第34話 ドセ領ドグ
「それにしてもはっきり言いすぎよ」
馬車に揺られること数時間。俺たちは現在、次の十二貴族が支配するドセ領へと向かっていた。
「その割には止める気配がなかったけど?」
隣に座るシーラを俺は半眼で見た。
「だって、これまでもたくさんの人間を借金地獄に落として言うことを聞かせてきたんでしょう? 私もそんな人の下で働くの嫌だわ」
あれから、俺たちはべモンドに思っていることをぶちまけた。
そもそも、謀略を仕掛けておきながら失敗したからと言って士官をもちかけるというのは厚顔もいいところだろう。
そんなわけで一触即発、一時は護衛に剣まで抜かせたのだ。
「とりあえず、あそこにはしばらく近づけないな……」
領主はともかくとして娯楽場としての評価は良かったのだが、顔を真っ赤にして睨んできたべモンドを考えるとそれも難しいだろう。
「次の場所が変な考えを持つ領主じゃないことを祈っているよ」
俺は欠伸をすると、馬車の揺れに身を任せて眠りに落ちるのだった。
見渡す限りに緑が広がっている。道は舗装されているのだが、周りは柵でおおわれており、中では家畜がのどかに草を食べたり昼寝をしていたりする。
「バベル内の食肉の五割を補っているのがこのドセ領らしいわよ」
次に向かう場所についてミモザさんから聞いていたのか、シーラが俺に教えてくれた。
「へぇ、だからこんなに牧場だらけなのか。ああして働いている人を見ると、外の世界を思い出すな」
牧場や農場など広い敷地を必要とする家業は街の外でおこなわれる。
冒険者ギルドで街の外の仕事を受けた際に通りかかるのだが、その時にみた光景と今見ている光景は同じだった。
あのころが懐かしく思える。
毎日ギルドで依頼を受けて達成させて帰る。時々他の冒険者に絡まれたりもしたがいい思い出だった。
「それにしても、本当にそれぞれの領地で違うことをしているのね」
これまで見てきた領地はどれ一つとして同じ事業をしていなかった。
それぞれが得意とする分野を発展させ続ければ自ずと生活が豊かになる。バベルを安定させるため、自然とそのような役割分担をするようになったのだろう。
「バベルには十二貴族という揺るがない権力者とさらにその上には神王がいるからな」
十二貴族を統率する神が存在しているのも大きいのだろう。いずれこの世界の秘密を探る時には合わなければならない。
その時、シーラを巻き込んでしまっても良いのだろうか?
「ん、どうしたのピート?」
俺と目が合うと微笑み返してくるシーラ。
「いや、何でもない」
先のことは今考えても仕方ないだろう。俺はシーラに笑い返した。
「いやー、何もないところですみません」
あれから、無事に目的地へと到着した俺とシーラは、ドセ領を収める十二貴族の一人ドグさんの家を訪れていた。
「あー、いえ。別にそんなことは……」
ドグさんの言葉にシーラは困った顔をすると俺に助けを求めた。
「いや、自然を感じられるとても良い雰囲気の家だと思いますよ」
なぜなら、俺たちが今いるのはごく普通の一軒家だったからだ。
「すみませんね、牧場というのは手間の割には儲からなくて……。ところどころボロボロになってしまっているんですよ」
ドグさんは中年の男性で、背が低くお腹が出ている。裏表のなさそうな人当たりの良い笑顔を浮かべて俺たちを歓迎してくれていた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんにお姉ちゃん遊んでー」
周りには小さな子供が四人いて俺とシーラを囲んでいる。ドグさんの子供だと紹介された。
「あんたたち、お客さん疲れてるんだから。あまり迷惑かけるんじゃないよ」
恰幅の良い女性がテーブルに料理を運んでくる。ドグさんの嫁のネーナさんだ。
「すぐに夕飯にするから手を洗ってきなさい」
「はーい、ママ!」
子供たちはネーナさんの言うことを聞くとバタバタと手を洗いに走っていくのだった。
「食事美味しかったな」
ネーナさんの料理の腕もさることながら、新鮮な野菜と柔らかい肉や卵を使った料理は本当に美味しかった。
「隣の領地が農業をやっているらしくて、そこから届けられたらしいわ」
同じ生産業同士隣接しているようだ。その方が仕入れをする業者も助かるのだろう。
「それにしても、まさか貴族にあんな人がいるなんてな」
俺の勝手なイメージだが、貴族というのは利己的で他人を見下しており自分たちは裕福な生活を送っているものだった。
だが、ドグさんは日中は家畜の世話をしに牧場に出て働いているらしいし、ネーナさんは家事に子育てと大変そうだ。
「ピートが言っているのは主に城に詰めている貴族のことね。地方の領主さんなんかは人口が少ないから畑仕事もしているらしいわ」
――コンコンコン――
「お二人とも、お風呂の用意ができました」
俺たちが今いるのはバベルの外で俺が作った家の中だ。
家族六人だけでも狭そうだったので、頼み込んで外に設置させてもらったのだ。
俺が魔法で家を出すとドグさんもネーナさんも驚き、子供たちははしゃいでいた。
当然家の中にも風呂は用意されているのだが……。
「せっかく用意してくれたんだし入らせてもらおうか」
そう言うと俺たちは立ち上がり家からでるのだった。
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