第60話 王都 サンミドル
「凄いですねー、相当広いですよー」
「さすが王都と言ったところかな」
「……あんま変わってねぇな」
「ま、そうそう変わるもんじゃないだろ」
皆一様にそれぞれの感想を口々に呟いていた。俺はそんな彼女らを横目で眺めつつ、頭につけてある鬼のお面を擦りながら辺りを見回していた。
――これが王都か。
そう。俺たち一行は――王都、サンミドルに来ていた。
☆ ☆ ☆
「で、こっからどうするんだ?」
適当な店に入り、席に着くと俺は早々に話を切り出した。
「おいおい、先に注文しようぜ」
「あー、じゃあお茶を一つ」
真緒を適当にあしらいつつ、目で話を促した。ナツミさんはそれを受けると、懐から一枚の紙切れを取り出し机の上に置いた。
「これは……?」
「見ての通りだ」
見ての通りだって言われても……。
と、デカデカと色彩豊かな色で描かれた『武闘祭』の文字と、騎士やら武闘家らしき人物の絵。見たところ力を競い合う大会らしいが……。
「……つまり、御幸と啓大がこれに出るのか?」
今回この王都に訪れた理由は、鳥井 御幸と吉岡 啓大との接触。そんな状態で見せてきたのは大会のチラシ。それらの情報を整理しつつ、妥当な案を尋ねてみる。
「ああ。ま、吉岡の方はどうかは知らないけどな。結構調べたが、ここ最近の足どりが全く掴めねぇ」
ガリガリと頭を掻きつつ、苛立たしげにそう言うナツミさんを、俺は目を丸くして見つめていた。
「……? どうした? 変な目をして」
「いや、なんでもない」
「そうか」
ナツミさんでも、分からないことはあるんだななんて、そんな当然なことを今更気づいたなんて言えるわけが無い。幸い、これ以上言及されなかったので、少しばかり強引ではあるものの話を進めた。
「なら、御幸は出るってことか。啓大は……一番最近の情報はどこだ?」
「まあ、ここだな。この王都のスラム街に住んでいたらしい」
「となると……二手に分かれるか?」
そう聞いてみると、彼女は顎に手をやり考え込む。
「……まあ、そうだな。とりあえず、これにエントリーするやつを決めるか」
話が纏まり始めると、唐突に真緒は話に割って入ってきた。
「つーか、御幸のやつの居場所わかってんなら、わざわざこんな事せずに会いに行けば良くね?」
「いや、それが無理だからこの大会の話が出たんだろ」
諭すように言うと、ナツミさんは軽く手を挙げていやと俺の言葉を否定した。
「合法じゃなくていいなら、方法はある」
「あんのかよ」
ある程度の軽犯罪なら、俺と真緒は特に気にしない。逃げ切る自信はあるし。
自身の満ちた目で続きを促すと、呆れたように嘆息して口を開いた。
「城に忍び込むんだよ」
「はいオッケー。大会に出るか」
「それしかねぇか」
案を聞いた途端俺と真緒はチラシの要項に目を通す。と、そこで「うん?」と真緒は何かに気づいたかのように声をあげた。
「そういや、なんで御幸のやつに会うために城に忍び込むんだ?」
ああ、確かに。
言われてみればそうだったと思い、ナツミさんの方へ視線を向ける。元魔王軍幹部だってことがバレて捕まってるのだろうか。いや、会うために大会に出ろと言うのだから、捕まっているわけではないか。
色々と考えていた俺だったが、ナツミさんの口から発せられた言葉は予想外だった。
「あいつは今、ここの騎士やってんだよ」
「は!? 騎士!?」
「うん。副団長」
「副団長っ!?」
おいおいおいおい。御幸さんの変わり身凄すぎない? 数年前まで敵だった集団のトップとか……そしてそれを採用する騎士団って……。
「ってか、御幸が騎士団か……」
「気高く〜とかのノリはあいつに似合ってるよな」
「確かに」
華美な鎧に身を纏っている美青年の姿を思い浮かべると、存外様になっているなと苦笑する。
元魔王軍だとか、色々と問題はあるものの実力は折り紙付きだ。戦闘能力を正当に評価されたのであれば、副団長という地位にも納得がいく。
「ま、その大会で会えるんならいいや。問題は、足どりが掴めねぇ啓大か」
「あいつに関しては、あたしに任せろ。戦うよりは向いてるし」
真緒がボヤくと、ナツミさんがそれを拾う。
