03.ゴブリンの村_02

 アタシは今、苦境に立たされている。前と右からはこん棒や斧などを持ったゴブリンがわらわらと何十体も寄ってきていて、後ろには幌馬車の側で歩けなくなっているチョコレートエルフ、左は石壁の家で行き止まりで、今は死角に入ってるので撃ってこないが、この石壁の向こうには弓を持ったゴブリンがいる。

 アタシはゴブリン達から自分の身を守りつつ、後ろのチョコエルフも守りきらなければならない。

 成り行きでチョコエルフを拾ってきてしまったが、今更見捨てるつもりは無い。別にアタシは正義の味方じゃあないし、博愛主義者でもないから、誰でも助けるって訳じゃないけど、ただアタシの手の届く範囲内で死なれるのは気分が悪い。それで手を差し伸べてこんな状況に陥っている訳だけど、それはアタシが自分から首を突っ込んだからで、これでアタシが死のうが犯されようが、チョコエルフに責任は無い。全部アタシの責任だ。死ぬのは怖い、だけど怖いことより負ける方が悔しくて嫌だ。ただ黙って殺されてやるつもりは無い。自分のケツは自分で拭くのがアタシの主義だ。覚悟決めてケツを拭ききってやる。


「来いっ!全部こっち来いっ!」


 後ろのチョコエルフが狙われないよう前に出てゴブリンに向けて手招きをする。


「ゲァーッ!」

「グゲゲーッ!」


 2体のゴブリンが斧を振りかぶりアタシ目掛けてジャンプして飛びかかってきた。ゴブリン達はアタシの半分以下の大きさだ。弓以外でアタシの、特に上半身に致命的を与えるには、アタシを転倒させるかこうやってジャンプするしかない。アタシは空中のゴブリンが斧を振り下ろす前に、素早く一歩前に出て左の1体を左腕の盾で殴り飛ばす。


 -ゴッ!-


「ゲギャッ!?」


 -ドゴォッ!-


 盾で殴られたゴブリンは顔面を潰されながら左の壁に吹き飛ぶ。アタシは間髪入れずにジャンプ中の右の1体の首を掴み、前方のゴブリン集団に投げ飛ばす。


 -ガシッ-


「ゲッ!?」

「そりゃああっ!!」


 -ブゥンッ!-


「ゲギャーッ!?」


 -ドゴゴッ!-


「グギャ!?」

「グゲッ!?」


 投げ飛ばしたゴブリンによってボウリングのピンみたいに倒れていくゴブリン達。だがゴブリン集団は右からも来る。


「ゲゲーッ!」

「ギゲーッ!」

「ギィーッ!」


 今度は3体ジャンプで飛びかかってきた。アタシは一旦後方飛び退き、ゴブリン達の間合いから出る。


 -スッ-


 -ブンッ-


 ゴブリン達は空中で斧を空切り、そのまま着地する。アタシは連中の着地際に右から下段回し蹴りを叩き込み、3体纏めて吹き飛ばす。


「せいっ!」


 -ドゴゴゴッ!-


「ゲッ!?」

「ゴッ!?」

「ガッ!?」


 そのまま中を舞い、地面に叩きつけられるゴブリン達。


(こいつら軽い、刃物さえ気を付ければなんとかなるか?いや、全員で一斉に取り付かれたら転倒させられて終わり。このままじゃダメだ、この包囲をなんとか突破しないと)


 ゴブリンはその小ささからか体重が軽い。2~3体ならさっきみたいに纏めて吹き飛ばして対処出来るが、これが5体10体となると話は別だ。数で攻められると分が悪い。

 再び前方に向き直すと、奥のゴブリン達はアタシの初撃を見て警戒したのか、無闇に飛びかからずアタシを包囲しつつ様子見し出す。


(クソッ!早くしないと弓矢持ちの連中が!)


 アタシは目の前のゴブリン達の他に、弓矢を持ったゴブリンを警戒している。今は死角に入ってるが、そろそろ移動を終えてアタシを狙える位置に来るかもしれない。数体の弓矢持ちに狙われながら目の前のゴブリン達を捌くのはかなりキツイ。更に後ろのチョコエルフを狙われでもしたら対応しきれなくなるだろう。アタシはとにかく少しでも早く目の前の包囲を突破したかった。

 そんな事を思っていた時、倒したゴブリン達の口から一斉に白い煙玉のようなものがフワリと飛び出し、空に昇って行く。


(何あれ?エクトプラズム?魂でも抜けてんの?)


「ギーッ!」

「ギッ!」

「ゲギッ!」


 -ガチャガチャ-


 前方の集団の中に居た素手のゴブリン達が、煙玉を吐いたゴブリンから武器を毟り取っていく。


(この世界のモンスターは倒したら口から煙を吐くの?まあ倒したってのがわかりやすくていいけどさ)


 そのままゴブリンの包囲をどう突破するかと思いあぐねていたところ、アタシは左前方の家の屋根上に弓矢を構えるゴブリンを見つける。


(もう来た!?)


 -ヒュンッ-


「くっ!」


 -カンッ-


 飛んできた矢を盾で防ぐが、続けて右前方の茂みにも弓矢を構えたゴブリンが現れる。


(あっちも!)


 -ヒュンッ-


「っとぁっ!?」


 -カツンッ-


 身体を逸らし、間一髪矢を避ける。避けた矢はかん高い音を立てて後ろの家の石壁に弾かれる。だがそうしてアタシが弓矢に気を取られている隙に、前方のゴブリン達が一斉にアタシに飛びかかってくる。


「ゲギャギャギャッ!」

「ギギギーッ!」

「ガギャーッ!」


「こいつらっ!」


 -ドゴォッ!-


「ギャッ!?」

「グッ!?」


 アタシは近寄ってきた足元のゴブリンを蹴り飛ばすが、飛びかかってきたゴブリンの数が多く捌ききれない。ついに腕と脚に数体しがみつかれてしまった。


 -ガシッ、ガシッ-


「離れろっ!このっ!」

「ゲッギャーッ!」


 アタシがしがみついたゴブリンを振り解けず腕や足を振り回してる隙に、さらに追加で数体ゴブリンが身体中に纏わりついて来る。


「ギャギャギャッ!」

「ゲヒャーッ!」


「うあっ!離れろっ!おいこらお前!胸を揉むなっ!離れろって!」


 胸に、背中に、尻にとゴブリン達がアタシに殺到する。アタシはそれでもなんとかゴブリンを振り落とそうと暴れるが、いよいよゴブリン達の重さでバランス崩し、地面に倒れた。


 -ドサッ-


(マズイマズイマズイ!!)


 地面に引きずり倒されたアタシは狼狽する。アタシがおばあちゃんに習っていたのは基本的に立ち技格闘技がメインで、受け身こそ大方教えてもらったが寝技はほとんど習っていない。おばあちゃんに連れられて他流試合もやった経験があるが、無駄に大きいこの体格のせいで転倒した記憶もほとんどない。よってこうやって転倒させられてしまうとせいぜい出来るのは掴んで相手を殴るか膝で蹴るくらいで、繰り出せる技なんて知らないのだ。まあそもそもこの数のゴブリンに殺到されては寝技も何も無いんだけど。そしてロープもレフェリーもいないので中断されることもない、状況は絶望的だ。


「くそっ!くそっ!このおおおおっ!はなせぇぇぇーっっ!!」


 アタシはなんとか振りほどこうとしがみついてくるゴブリン達掴んで投げ飛ばすが、投げ飛ばすより飛びかかってくるゴブリンの方が多い。手も足も多数のゴブリンにがっしりと絡みつかれており、だんだんと自由に動かす事が出来なくなってくる。ガリバー旅行記で小人に縛り上げられるガリバーの気分だ。


「ゲヒャヒャヒャッ!」

「ギギーッ!」


 その内に周りで見ているゴブリン達が勝ったと言わんばかりに笑いだす。そしてゴブリンにしがみつかれ倒れたまま身動きが取れないアタシに向けて、ゴブリン達が近づき斧を振りかぶる。


(しまっ……!)


 アタシの脳裏に死の一文字が浮かび上がる。だがその時、後ろの幌馬車の側にいるチョコエルフが何かを叫んだ。


「ुोॹोॹ!ऻौफ़ॱ़९ेॼड़৬ॸ、्फ़ॣऻफ़॑ऻॹॗॿ़ॖऽংऽॺऽॆॱ、ेॳ৬१शळঃख़!」


 -キィィィン-


 金属を叩いたかのような甲高い音と共に、チョコエルフの方角から眩い緑色の光が輝く。


(何の光!?)


