうだったっ!うへぇぇ!やっ!やりづれえぇ!」

「いろいろ切り落としてから言わないでくださいましっ!」


 ついやってしまった、と言った感じのお父様。つい、で人の両腕切り落とすのは如何なものかと思いますわ。

 ですが、当の女悪魔の両腕と翼、


 -ニョキニョキ-


 当然のように生えてきましたの。


「ガッギャアアアアッッ!」


-ドガァァッ!-


 生えた手でお父様とワタクシの居る地面目掛けて手を振り下ろす女悪魔。叩きつけた手の衝撃で割れる地面。


「くっ!?」


 タタンッと後方に飛び退き、女悪魔の振り下ろした手から離れるワタクシ。


「うおっ!?生えた!?これどうすりゃいいんだ!?」


 同じく躱しつつ少し間合いを取るお父様。お父様の持っているロングソードは、A級流着物の聖剣"デュランダル"ですの。切ろうと思えばなんでも切れる、持ってる本人と同じくらいデタラメな剣ですわ。この世界のあらゆる金属はもとより、液体、空気、魔術での攻撃や、そもそもの魔力の流れ自体を切ったりもできますの。ジェボード国との戦にて、侵攻を止めない獣人たちに堪忍袋の緒が切れたお父様が、ジェボードの領地に乗り込み大地の魔力地脈を切って、その辺一体の地域を干上がらせて砂漠に変えたことがありましたわ。ジェボードの獣人たちも流石にこれには堪えたのか、休戦が早まりましたわね。


「その剣、デュランダルでしょう!?なんでお父様はそんなスペシャルなモノをゴブリン狩りに持ってきてしまうんですの!?」


 ボーフォートの戦での切り札レベルの物をホイホイゴブリン狩りに持ってきて来られては困りますのよ。などとワタクシが思っていると、


「ばっかやろう!こりゃあ俺の愛剣だぞ!これ無しじゃ寝れねえんだよ!」

「言うに事を欠いてバカヤロウとはなんですの!娘に向かってバカヤロウとは!?」


 お父様は焦り出すと少々口が悪くなりますの。ワタクシも人の事は言えないのですけれど。


「ああ!悪かったよ!んでどうすりゃいいんだ!?」

「失神させるんですのよ!失神!頭でも腹でも!強烈な衝撃を与えて失神させるんですの!そうすれば千歳様に戻りますの!切り落としちゃダメですのよ!千歳様に戻った時に手足が無くなってしまいます!」


 兎にも角にも元の千歳様に戻すのが最優先。その為には失神させるしかありませんの。


「斬らずにあんなデカブツ失神させる衝撃を与えるって、どうやってだよ!?」

「そんなのこっちが聞きたいですわぁぁっ!!??」


 お父様の質問に半ギレで答えるワタクシ。お父様とワタクシの怒号が飛び交いますの。実際女悪魔のあの巨体、多少の衝撃ではそうそう失神してくれそうにありませんのよ。

 さてどうしようかと周りを見渡しますと、2エールト程度と手ごろな岩が。ワタクシは女悪魔の攻撃を避けつつ、近くにあった岩を両手で地面から引っこ抜き、


「ふんっっ!」


-ボコッ-


 女悪魔の後方に回り込んで放り投げます。


「これでぇぇぇっ!どっせーいっ!」


-ブゥンッ-

-ドッガァァァッ!-


「グギィィィッ!?」


 女悪魔に当たって衝撃でバラバラに割れる岩。流石に痛かったのか、仰け反って背中をさする女悪魔ですが、失神する様子はありませんわ。


(くぅっ、頑丈な身体ですの)


 お父様は正面から切り落とさない程度の浅めの斬撃を仕掛けています。


「くっそっ!こんなチマチマやってたら終わらねえぞ!」


 焦れて文句を言っているお父様。


(これじゃ埒が明かないですわ。岩をぶつける程度の攻撃では頑丈すぎてそうそう失神してくれないですし、逆にお父様の剣で深く斬ってしまうと千歳様の身体に致命傷を与えかねませんし。そもそも触ったらアウトってのがワタクシの戦闘スタイルと相性が最悪なんですのよ。直接殴れるならばまだ失神させる手もありますのに!)


 ワタクシ達が戦いながら頭を捻っているとき、そこにひょっこりと、


「旦那様、お嬢様、救援に参りました」


 ワタクシの後ろから聞こえてくるおっとりとした女性の声。


「うおっ!パヤージュか?」

「パ、パヤージュ!?貴女まだ治療中じゃありませんの!?」


 振り向けば緑色の杖を持った焦げ茶色の肌の女性が。彼女はパヤージュ、ボーフォート領の東方に流着した島から来た風のエルフですの。彼女は、昼頃、千歳さんによってゴブリンに占領された村から救い出された後、シュダ森南の砂浜にてマース達の小隊に救助されましたが、全身、特に足に重傷を負い、キャンプの野戦病院で治療を受けていたハズですの。その後、千歳さんの友人救出で風の魔術師が必要になったため、緊急で回復させるためにマースが直接治療を行っていた、ハズなんですけれど。


(マースまさかもう彼女の治療終わったんですの?)


 あの弟なら有り得る。そう思ってしまう程度にはあの子は規格外ですの。


「いえ、まだ痛みはありますが、歩ける程度には回復しています」

「完治してないじゃないですの!?」


 流石のマースでもまだ治しきれていなかったようですわ。


「こっちに来てはダメですのよ!この大きいのは危険ですの!」


 そう言って彼女を女悪魔から遠ざけますの。彼女も魔術師で、直接戦闘は苦手ですのよ。


「承知しました。では少し離れて魔術で」

「あっ、魔術はこの方には効かな……」


 ワタクシの注意を聞き終える前に呪文詠唱を始めるパヤージュ。


「ケセラセラ、風の女神シレヌーよ、その美歌の力で我が敵を切り刻め、シャープウィンド」


 -キィィィン-


 パヤージュの掲げた杖が緑色の光で輝きましたの。そして杖から風の刃が女悪魔目掛けて射出されます。


 -ヒュゥゥンッ!-


 -ズバッ!-


「グギャアアッッ」


 女悪魔の悲鳴を上げますの。女悪魔の表面に、風の刃が食い込みましたわ。


「んなっ!?魔術が効きましたのっ?!」

「なんだ!?千歳には魔術は効かないんじゃあなかったのか!?」


 魔術が通らないハズの千歳様の身体に、風の刃が刺さったことを驚くワタクシとお父様。


「えっ?千歳?あの青い巨人が私を助けてくれた千歳さんなんですか?」


 魔術が効いていることに驚くワタクシ達とは、また違った意味で驚いているらしいパヤージュ。


「姉様!サティの救命処置完了しました!こちらの戦闘に復帰します!ってパヤージュさん!?なんでここに!?」


 そこにサティの処置が終わって戻ってきたらしいマースが更に混ざりますの。


「あ、マース様、救援信号が見えましたのでこちらに……」

「まだ完治してないんだから来ちゃダメだよう!」


 マースが杖をぶんぶん振ってパヤージュを叱ってますの。

 ワタクシはワタクシで先ほどの現象に頭を悩ませます。


(んんー!?なんでパヤージュの魔術が効いて、マースとサティの魔術がダメなんですの!?意味がわからないですわ!)


 パヤージュの魔術と、マース&サティの魔術の違い、少し悩んで、割と簡単に思いつきましたの。


(あっ、術式系統の違いですのね?パヤージュは風、マース達は水、ピンと来たのはそれぐらいですの、でも試してみる価値はあるかもしれませんわ)


 思いつきにぽんっと手を打つワタクシ。ワタクシは女悪魔の周りをグルグル走りつつ足元の石を拾って投石で女悪魔を背面からけん制。そうしつつ思いついたことをパヤージュに試してもらう事にしましたの。


「パヤージュ!風魔術で何か相手をその場に拘束するような魔術はありませんこと!?あの青い巨人の方に掛けてみてほしいんですの!」


 ワタクシの学んだメルジナ教の水魔術と、パヤージュが今使ったシレヌー教の風魔術では魔術系統がまるで違いますの。改宗しなければ別系統の魔術は使えません。ボーフォート家は代々メルジナ教ですから、どうせ使わないだろうと座学でも風魔術に関しては全く履修してませんのよ。


「あります、いいでしょうか?撃ちますよ?」

「お願いしますの!」


 そうパヤージュに頼むと、彼女は杖を掲げて呪文詠唱を始めます。


「ケセラセラ!風の女神シレヌーよ、その暴歌の力で彼の者を大地に這わせた賜え、アッサルトバースト!」


 -キィィィン-


 パヤージュの杖が緑色に輝きましたの。そして女悪魔に対して始まる暴歌の風魔術。


 -コォォォ-

 -ゴォォォォォ-!

