第35話 皆で就寝した

まえがき


本日二度目の投稿です


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流石に顔が真っ赤になった私と紅葉は、無言で服を着て脱衣所を出た。


寝室に入ると、愛弓さんがどうだ!と待ち受けていた。

紅葉のアホの家は愛弓さんと一緒に寝るためにベッドが一つしかないが、愛弓さんの寝室には一つのベッドと三枚の布団があった。


青葵がすぐさま、「私下で寝るんで、先輩方はベッドで寝て下さい」といった。

そのベッドと布団では布団が格下のような言い方には問題があると思ったが、私もベッド派なので何も言えなかった。


するとすぐに愛弓さんが「えー私達だけ仲間はずれ嫌なんだけど!」と反対した。

「…じゃあ、私がベッド行きましょうか?」瑞羽ちゃんが聞くと、愛弓さんは「仲間はずれ!駄目絶対!」

と反対した。


「じゃあ、家主やぬしである愛弓さんはどうしたいんですか?」と聞くと、「全員で布団!」と即答されてしまった。


そういうことで、私達は全員で布団に寝ることになったのだった。


上座(かみふとん?)から紅葉、愛弓さん、私、瑞羽ちゃん、青葵の順だ。


布団の中に入っても愛弓さんは全員に聞こえるように話し出す。

「いやぁ、今日は楽しかったね。今度は青葵ちゃんの家で泊まろう」


「愛弓さんの家に比べたらほんとしょぼいんですけど、準備しときます」

「準備とかいいって!てかさ、『メトロトレミー』の放送始まったら、皆でTwitterで実況しよっ!」


「まだ決まってないですけど、多分深夜ですよね。あの出来じゃ」

「うん!だから毎週お泊りね」

「いやいや、集まるんだったら何のために実況するんですか?」


「実況もなんでも、集まった方が楽しいって絶対」

「いやまあ。そりゃそうだけど」


「…マジで楽しかったす。今日」

「そういえばさ、青葵ちゃんはなんで引きこもってるの?」

「最初は背高いかなんかで虐められて、小学生の時からサボりがちだったんですけど、中学の頃からすげーゲームとかにハマっちゃって。一応中卒認定は取れたんですけど、通信制高校の単位も今は危ないス」

「通信制なのに!?」


「なんか、もう金稼げてるし中卒でいいんじゃねえかって」

「ああ、まあ。それならもういいんじゃない?」

「先輩方は、進学どうするんスか?」

「するよ。進学」

愛弓さんが答えた。


「あんま勉強とかしてなそうスけど」

「それ私達だからいいけど、他の高二に絶対いっちゃ駄目だからね。皆デリケートだから…」

「…さーせん」


多分愛弓さんも紅葉さんもやることはやっている。というか青葵め、本来高一も進学を考えているなら本腰入れて勉強しなきゃいけない時期なんだからな。


「あれスか?やっぱり、紅葉さんと愛弓さんは一緒の大学に行くんですか?」


青葵にデリカシーがないのか、これが距離の詰め方なのかは分からないが、心臓に悪いからやめてほしい。


「…かもね」

紅葉さんが言った。

「…一緒にいられたらいいけどね」

愛弓さんが応じる。


結局のところ二人ともお互いの事を真に想っているのだ。

紅葉さんはお風呂で、愛弓さんを私が縛っていていいのかと自問していたが、同様のことを愛弓さんも思っていたのだろう。


紅葉さんは行動によって愛弓さんの自由を縛り付けているが、愛弓さんはその魅力と優しさで紅葉さんを縛り付けている。


それこそ、愛弓さんがもう少し強く拒絶できてさえいれば弱気な紅葉さんは簡単に去ってしまうだろう。

一緒にお風呂に入らないだけであんなにショックを受ける紅葉さんは、愛弓さんがそれだけ紅葉さんを拒絶して来なかった証拠だろう。


…まあ、ここにいる人たちは私含め全員メンヘラみたいなもんか。


青葵のデリカシーがあまりにないので寝る前の楽しいお喋りタイムは終わってしまったのだが、寝静まった愛弓さんの掛け布団うえから、紅葉さんが手を伸ばしてきた。


どうやら、手を繋ごうということらしい。

まあ、大学で愛弓さんと離れるのが不安で仕方ないのだろう。

そして、離れ離れになるべきだと言ったのも私である。


仕方なく、愛弓さんを起こさないように手を伸ばす。私の横の瑞羽ちゃんにも迷惑が掛かりそうなので、端っこで寝ている紅葉さんにはかなり無理な向きで手を握ってもらうことになった。


ほんと指長いなぁ。音楽やってる人間の指って感じがする。まあ他に音楽やってる人間の手なんて握ったことないけど。


「ねえ」

息遣いの混じった、とても小さな声。


「紅葉、音ちゃんに取られちゃったね」

愛弓さん、起きてやがった。


私も小さく「取ってません」と返した。

愛弓さんがクスっと笑う。


その笑みに、何か含みを感じた私は瑞羽ちゃんを起こさないように愛弓さんの方をよく見てみた。

彼女の身体は紅葉さんに完全に背を向け、私の方を見ていた。


青葵とか紅葉が芸術品のような美しさだとすると、愛弓の美しさは少女漫画のヒロインのようだといえるだろう。


そんな愛弓の右手、身体の下敷きになっていない方の手は、私の頭上に不自然に伸びていた。


瑞羽ちゃんの方を確認すると、瑞羽ちゃんの手も愛弓さんの方に伸びていた。二人の手は、強く結ばれている。


こりゃあ、風呂で何かあったな。

突っ込もうとも思ったが、瑞羽ちゃんはもう既に眠りに落ちていた。


もちろん、こういう時の愛弓さんは本気じゃない。

瑞羽ちゃんのことも私のことも、どっちもからかっているのだろう。


私は愛弓さんに言った。

「青葵が仲間はずれになってますよ」

「任せて!」


愛弓さんは瑞羽ちゃんを起こさないように手を離すと、布団からするりと抜け出していった。

しばらくすると「なんスか急に…」という声が聴こえてきた。おそらく愛弓さんが青葵の布団に入ったんだろう。


瑞羽ちゃん以外全員起きてんじゃねえか。

愛弓さんがいなくなったことで、紅葉さんと目があった。


紅葉さんもスペースが空いたことで向き合える余裕が出来たのか、横向きになって私を見つめる。


紅葉さんも、私が気にしてこなかっただけで、色々考えているんだろうな。


愛弓さんも紅葉さんも、お互い変わらないといけないと考えているようだが、やはりどちらから変わるべきかというと紅葉さんになるんだろう。


私と紅葉さんの間には、ぴったり愛弓さん一人分の距離が空いている。ここで話せば、きっと声は他の人にも聴こえてしまうだろう。


だから、大丈夫ですよ。という念を込めて手を強く握った。


次の日、愛弓さんに、二人が手を繋いだまま寝ていたせいで布団に入れなかったと怒られてしまったのだった。


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あとがき


犬のイメージでキャラの紹介!

小園井音=柴犬 見た目は真面目だけど実際はそんなことないところとか

播川瑞羽=ポメラニアン ちっちゃいのに自信は常に満ち溢れているところとか 

秋窪紅葉=ドーベルマン シャキッとしているところと、認めた人間以外に打ち解けづらいとことか 


残りの中田愛弓とか在野恵実とか沖宮青葵とかはまたの機会に…


☆くだちゃい…。

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