 緑色の光が輝いた直後、チョコエルフの方角から風切り音と共に何かがゴブリン達目掛けて飛んで行く。


 -ヒュゥゥンッ!-

 -ブワァァァッ!-


「「ギゲーッ!?」」


 風が、もの凄いスピードで通り過ぎた。間近で斧を振りかぶっていたゴブリンの後ろの、アタシにしがみつこうと近寄ってきていたゴブリン達が強風で吹き飛ばされる。さらに、


「ギッ……?」

「ゲッ……?」


 -ボトッ、ボトッボトッ-

 -ブシュゥゥッ-

 -ドシャ-


(えっ?)


 アタシの目の前で斧を構えていたゴブリン達の頭が、ズルリと首から取れて次々と地面に落ちる。一時おいて首から血を吹き出しながら倒れる身体。その切り口はまるで日本刀か何かの鋭利な刃物でスパっと切断されたかのようだ。


「ゲギャッ!?」

「ギギギッ!?」


 首無しになった斧ゴブリンを見て困惑の声を上げ後ずさるゴブリン達。アタシにしがみついているゴブリン達も驚いてそっちを見ている。そしてまた倒れた斧ゴブリン達の、今度は首の切り口から一斉に煙玉がフワリと飛び出し、空に昇って行く。


(何!?何が起きた!?)


 アタシも何が起きたのか分からず困惑するが、咄嗟にゴブリンの首を切り落とした何かが飛んできた方向を見る。そこではチョコエルフが苦しそうにゼェゼェ息をしながら緑色に光輝く杖をゴブリンの方に向けていた。


(魔法?魔法なの?エルフが風の魔法を撃った?じゃあさっきの言葉は呪文詠唱?)


 チョコエルフが魔法を撃ったこと一瞬驚くが、ここは異世界だ、魔法の一つや二つはあったっておかしくない。それよりも今は身体中にしがみついているゴブリン達から逃れるのが先だ。


(いや、なんでもいい!ゴブリンの動きが止まってる!今!)


 ゴブリン達はエルフの魔法に動揺して動きを止めている。アタシはその隙に身体にしがみついているゴブリン達を引っ剥がしにかかる。


 -ガシッ-


「ふんっ!」


 -ブンッ-


「ゲッ!?」


 -ビリィッ-


 ゴブリンの首根っこを掴み、兎に角遠くへ投げ飛ばす。胸にしがみついていたゴブリンを引っ剥がす際に、ゴブリンの爪が引っ掛かったまま投げ飛ばしたためインナーシャツが無惨にも破れ、アタシお気に入りの赤いブラが丸見えになる。

 1体2体3体と投げ飛ばし続ける内に身体に掛かる重量も軽くなる。チョコエルフが風の魔法で吹き飛ばしてくれたおかげか、追加のゴブリンが来る前にアタシは数体ゴブリンを抱えたまま無理やり立ち上がれた。


「どっせいっ!」


(よし、立てた!)


「邪魔だお前らーっ!」


 -ブゥンッ!-

 -ビリリッ-


 手足を思いっきり振り回し、腕と脚に引っ付いているゴブリンを遠心力で引き剥がす。いよいよインナーシャツの残り生地も引っ剥がしたゴブリンごと全部破れ切り、アタシは上半身ブラのみの下半身はジーパンの格好となる。いつもなら恥ずかしくてこんな格好はしてられないが、今は羞恥心がどうこうなんてことには構っていられない。アタシはその格好のまま戦闘の構えをし直す。

 この時左の屋根の上の弓ゴブリンが射撃体制に入っているのが目に入った。だが狙いが微妙にアタシから逸れていて、後ろを狙っている感じがする。


(エルフに狙いに変えた?やらせない!)


 アタシはまだしぶとくジーパンの尻に引っ付いてるゴブリンを引っ剥がし、屋根上の弓ゴブリン目掛けて掴んだゴブリンを投げ飛ばす。


 -ガシッ-


「ゲゲッ!?」

「どっりゃああっ!」


 -ブンッ!-


「ゲギャーッ!?」


 -ヒュンッ-

 -ドスッ-


「ゲヒュッ!?」


 -ドシャッ-


 弓ゴブリンの撃った矢が空中で投げ飛ばしたゴブリンの首に深々と刺さり、投げられたゴブリンが詰まった悲鳴を上げてドサリと地面に落ちる。このゴブリンの口からも煙玉がフワリと飛び出して空に昇って行った。


(撃ち落とされた!だけど左は次撃つまで時間があるハズ!右の奴は!?)


 弓ゴブリンは左の屋根上に1体、右の草むら内に1体、後はまだ死角にいるが石壁の後ろに1体の合計3体いる。ここの弓ゴブリンは狙いは割と正確なものの、次弾発射までが遅い。アタシはその隙に行動を続ける。

 アタシが右前方の弓ゴブリンを確認しようと顔を向けた時、


「ुोॹोॹ!ऻौफ़ॱ़९ेॼड़৬ॸ、्फ़ॣऻफ़॑ऻॹॗॿ़ॖऽংऽॺऽॆॱ、ेॳ৬१शळঃख़!」


 -キィィィン-


 チョコエルフが再び魔法の詠唱を始め、緑色に光る杖から風の刃を右の弓ゴブリンのいる草むら目掛けて射出する。


 -ヒュゥゥンッ!-


「グガーッ!?」

「ギーッ!?」


 -ズパッ-


「ガッ……?」


 -ドシャッ-


 射出された風の刃は、草むらとその間にいるいくつかのゴブリン達を吹き飛ばしつつ、弓ゴブリンの身体を切り裂いた。弓ゴブリンは上下に別れた身体から血を吹き出し倒れ、別れた上半身の口から煙玉を吐き出して、煙玉は空に昇って行く。


「キミ、やるじゃない!」


 チョコエルフの的確な援護に賞賛の声を上げるアタシ。だがアタシがチョコエルフの方に向き直ると同時に、チョコエルフはパタリと力尽き倒れる。


「えっ、ちょっと!もうちょっと頑張って!ああダメだ!気絶してる!」


 咄嗟にチョコエルフに駆け寄り様子を確認するも、完全に気を失ってしまっている。出来れば包囲を抜けるまで手伝って欲しかったものの、アタシが転倒させられほぼ詰んでいた状態を救って貰った事には間違いない。

 アタシは気絶したチョコエルフに感謝しつつ、ゴブリンの方を振り向き瞬時に状況を再確認する。


(後ろのチョコエルフは気絶中、左前方のゴブリンはまだ何体かこっちに来そう、左屋根上の弓ゴブリンは射撃体制、右前方のゴブリン達はさっきの風の刃で大半が転倒中、右の弓ゴブリンはチョコエルフが倒した、そんで真ん中に少し隙間がある!)


 -ヒュンッ-


 考え終わると同時に、左屋根上の弓ゴブリンが矢を放つ。


(この矢を防げば!)


 -カンッ-


 アタシは左腕の盾で矢を弾き落とし、すぐにチョコエルフを抱きかかえ前方中央のゴブリン達目掛けて走り出す。


(真ん中だ!)


 -ドドドドド!-


「ギギィッ!?」


 アタシが攻撃してくると思ったのか、武器を構えるゴブリン達。アタシは構わず全力で地面を蹴り、空中に飛び上がる。


「だああああーっ!」


 -ドンッ!-


「りゃああああーーっ!!」


 アタシはチョコエルフを抱えたまま中央のゴブリン集団の頭上を飛び越える。下にはアタシを見上げるゴブリン達が見える。


 -ダダァンッ!-


 伸ばした脚を縮め衝撃を軽減しつつ地面に着地する。それでもアタシと抱えているチョコエルフ合わせて二人分の衝撃は大きかったのか着地音が周囲に鳴り響き、アタシの足はジーンと痛む。


(くぅ~っ、脚痺れる~っ!だけど包囲を抜けたっ!)


 アタシはおおよそ8メートル程度の距離を跳び、ゴブリンの包囲を抜けた。この隙に村の入り口から脱出するつもりだ。アタシは着地の衝撃で痺れる脚に我慢しつつ、立ち上がろうとした。その時、


 -ヒュンッ-


 しゃがんだ状態のアタシの頭上、髪の毛を矢が掠めて飛んで行く。今まで石壁で死角になっていた3体目の弓ゴブリンが近くまで移動してきていたようだ。


(あっぶな!完っ全に立ち上がるところを狙ってたなアイツ!)


 一寸早く立ち上がっていたら後頭部に矢が刺さっていたと考えると冷や汗モノだ。とは言え、このまま留まっていたら今度こそ撃たれる。


「ゲギャッ!?ゲゲーッ!」

「ゲゲゲーッ!」


 案の定、振り向くと後ろのゴブリン達がアタシ達を逃さんと走り寄ってくる。追いつかれる訳にはいかない。アタシは気絶したままのチョコエルフを落とさないようきっちりと抱えて立ち上がり、全力で村の入り口に向けて走った。


 -ドドドドドッ!-


「このまま逃げ切るっ!うおおーーっ!」


 走って間もなく、村の入り口が見えてくる。


 -ヒュンッ-


 村の入り口手前でまた矢の風切り音が聞こえたが、アタシ達には命中しなかった。弓ゴブリン達とはそこそこ距離が開いたらしく、射程外なのか狙いが定まっていない。

 アタシはそのまま村の入り口から村を脱出する。だが振り向くと後ろのゴブリン達はまだ追いかけて来ている。


「ゲャギャーッ!」

「ギャギーッ!」

「しつっこいんだよ!お前らっ!」


 アタシは全力でメグの居る砂浜へ走る。目指すは砂浜の桟橋に泊めてあるボートだ。


(ボートで沖へさえ出ちゃえば、流石にあいつらも追って来られないハズ!)


 アタシは全力疾走を続ける。流石に人一人抱えたまま全力で走るのはキツく、息が上がってくる。


「はぁっ、はぁっ」


 だが振り返ってゴブリンとの距離が大分大きくなっているのに気づく。


「はぁっ、はぁっ、んぐっ、ははっ」


(あいつら小さいからか知らないけどやっぱ足遅いな、これなら逃げ切れそう)


 距離が空いて心に余裕が出てきたのか、アタシは軽く笑い、走る速度を少し抑える。そして走りながら抱えているチョコエルフの観察をした。


(耳長いし髪は赤いし肌はチョコレート色だし、目はさっき見た限り確か水色だったかな。傷さえ無かったらホント美人さんなんだろうなあ)


 綺麗な赤髪に長い耳、水色の瞳にチョコレートの様な肌。気絶はしているものの、微かに呼吸をし、その腕にはボロボロの木の家で拾った緑の杖と剣がしっかりと握られている。抱える手足は柔らかくて温かい、彼女が生きていることを実感させる。

 アタシはチョコエルフの杖を見てチョコエルフが放った風の刃を思い出す。


(あれ魔法?だよね。杖がピカーっと光って風でスパスパっと凄い威力だった。助けるつもりが逆に助けられちゃったよ。それにしても気絶しちゃったのはなんでだろ?MP切れか何かかな?いやしかしホントにリアルエルフ拾っちゃったよ。メグにどう話せばいいやら)


「はっ、はっ、はっ」


 気絶したままのチョコエルフを見ながらアタシは砂浜へ向けて走りつづける。


(メグには悪いけど一旦島へ戻ってこの子の介抱しないと。とりあえず服貸してあげなきゃ。シャツは羽織らせたけど下が丸出しじゃいくらなんでもね。アタシの替えのパンツとジーパンがあったはず、ちょっとデカいけどそれは我慢してもらおう。アタシも着替えよ、ブラ丸出しはちょっとねぇ。あ、でも先にシャワー浴びたいかも。この子の汚れも落としてあげなきゃね)


 などと考えている内に砂浜が見えてくる。後ろのゴブリン達はもう見えない。流石にもう大丈夫だろう。

 そう思って走るのを止め、歩き出した時だった。


「きゃああああーーっっ!?」


(メグの声!?)


 砂浜の方からメグの悲鳴が聞こえてくる。その叫びには強い恐怖を含んでいる事を感じさせる。


「メグ!?」


(しまった!ゴブリンみたいなのがいるんだ、他にもモンスターが居たっておかしくない!メグを一人にするんじゃなかった!)


 今更ながらメグを一人で待たせた事を後悔する。アタシは砂浜へ向けて再び走り出した。

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