 -ゴォオオオオオオオオオッッ!-


 段々と強くなっていく風。


「んんんんっ!?ちょっ!?まっ!?なんですのこの暴風はっ!?」

「うおほおっ!?なんだこの風!?」


 何故か女悪魔だけでなくワタクシ達も巻き込みだす暴風。ワタクシのリボンで結んだ後ろ髪がバッサバッサと風に煽られ今にも吹き飛びそうですの。お父様には風に煽られる髪そのものがありませんから、こういう時楽ですわよね。


「お二人とも、離れてくださーい」

「おーい!先に言ってほしかったぞぉ!!」

「先に言ってくださいなーっ!」


 今頃呑気に注意を告げてくるパヤージュ。この子、ちょっとマイペース気味なところがありますのよね。

 上空から吹き付けるとてつもない威力の暴風に地面に這いつくばるしかないワタクシとお父様。それでも暴風の中心にはいないからなのか、地面を這いずってなんとか暴風の中心点からは離れ、魔術を掛けているパヤージュの近くまで戻りましたの。ですが、この暴風の中心点である、女悪魔。それを振り返ってみれば、


「グッガッ!?ガアアッッ!?」

「すごいですわね、あの女悪魔が立ち上がれないで四つん這いになってますの」


 完全に大地に手を付き、暴風に押しつぶされないようただ耐えるだけになっている女悪魔。ともあれ、思惑は大成功、千歳様は風魔術は防げない様子ですわ。何故水魔術は消せて、風魔術が消せないのかの理由は全く分かりませんけれど。


「千歳さんに僕の水魔術は効かないのに、風魔術は効いちゃうんだ……あっ、そっちの可能性があるのか」


 パヤージュの隣にいたマースが何か感づいたらしく思案していますの。


「身体の大きい方にはより強い効果が望めるんですよー」


 杖を掲げたまま呑気にそう言ってくるパヤージュ。


「はーっ、じゃあ俺撃たれたらやべえんだろうなあ」


 一息ついて座っているお父様が自分の身長を理由に暴風魔術を怖がってますの。なので精一杯のフォローをするんですのよ。


「お父様がパヤージュ達、風のエルフの反感を買わないよう気を付けて領地を治めればいいだけじゃないですの」

「お前なぁ、そら気を付けるけど領主業だって結構しんどいんだぞ?キートリー、お前俺の代わりに領主やってくれる?」

「遠慮しますの、お父様はご自分のお仕事頑張ってくださいな」


 そう言ってお父様に背を向けるワタクシ。これがワタクシの精一杯でしたわ。そもそも次期領主は長男のヤン兄様ですの。ワタクシが領主になること間違ってもないですわね。ワタクシ、人を使うと言うのは性に合いませんの、だって魔術以外の事であれば自分で動いた方が速いんですもの。正直、戦の時の歩兵大隊長と言う肩書でも持て余してますのに……何故か兵達はワタクシの後ろを喜んで付いてきてくれますけれどねぇ。あ、サティは別ですのよ、あの子には居て貰わないとワタクシ非常に困りますから。


「さて、拘束したはいいのですけれど、どうやって千歳様を元に戻したらいいのかしら?」


 ワタクシは風魔術行使中のパヤージュを置いて、マースに相談ですの。


「姉様、千歳さんを失神させれば一旦元の千歳さんに戻るんですよね?」


 何か思案していたマースがワタクシに聞いてきますの。


「そうですわよ。でも本当に一時だけで、触ったらまた暴れ出すんですのよ。中身は間違いなく千歳さんなのですけれど、彼女の話によれば、"身体を勝手に動かしてる人"がいるっていう話でしたわ。はてどうしたものやら」

「うーん、わからないことが多いですね姉様」


 マースと一緒に頭を捻りますが、解決の糸口が見つからないまま、時間が過ぎて行くのですわ。

 そんな頃、女悪魔に風魔術を掛けていたパヤージュがワタクシに声を掛けてきましたの。


「あの、お嬢様」

「どうしましたのパヤージュ?」

「あと10秒くらいで私の魔力が切れてしまいます」


 さらっと重大な事言ってくるパヤージュ。この子、ほんと、ちょっとマイペースすぎますの。


「なんでもっと早く言わないんですのよっ!?お父様!戦闘準備!マースは援護!パヤージュは魔力切れたら座って休んでなさい!!」

「うおおおっ!またかよ!」

「分かりました姉様!」


 矢継ぎ早にお父様とマースに指示を飛ばすワタクシ。座って休んでいたお父様は、急いで立ち上がり剣を構えますの。マースも両手で杖を構え直します。


「申し訳ありませんお嬢様……3、2、1、はい、終わりました」


 -ゴォォォォォ-!

 -コォォォ-


「グギャアアッ!」


 止む暴風、そして暴風から解き放たれ、怒り心頭で立ち上がる女悪魔。女悪魔の足止めのため、飛びかかるワタクシとお父様。

 そして再び埒の明かない不毛な戦闘が始まりますの。

 間合いを取ったまま戦うこと10分。


「パヤージュさん、足どうですか?治ってきましたか?」

「ええ、大分痛みが引いてきました。ありがとうございます、マース様」

「サティも大丈夫?お腹痛くない?」

「まだ少し痛みますが、私も大分痛みが消えてきました。マース様、お手を煩わせてしまい申し訳ありません」

「んーん、気にしないで、サティが助かってよかったよ。っと、そろそろかな。水の女神メルジナよ、その慈悲深き力を持って彼らに天恵を与えよ、フルブレッシング!」


 座ったままマースが杖を掲げましたの。マースの魔術により、ワタクシとお父様の全身強化魔術がさらに10分継続となりましたわ。マースは女悪魔から離れた場所にサティとパヤージュの連れて座り込み、ワタクシ達に時折援護魔術を掛けつつ、合間にサティとパヤージュには治癒魔術を掛けていますわ。


(器用な弟ですわね)


 そう思いつつ、ワタクシは地面に転がっていた岩を女悪魔に投げつけますの。


「せりゃぁぁっ!!」


 -ズドォォッ!-


 お父様は鞘に納めた剣で女悪魔を殴っていますわ。


「うおおおりゃああっっ!」


 -ゴンッ!-


 なんでも斬るデュランダルを納められるあの鞘、なんの素材で出来ているのかしらね。

 女悪魔は好き放題殴られて怒っているのか、手足を振り回して暴れていますわ。


「ガギャアアアアッッッ!」


 -ドガァァンッ!-


 お父様とワタクシ、女悪魔らの攻撃で森の木は吹き飛び、地面は穴だらけになっていきますのよ。


 さらに再び間合いを取ったまま戦うこと10分。


「はい、兄と一緒に救出隊に出たのですが私が捕まってしまい……」

「そうか、ごめんね……すぐに助けに行けなくて……」

「いいえ、マース様が謝る事ではありません、相手の戦力を侮った私たちが悪いんです」

「パヤージュ、あまり自分を責めてはいけませんよ。自分を責めたって、ただ自分が辛くなるだけです」

「サティ様……ありがとうございます……」

「ん、更新しないと。水の女神メルジナよ、その慈悲深き力を持って彼らに天恵を与えよ、フルブレッシング!」


 マースの魔術により、ワタクシとお父様の全身強化魔術がさらにさらに10分継続となりますの。マース達は今朝の救出隊の話をしているようですわ。


「せいはぁぁっ!千歳様ぁ!そろそろ正気に戻ってぇぇ!」

「だりゃああっっ!戻ってくれぇぇ!」」


 ワタクシとお父様の懇願の叫びが暴走する千歳様に掛けられますの。


「グガアアアアッッッ!」


 千歳様が戻ってくる気配は全然ありませんけれど。


 さらにさらに再び間合いを取ったまま戦うこと10分。


「千歳様の手が私に触れた時、ヌールエル様の手の感触を思い出してしまって……」

「お母様の手って、千歳さんみたいな感じなんだ……僕もね、千歳さんに頬を撫でて貰って……」

「私は千歳さんに抱っこしてもらいました」

「あ、僕も、ぎゅってして持っちゃった」

「それなら私はお腹をぎゅっと……」

「お腹をぎゅっと?サティ、お腹をぎゅってどんな感じなの?」

「あ、いえっ、マース様、いいえなんでもありません、私の言い間違いです」

「教えてくれるかな?サティ?」

「はい……それが……」

「あ、ちょっと待ってね。水の女神メルジナよ、その慈悲深き力を持って彼らに天恵を与えよ、フルブレッシング!」


 マースの魔術により、ワタクシとお父様の全身強化魔術がさらにさらにさらに10分継続となりますの。マース達は千歳様の話をしているようですわ。


(それならワタクシだって千歳様の胸でいっぱい泣かせていただきましたのよ!ってこんなこと恥ずかしくて言えませんわね……)


「はーっ、はーっ、しかしお父様、ワタクシこれしんどいですわ……」


 千歳様が元に戻る気配は全然ありませんの。マースの天恵魔術で体力は回復するとはいえ、こう何十分も連続で戦っていると、流石にキツくなってきましたわ。


「ははは、俺もつれぇわ……」

「ガアアアッッ!」


 -ブゥンッ!-


「っだああっぶねえ!」


 気を抜いて雑談し始めたお父様を女悪魔の巨大な腕が襲いますの。お父様は即座に気づいて避けましたけれど。


 さらにさらにさらに再び間合いを取ったまま戦うこと10分。


「……ああ、なるほど、それでなのか。ん?お腹……お腹か。んー、千歳さんに魔力があると仮定して、あれを流れとして考えると、接点があるのは……口とお腹と、胸間かな?……うん、これなら助けられるかも」

「マ、マース様?どうなされました?」

「んーん、サティ、僕ちょっと思いついたことがあるんだ。パヤージュさん、ちょっとの間、サティをよろしくね」

「え?あ、はい、わかりました」


 何を思いついたのか、マースがサティとパヤージュの元から離れましたの。

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