プロローグ3

 狩人ハンター。冒険者の中でも一際何かを「狩る」ことに特化したジョブ。ゴブリンからドラゴンまで、広範囲の依頼をこなす者もいれば、自分の専門を決め、対象に特化した魔法しか習得しない者もいる。ただ、専門を決めてしまうと、パーティーには入りにくくなるし、何よりそれが希少な種族――ドラゴンもしくはデュラハン、ましてやヴァンパイア――なら金にならない。故に、飛びぬけた実力を持っている人間か物好きの阿呆しか専門を決めることはない。前者はいい、実力と才能があればその業界でトップに立つことも夢じゃない。それに対して後者はハンターを名乗っているだけで、本当は別のジョブである可能性が高い。彼らにあるのは、肩書をハンターとしてまで何かを「狩る」という熱意。エリオット=ピエトリアもその内の一人だった。



「金が……ない。」


 財布をひっくり返して出てきたのは銅貨が二枚と紙の切れ端、それにどこのものか分からない硬貨。アランはくたびれた財布を放り出し、ガタついた玄関ドアを勢いよく開ける。

 特に金策があるわけではない。ただ、このまま働くこともなくボロ屋でだらだらとしていると碌でもない末路を辿るのは確実だった。


「仕事がないから金もない。ついでに働く気もさらさらない。ただ、野菜ジュースが飲めないのは困る。凄く困る。」


 アランは簡単にこなせそうな依頼がないか探すために冒険者ギルドへと足を踏み入れた。分厚い木の扉を隔てた向こうから、いつもの喧騒が聞こえてくる。依頼前か依頼後なのか、泥酔している男達。痴話げんかを起こしているパーティー、それを冷やかす野次馬達。まだ午前中だというのに漂ってくる濃い酒の匂いに顔をしかめながら、アランはクエスト掲示板へと向かった。

 依頼クエスト。個人もしくは団体から舞い込んだ依頼は、冒険者ギルド中央部に位置する掲示板に張り出される。両手の平より大きな紙を受付にもっていけば受付完了となる。クエスト難度は様々だが、この街に舞い込む依頼でそう難しいものはない……パーティーを組んでいるのなら。


「…………ませんか?」


 アランはパーティーを組んでいない。その理由は色々あるが、まぁ今後も組む予定はないのだから、それを気にする必要は無い。幸い、一人でこなせる依頼もたまに掲示板に張り出される。まったく、ぼっちに厳しい世の中になったものだ。


「……組みませんか?」


 掲示板を見る気が散る。それはさっきから視界の端でちらちら動くものがあるからだ。そこでようやくアランは隣でせわしなく動く何かの方を向いた。そこに居たのは小柄な少女。アランが自分の方を向いたことを知った彼女は開口一番こう言った。


「私とパーティーを組みませんか?」

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