「つーことは、わたしと兄ちゃんが大会に出るのか?」
「ま、そうなるわな」
真緒の言葉に、当然とばかりに俺は頷いてみせた。その時、それを見たナツミさんが、ビッと指を俺の横へ向けて何かを指示してきた。指さす方向を見てみると、そこには会話に参加せずぼーっとしていたレイとセシルの姿があった。
「念の為、保護者としてレイを連れてけ」
「保護者って……」
「お前らには必要だろうが」
「否定はしないけれども」
はははと苦笑しつつ渋々頷く。まあ、真緒はよく暴走するし俺はそれに感化されるしで……うん。
「つーことは、なっちゃんとセシルで啓大を探すっつーことか?」
「ここにいるかは決まってない以上、そんなに人手を増やさなくてもいいだろ」
確実にいるとわかっている方とわかっていない方、どちらに人を投入するかは明らかだと言うことだろうか。……他にも理由はありそうだけれども。
「じゃ、わたしと兄ちゃんとレイ、そっちはなっちゃんとセシルってグループで行動するってことで」
真緒がそう話を締めくくると、ちょうど料理が運ばれて来るところだった。
☆ ☆ ☆
「うへー。でっかいなー!」
大会会場前までやってきた真緒は、目をキラキラさせて興奮していた。
「あんまはしゃぎすぎんなよー」
念の為声をかけると、「へいへーい」と上機嫌な声と共に大きく手を振ってくる。俺はそれに軽く手を振り返していると、ふっと短い吐息が隣から聞こえてきた。
「どうした?」
それが気になりふと横を見ると、微苦笑を浮かべるレイの姿があった。
「なんか、大きな子供みたいですねー」
「まあ、確かに」
そう言われるとそんな風に見えてきた。
「ん? どうしたー?」
立ち止まった俺を見て訝しんだのか、ぶんぶんと大きく手を振ってきた彼女に対して、悪い悪いと手刀を切りながら足を進める。大きな子供と言われてみれば、なんだか変に大きな身振り手振りも可愛らしく見えてしまう。
「うーむ、幻覚か……」
「……どうかしたんですか?」
ポロッとこぼれ落ちた声が聞こえてしまったのか、レイからも訝しげな目を向けられた。
「いや、ほんとに何も無いから。うん」
「そうですか……」
「そんなことより、パパっとエントリーすませようぜ!」
誤魔化すように早口でそう捲し立て、会場の受付まで小走りで向かう。石レンガで建てられた円形型の建物は、周りの家やら店とは違い、物々しい雰囲気を醸し出していた。
受付の周りには、あまり人は居らずシンと静まり返っていた。受付をのぞき込むと、ぼーっとしていた係らしき人がハッと我に返り笑顔を貼り付ける。
「こんにちは! エントリーですか?」
「……え、ええ。まあ……はい」
こくこくとしきりに頷くと、受付の青年は笑顔のまま一枚の紙をスっと渡してきた。
「あ、すみません。彼女も参加するので、もう一枚貰えますか?」
未だにはしゃいでいる真緒を指さしながらそう言うと、青年は「少々お待ちください」と断りを入れ、ガサゴソと十数秒探すと似たような紙をもう一枚見つけ出した。
「ではこちらを」
「ありがとうございます」
真緒へ手招きをしてこっちへ来いと伝えると、俺はさっさと紙に名前やら職業やらを記入した。そして真緒が書き終わるのを少し待つと、二枚の紙を重ねて受付の青年に渡す。
「はい、確かに。では、武闘祭は来週ですので、時間になりましたら、受付でこれを見せてからご入場ください」
そう言いながら、カードを渡してきた。俺たちはそれを受け取り、ほーんとかはーんとか呟きながら透かしたりとカードを一通り眺めて懐にしまった。
「……んじゃ、これからどうする?」
今できることは一通り終わったので、これからどうするかと質問を投げかけた。
「自由行動でいいんじゃね?」
いかにも適当に言いましたといった態度の彼女の返答を、少しばかり黙考してまあそうだなと頷いた。
「よし。夜まで各自自由行動ってことで!」
「オッケー! よし、レイ、行くぞ!!」
「うぇ!? ちょ、ちょっと待って!?」
真緒に強制的に連れ去られるレイの姿を眺めながら、俺はそっと心の中で合掌するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます